爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第八十八話 オーネラ(2004年12月26日掲載)

【出雲弁】

「暦も、残りが、ちょんぼしん、なーましたがねー」

「一年が、あっちーまだがのー」

「ことしゃ、だれんだい、暦、持ってこらいませんじね」

「暮れになーと、酒屋のオジジが、持ってきちゃったねのー」

「あしこも、わけしに、ならいてから、あいそがわり、なーましたがねー」

「盆にも、なんだい、持って来てだなかったのー」

「うちわのふとつなと持ってこらよからに」

「だども、掛け取りほどは、しゃんしゃん回ってだじ」

「オジジ。酒屋のつけが、えらい、よけあーましたじね」

「そげか」

「あげん、ほーらちに飲んでまったてて、とーたもんだ、あーませんがね」

「どこぞ、オーネラどま、おらせんかや」

「そげいわ、キンカアタマのオートラがおーますわ」


【共通語訳】

「暦も残りがわずかになりましたよねー」

「一年があっという間だよなー」

「今年は誰も暦を持って来られませんね」

「暮れになると、酒屋のお爺さんが持って来られたのにねー」

「あそこも、若い人になってから、愛想が悪くなりましたよねー」

「盆にも、何にも持って来られなかたねー」

「うちわでも持って来ればよかろうに」

「そうだけれども、掛け取りだけはしっかりと取りに来られるよ」

「お爺さん。酒屋のつけがたくさん有りましたよ」

「そうかい」

「あんなに、飲み放題に飲んでもらっては、たまったものじゃありませんよ」

「どこか、大きなネズミでもいるんじゃないかい」

「そういえば、はげ頭の大きなトラがいましたよ」


(解説)
 半世紀前、よく利用する商店から盆にはうちわ、暮れにはカレンダーなどが配られていました。また、代金を米で支払ったり、年末に1年分の支払いを行うなど、のんびりとゆったりとした時代でした。

(参考)
オーネラは大きなネズミで、小さいネズミはコネラです。岐阜県、愛知県岡崎市、鳥取県などでも使われています。和歌山県では白い大きなネズミという意味だそうです。同じ言葉でも地域によって違う意味で使われていることがあります。

(奥野栄)

 

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