爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第九十三話 よばー(2005年3月13日掲載)

【出雲弁】

「きょうは、え、なぎですがねー」

「そげだのー。あしこ、布団が、ほいて、あーが、だーかいのー」

「隆史ですわね」

「四年生だちーね、まんだ、よばーが、ぬけーかや。はちかしこと、ねだらかのー」

「オジジ。こな子も、気にしとーましけんね。けっして、いーなはなーよ」

「よんべ、火事の夢なと、見ただらかのー」

「さ、なんのことですかね」

「ちょべころのー。火事、けさかともって、ホースでシャーっと、水かけー夢みただー」

「ワッハッハ。そーで、目がさめーと、布団がぬれとーましたかね」

「そげそげ。はちかして、なかなか布団からでられでのー」

「そげいわ、昔、しーとさんが、いっとらいましたじね」

「なんだててや」

「おまえさんも、おそまで、やっとらいましたげなね」


【共通語訳】

「きょうは、穏やかな天気ですよねー」

「そうだねー。あそこに布団が干してあるけど、誰だろうかねー」

「隆史ですよ」

「四年生だというのに、まだおねしょをしているかい。恥ずかしくないだろうかねー」

「お爺さん。あの子も気にしていますからね。けっして、言ってはいけませんよ」

「ゆうべ、火事の夢でも見ただろうかねー」

「それは、なんのことですか」

「小さいころねー。火事を消そうと思ってホースでシャーっと水をかける夢をみたんだよー」

「ワッハッハ。それで、目が覚めたら布団がぬれていましたか」

「そうそう。恥ずかしくて、なかなか布団から出られなくてねー」

「そういえば、昔、しゅうとさんが言っておられましたよ」

「なにを言っていたかい」

「おまえさんも、遅くまでおねしょをしていたそうですね」


(解説)
 小学校高学年で布団に世界地図を書いた方もいらっしゃると思います。幕末の志士、坂本竜馬は12歳ごろまで「おねしょ」をしていたそうです。

(参考)
 「よばり」は「おねしょ」のことで高知県、愛媛県、山口県などでも使われています。日葡辞書(にっぽじしょ:1603-1604)には「Yobariuo(ヨバリヲ)スル、または、タレル」と書いてあり、400年前の京の都で使われていたようです。
 *日葡辞書は日本イエズス会が刊行した日本語を葡萄牙(ポルトガル)語で説明した辞書です。

 

奥野栄

 

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