爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第九十九話 おべる(2005年6月12日掲載)

【出雲弁】

「ババ。ササ取って来たじ」

「あらら。手、どげさいましたかね」

「ちょこのー」

「ちょこだ、あーしませんがね」

「ササ、取っとったら、キイチゴがあってのー」

「がいね、傷、しとらいますがね」

「クチナワが出て来たもんだけん、おべて、手、ふっ込めたら、トゲねふかかったが」

「オジジ。傷口、洗って来なはいませ。えんま、アロエ 取ってきますけん」

「たいしたこと、あーせんけん、えが、えが」

「オジジ。マモシだなて良かったですがね」

「おんおん、そげだがー。三軒目のおばさんが、マモシにかまいたは、きょねんだったかいのー」

「あげあげ。足、かまいたてて、言っとらいましたがねー」

「ダイコン足がカブみたいね、なっとったがのー」

「ワッハッハ。オジジ。しゃんこと、よそさん、えきて、いわっしゃーなよ」


【共通語訳】

「お婆さん。ササを取って帰ったよ」

「あらまあ。手をどうしました」

「ちょっとねー」

「ちょっとじゃないですよ」

「ササを取っていたらキイチゴがあってねー」

「随分と傷がありますよ」

「ヘビが出て来たものだから驚いて手を引っ込めたらトゲに引っ掛かってね」

「お爺さん。傷口を洗って来なさいよ。いまアロエ を取ってきますから」

「たいしたことはないから、いいよ、いいよ」

「お爺さん。マムシじゃなくて良かったですね」

「そうだよー。三軒目のおばさんがマムシにかまれたのは、きょねんだっただろうかー」

「そうそう。足をかまれたと言っていましたよねー」

「ダイコン足がカブのようになっていたよなー」

「ワッハッハ。お爺さん。そんなことをよそへ行って言うんじゃありませんよ」


(解説)
 ササ取りに行く途中でキイチゴを見つけてほお張ると、昔懐かしい味が口中に広がり、幸せな気持ちになりました。クサイチゴに対して木になるイチゴをキイチゴといい、バラ科で枝にトゲがあります。

(参考)
 「おべる」は「驚く」という意味で、「おびえる(恐れ驚く)」が変化したものです。同じ出雲地方でも「おっべる」「おびれる」「おべーる」などの言い方があるようです。クチナワは無毒のヘビ、マモシはマムシです。

 

奥野栄

 

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