爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第九十二話 てご(2005年2月27日掲載)
【出雲弁】
爺「おーい、ババ。こっち、来てみた」
婆「はい、はい。なんですかいね」
爺「ぽかぽか日が当たって、気持ちがえじ」
婆「どこね、おらいますかね」
爺「縁側。縁側だわや」
婆「ほんな、ちょっこし」
・・・・・
爺「おまえ、なに持ってきてや」
婆「毛糸、ほどきましけん、てごしてごしなはいね」
爺「おいおい、さ、おらのセーターだがや」
婆「こないだ、洗濯したら縮んでしまいましたけん、ほどいてしまいましょや」
爺「あいけ、もちょんぼ、きらかともっちょったねのー。まんだ、さむときが、あーかもっせんじ」
婆「も、じき、のくんなーましわね。ちょんぼぐらい我慢しまはいませ」
・・・・・
婆「オジジ。手が止まっとーましじ。しゃんしゃん、うごかいて、ごしなはいよ」
爺「せっかく、おらおらと、日なたぼっこ、しとったねのー」
【共通語訳】
爺「おーい、お婆さん。こっちへ来なさいよ」
婆「はい、はい。なんでしょうか」
爺「ぽかぽか日が当たって気持ちがいいよ」
婆「どこですか」
爺「縁側。縁側だよ」
婆「それじゃ、ちょっと」
・・・・・
爺「おまえ、なにを持ってきたのかい」
婆「毛糸をほどきますので手伝ってくださいね」
爺「おいおい、それは私のセーターだよ」
婆「こないだ、洗濯をしたら縮んでしまいましたので、ほどいてしまいましょうよ」
爺「ああもう、もう少し着ようかと思っていたのになー。まだ、寒いときがあるかもしれないよ」
婆「もうすぐ、暖かくなりますよ。少しぐらい我慢してくださいよ」
・・・・・
婆「お爺さん。手が止まっていますよ。しっかりと動かしてくださいよ」
爺「せっかく、のんびりと日なたぼっこをしていたのになー」
(解説)
お爺さんは、お婆さんを呼ばなければのんびりと日なたぼっこができたと、残念そうです。でも、日なたぼっこをしながらお婆さんと仲良く毛糸をほどいています。もうすぐ3月、春はそこまで来ています。
(参考)
「てご」は「手伝い」という意味です。語源は手助けをする者、大工、土工、石工など下まわりの仕事をする者という意味の「手子(てこ)」です。室町後期の毛利隆元の自筆覚書きに「手子之者はしかと在吉田在城すへき哉の事」とあるそうです。
「首もちー」は首にもつる(巻く)ものでマフラーのことです。 「おらおらと」は「ゆったりと、のんびりと」という意味です。
奥野栄