爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第九十八話 なおらい(2005年5月22日掲載)

【出雲弁】

「ナシビの花が、きはじめたのー」

「今年も、あっちこっちね分けてあげましょやね」

「ババ。捕らぬタヌキの皮算用(かわざんよう)に、ならんやねさなえけんがのー」

「おまえさんも、たいぎがらんこに、しゃんしゃん、水やってごしなはいよ」

「ワッハッハ。ナシビの花、みーちーと、昔、思いだいてのー」

「あいけ。また、その話ですかいねー」

「しゃんこと、いったてて・・・・・。ワッハッハ」

「おちが、嫁に来たときの話ですけん、も、さんでごしなはいね」

「だてて、あんまよけ花がきとーけん、間引かな、えナシビがならんてて、花、もしってだもんだ」

「おちゃ、町屋の生まれで畑やなんかしたことがねね、川掃除のなおらいだけんてて、飲んだ飲んだしとらいけんですわね」

「親の意見とナシビの花は千に一つも仇(あだ)がね、てていーがや」

「オジジ。ことしゃ、しゃんしゃん水やってごしなはいよ。きょねんは皮がかたて、えけませだったけんね」

「えまごら、おまえのほが、畑は、まいことつくってだだけんのー」


【共通語訳】

「ナスビの花が咲き始めたねー」

「今年も、あちこちに分けてあげましょうよね」

「お婆さん。捕らぬタヌキの皮算用(かわざんよう)に、ならないようにしないといけないよねー」

「おまえさんも、面倒がらずにしっかりと水をやってくださいよ」

「ワッハッハ。ナスビの花を見ると昔を思い出してねー」

「ああもう。また、その話ですかー」

「そんなこと言ったって・・・・・。ワッハッハ」

「私が嫁に来たときの話ですから、もう(そんな話は)しないでくださいね」

「だって、あんまり、たくさん花が咲いているから間引かないと、良いナスビにならないといって、花をむしってしまうから」

「私は町屋の生まれで畑なんかしたことがないのに、川掃除の慰労会だといって飲んでいるからですよ」

「親の意見とナスビの花は千に一つも仇(あだ)はない、というだろうが」

「お爺さん。今年は、しっかりと水をやってくださいよ。きょねんは、皮が硬くていけなかったからね」

「今ごろは、おまえのほうが畑は上手に作るからねー」


(解説)
 「秋ナスビ嫁に食わすな」は@秋口のナスビは味がいいから嫁には食わせるなA秋のナスビは体を冷やして毒になるから大事な嫁には食わせるなの二とおりの意味で、「ウリのつるにナスビはならぬ」は、平凡な親から非凡な子は生まれないという意味で使われています。 

(参考)
 「なおらい(直会)」は共通語で、神事のあと、神前にささげた神酒や供物をおろして行う宴会のことです。出雲地方では運動会、川掃除などの慰労会の意味でも使います。

奥野栄

 

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