爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第九十四話 だんだん(2005年3月27日掲載)

【出雲弁】

「ババ。ほんな、きょうは、湯ノ川で、泊まりだけんの」

「あげでしたね。川んこのおじじは、どげ、さいましたかね」

「腰がしゃんと、せでの。このたびは、やめてだが」

「あらら、のんべの、どしが減って、えけませんね」

「そげだがー。だども、飲み手は、ほかにも、えっぱい、おってだけんのー」

「わが年、考えて、ごしなはいね。あげん、あやのねほど、のんなはーなよ」

「おんおん。わかっとーが」

「オジジ。ちょっこ、待ってごしなはいよ」

「なんかや。も、でらな、えけん、時間だけんのー」

 ・・・・・

「これ、持って、いきなはいませ」

「こらまたなんだら。さ、銭だねか。だんだん、だんだん」

「こないだ、おかさんが、こつかい、ごしましたけんね。分け前ですわね」

「あしたんさま、目さまかいたら、葉っぱね、なっとーせんわの」

「減らず口ばっかたたいて。えらな、もどいて、ごしなはいよ」

「バスが、くー時間だけん、ほんな、行ってくーけんの。だんだん、だんだん」


【共通語訳】

「お婆さん。それじゃ、きょうは湯ノ川で泊まりだからね」

「そうでしたね。川向こうのお爺さんはどうされましたか」

「腰がしゃんとしなくてね。今回はやめられたよ」

「あらまあ、飲み友達が減っていけませんね」

「そうなんだよー。けれども、飲み手はほかにもたくさんいるからねー」

「自分の年を考えてくださいよ。あんなに、正体がなくなるなるまで飲むんじゃないですよ」

「はいはい。分かっているよ」

「お爺さん。ちょっと待ってくださいね」

「なんかい。もう、出なくてはいけない時間だからねー」

 ・・・・・

「これを持って行ってください」

「これはまたどうしたことだろうか。それはお金じゃないかい。ありがとう、ありがとう」

「このあいだ、お母さんが小遣いをくれたのでね。分け前ですよ」

「明日、目を覚ましたら葉っぱになっていないよな」

「減らず口ばかりたいて。要らないなら返してくださいよ」

「バスが来る時間だから、それじゃ、行って来るからね。ありがとう、ありがとう」


(解説)
 タヌキにとって葉っぱをお金に化かすのは簡単ですが、一夜明けると元に戻ってしまうそうです。
 湯の川温泉(斐川町)は因幡の国(鳥取県)に住む八上姫(ヤカミヒメ)が入り、いっそう美しくなったといわれる温泉で日本三美人の湯の一つとして有名です。

(参考)
 「だんだん」は出雲弁の代表格として親しまれています。大辞林(三省堂)には『「だんだんありがとう」の略。近世後期から京の遊里で用いられた挨拶語。』とあります。出雲地方のほかに愛媛県、熊本県、大分県、福岡市などでも「ありがとう」の意味で使われているそうです。

奥野栄

 

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