爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第九十話 こざさら(2005年1月23日掲載)
【出雲弁】
爺「おーい、戻ったじ。おー、さむさむ・・・。水道管にコモまいといたけんの」
婆「だんだん、だんだん。去年は水道がしみて、えらいことでしたがねー。あらら、こざさらが、舞っとーますがね」
爺「そとは、がいに、ふぶいとーじ・・・。ババ。えらい、え臭いがしとーのー」
婆「今夜はフナのめそしーですけんね」
爺「寒ブナだねか。さ、ごっつおだのー」
婆「フナ屋のフデさんが、フナはえらんかてて、持って来らいましてね。もらいましたわ」
爺「さむときゃ、あちもんが、えっち、えがのー。ちょっこ、味見させてごいた」
婆「ちょこでしじね。おまえさんも、フナのめそしーねは目があーませんだけんねー」
・・・・・
爺「ちと、あまいやながのー。もちょんぼ、めそ、えたが、えだねか」
婆「煮つめら、ちょーど、よーなーましわね」
爺「シチリンの火が、ちと、のりことねか。どこ、どこ。おらに任せてみた」
婆「何、言っとらっしゃら。おまえさんに任せら、味見で、ななってしまーましがね」
【共通語訳】
爺「おーい、帰ったよ。おー、寒い寒い・・・。水道管にコモを巻いておいたからね」
婆「ありがとう。去年は水道がしみてたいへんでしたよねー。あらまあ、粉雪が舞っていますよ」
爺「外は吹雪だよ・・・。お婆さん。随分、いい臭いがしているねー」
婆「今夜はフナのみそ汁ですからね」
爺「寒のフナじゃないか。それは、ごちそうだねー」
婆「フナ屋の秀夫(ひでお)さんがフナは要らないかとって持って来られましてね。もらいましたよ」
爺「寒いときは熱い物が一番いいよなー。少し味見をさせてくれ」
婆「少しですよ。おまえさんも、フナのみそ汁には目がありませんからねー」
・・・・・
爺「ちょっと、あまいような気がするけどなー。もう少し、みそを入れたほうがいいじゃないかい」
婆「煮つめれば、ちょーどよくなりますよ」
爺「シチリンの火が少し弱いじゃないかい。どこ、どこ。おれに任せてくれ」
婆「何を言ってるの。おまえさんに任せたら味見でフナのみそ汁が無くなってしまいますよ」
(解説)
水道管の凍結防止対策はお済みですか。昨年は寒波で水道管の破裂が相次ぎたいへんでした。
子をまぶしたフナの刺し身、じっくり煮込んだフナのみそ汁、シラウオやアマサギとともに出雲地方の冬の味覚です。
(参考)
「こざさら」は、さらさらした粉雪で寒気が厳しいときに降ります。「こざさ、こざさら」は山陰地方で使われている方言です。
コモはムシロより粗く編んだワラの敷物です。元はマコモを使って編んだことからコモといわれているようです。
奥野栄