爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第九話 じょーとやん(9月9日掲載)


【出雲弁】

「おい、ババ。よそは、へ、稲刈りしちょらいが、おちん、わけもんは、どげしちょーかいの。」

「よんべも、会社の飲み会だてて、ぐでんぐでんで、帰らっしゃって、あやくちゃが、あーせだったが。どーしぇ、頭がえてけん、てて、ちーはんまでは、起きてこせんじね。たいげ、せたもんだわ。おかさんも、よー、我慢しちょってだじね。」

「あい、け、ほんね。えまどき、コンバインだないと、稲刈りはできん、てて、いーだけん、農協の銭、はたいて、買ってやったに、どげしゃもねやちだの。」

「おっその、わけしは、会社が終わーと、まっすぐ帰って、庭に水まいちょらいに。おちん、わけもんは、じょーとやん、だけん、飲み会に誘わいても、ことわーこと、知らんはで、たんびに、飲んで帰らっしゃーじね。オジジ。ちた、言って聞かせてやって、ごしなはいよ。」

「ババ、そげ、いわっしゃーな。勤め人は、付き合いちーもんが、あーわや。」

「なに、いっちょらっしゃら。飲んべえの、おまえさんに、頼んだが、間違いだったわ。」


【共通語訳】

「おい、お婆さん。よそは、もう、稲刈りをしておられるが、わが家の若い者はどうしているのだろうか。」

「夕べも、会社の飲み会だと言って、ぐでんぐでんで帰ってきたが、あやがなかった。どうせ、頭が痛いといって、お昼までは起きてこないよ。お母さんもよく我慢をしているよ。」

「ああ、もう、本当に。今どき、コンバインでないと稲刈りはできないというから、農協の貯金をはたいて買ってやったのに、どうしようもないやつだ。」

「うしろの家の若い人は、会社が終わるとまっすぐ家に帰って、庭に水をまいておられるのに。我が家の若い者は、ばかだから飲み会に誘われても断ることをしらないようで、しょっちゅう飲んで帰るよ。お爺さん。少し諭してくださいよ。」

「お婆さん。そう言わないでくれ。勤め人は付き合いというものがあるよ。」

「何言ってるの。飲んべえのあなたに頼んだのが間違いだったよ。」


(注釈)
 ジジもババも隣近所の稲刈り作業が気になって仕方ないようです。でも、”おちんわけもん”は、二日酔いでそれどころではないようです。

(参考)
 「じょうとやん」は「上等やん」と親しみをこめた言い方で、どことなく愛きょうのある憎めないばかです。また、同じ若者でも、わが家は「わけもん」、他家は「わけし」と区別して呼ぶことが多いようです。

(奥野栄)

 

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