爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第八十九話 あんぷく(2005年1月10日掲載)
【出雲弁】
婆「晩飯にしますけん、飯台(はんだい)だいてごしなはいね」
爺「きょうは、えらい、さみのー。コタツねさこい」
婆「なに言っとらっしゃら。雑煮がこぼれたら、どげしなはら」
爺「なんだー。また、もちかやー」
婆「まんだ、えっぱいあーますじ」
爺「孫らちが食い盛りだけんてて、よーけ、ついただけんのー」
婆「おちらちの、ちょべこら、なんぼでも食いましょったにねー」
爺「そーだども、一斗二升は、よけだったわのー」
婆「隆史や奈緒美らちゃ、えっと食ったてて、あんぷく、しとーますけんね。オジジ。せわやいて、食ってごしなはいよ」
爺「おらは、かわきやまいだけんのー。あげん、くゎせーだねがや」
婆「あらら、そげでしたね。ほんな、今夜から晩酌止めましょかね」
爺「ババ。さ、ね、じ」
【共通語訳】
婆「晩ご飯にしますから飯台(はんだい)を出してくださいね」
爺「きょうは随分寒いねー。コタツで食べようよ」
婆「何を言っているの。雑煮がこぼれたらどうするの」
爺「なんだー。また、もちかーい」
婆「まだ、もちがたくさんありますよ」
爺「孫たちが食べ盛りだからといって、たくさんもちをついたからねー」
婆「私たちの小さいころは、いくらでも食べましたのにねー」
爺「そうだけれども、一斗二升のもちは多すぎたよなー」
婆「隆史や奈緒美たちは、たくさん食べて、もう食べられないようですよ。お爺さん。がんばって食べてくださいね」
爺「おれは糖尿病だからねー。そんなに食べさせるんじゃないよ」
婆「あらまあ、そうでしたね。それじゃ、今夜から晩酌は止めましょうかね」
爺「お婆さん。それはないよ」
(解説)
もちは正月、祭り、お祝いごとなどに欠かせない縁起物で「あもち(あんもち)」もありました。昔はおやつが少なく子どもたちの好物でした。
(参考)
「あんぷく」は、もちなどの食べ物を腹いっぱい食べたときに使います。大原郡や簸川郡など限られた地域で使用されている出雲弁かもしれません。
「さ、ね、じ」は「それは、ない、よ」という意味で、三音で文章ができています。「さ、そ、か(それは塩かい)」、「か、か、か(これはカかい)」などもあります。
奥野栄