爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第九十六話 おちらと(2005年4月24日掲載)
【出雲弁】
客「あらら。も、こぎゃん時間になってー。たいへん、ごっつおさんになーましたね」
婆「えわね。も、ちょんぼし、はないてごしなはい」
爺「おばさん。久しぶりだけん、おちらとしてごすだわね」
客「だんだん、だんだん。おちも、オジジね、飯、食わせなえけませんけん」
婆「そげん、めったに来られんに、えですわね」
客「だんだん、だんだん。えらい、ながおりしましたねー」
婆「も、ちょんぼ、おざわきしてごさいらえねかーね」
客「いーはんじぶんに、お手間取らせましてね。だんだん、だんだん」
爺「おばさん、ちょっこ、まってごしなはいよ」
・・・・・
婆「おまえさん、手つけらいませんでしただけんねー。持って帰ってごしなはいね」
客「あいらー。えっと、ごっつおさんになーましたねねー。ほんな、じぎなしにまーますだわ。だんだん、だんだん」
爺「こっちこそ、だんだん、だんだん。皆さんに、よろし、いってごしなはいね」
【共通語訳】
客「あらまあ。もう、こんな時間になってー。たいへん、ごちそうになりましたね」
婆「まだ帰らなくてもいいでしょう。もう少し話をしてくださいよ」
爺「おばさん。久しぶりだから、ゆっくりしてくださいよ」
客「ありがとうございます。私もお爺さんにご飯を食べさせないといけませんので」
婆「めったに来られないのに、まだ帰らなくてもいいでしょう」
客「ありがとうございます。ずいぶんと長く居ましたねー」
婆「もう少し、話をしていただいたらいいのにー」
客「夕ご飯ごろに、おじゃまして、お手間を取らせましたね。ありがとうございました」
爺「おばさん。少し待ってくださいね」
・・・・・
婆「おばさん。菓子を食べられませんでしたねー。持って帰ってくださいね」
客「あらまあ。たくさん、ごちそうになったのにー。それじゃ、遠慮をせずに頂きます。ありがとうございました」
爺「こちらこそ、ありがとうございました。皆様によろしくお伝えください」
(解説)
爺と婆の家から客が帰るときの一こまです。出雲地方には出していた菓子を手早く包み客が玄関を出るまでに渡す習慣があります。
(参考)
「おちらと」はゆっくりという意味です。「おっちりと」「おっちらと」という地方もありますが出雲地方や鳥取県西伯郡では「おちらと」といいます。
「ながおり(長居り)」は長く居ること、「おざわき」は”にぎやか”という意味ですが、今回は話をするという意味で使っています。
爺「戻ったじ。茂さんとこ寄ったら、タケンコ、ごいちゃってのー」
婆「おまえさんもかねー。おちも、まーましたじね」
爺「もらーやんなーと、えっしょんなーがのー」
婆「ありがたいことですがね」
爺「ババ。ここ、タケンコの煮しめが汗かいとーじ」
婆「あらら。ほんな、捨てましょかね。まんだ、なんぼでもあーますけん、世話やいて食ってごしなはいね」
爺「しゃんこといったてて、毎日タケンコの煮しめで胃の調子がおかしんなーわ」
婆「きょうは、ちょこし、ちがーますけんね」
爺「ソサバでも出てくーかいの」
婆「タケンコご飯ですけん、えっぱい、食って、ごしなはいよ」
爺「なんだー、たいした、かわーせんがや」
婆「しゃんこといーと、バチばちがあたーましじね」
爺「おらは、タケンコねあたーやなわ」
【共通語訳】
爺「帰ったよ。茂さんのところへ寄ったらタケノコを頂いてねー」
婆「おまえさんもですか。私も頂きましたよ」
爺「もらうようになると一緒になるよなー」
婆「ありがたいことですよ」
爺「お婆さん。このタケノコの煮しめは腐っているよ」
婆「あらまあ。それじゃ、捨てましょうね。まだ、いくらでも有りますので頑張って食べてくださいよ」
爺「そんなこといったって、毎日タケノコの煮染めで胃の調子がおかしくなるよ」
婆「きょうは、少し違いますからね」
爺「塩サバでも出てくるかい」
婆「タケノコご飯ですから、たくさん食べてくださいよ」
爺「なんだ、あんまり変わらないじゃないか」
婆「そんなことをいうとバチがあたりますよ」
爺「おれはタケノコにあたりそうだよ」
(解説)
時季になるとあちこちからタケノコをもらいます。竹山を持っている人が冗談で言っていましたが、最盛期にタケノコを持って歩いていると人が避けて通るそうです。
(参考)
「汗をかく」は共通語で、表面に水滴が生ずる状態をいいます。出雲地方では食物が腐敗して表面に水滴が生ずる状態にも使います。
奥野栄