形容動詞の変化

 「静かだ」「親切だ」「綺麗だ」「マメだ」「スマートだ」などの形容動詞についての出雲弁の変化をみてみる。

1.活用  静かだ(ダ活用)

  未 然 連 用 連用(過去) 終 止 連 体 仮 定
共通語 だろ
だっ なら
出雲弁 だら
なら
なだら
なから

(に)
だっ
なっ
なかっ
なら


2.変化と特色

(1)未然形 推量の活用

  「〜だろう」は用いられず「〜だら」「〜だらー」となるが、この推量形は多彩で「〜だらか」の他に「〜ならか」「〜なから」「〜なだらか」と言い方がある。

共通語 出雲弁
祭りは賑やかだろうね まつーは 賑やかだら
まつーは 賑やかなだら
まつーは 賑やかならか
まつーは 賑やかなから
あの人は 親切だろうか あのしは 親切だら
あのしは 親切なだら
あのしは 親切ならか
あいつは 元気だろうかな あいちゃ 元気だらかの
あいちゃ 元気なだらかの
明日も 凪ではないだろう 明日も 凪だねだら

 このように「〜なから」という言い方は否定形ではなく、「〜なかろう」で、共通語でいう「〜だろう」と同じである。否定推量形は「〜だねだら」(〜じゃないだろう)の形となる。


(2)連用形活用語尾が「〜に」の場合(静かに など)は例外なく「ん音便」となる。即ち、「静かになる」「静かになれば」「静かにしろ」などの連用形の「〜に」は「〜んなー」「〜んなら」と「ん音便」となる。

共通語 出雲弁
静かにしろ しずかせや
元気になって〜 げんきなって〜
貧乏になれば困る びんぼなら こまー
スマートにやればいいのに スマート やら えに

          
(3)終止形と「連体形+終助詞」

 出雲弁では「静かだのー」のように終止形をそのまま用いる場合と「連体形〜な+終助詞」の形になる場合との両方が用いられる。

共通語 出雲弁
たいへん静かだね えらい 静か
えらい 静かなね
あの人は 親切だよ あのしは 親切でや
あのしは 親切なじね
この花は 綺麗だね この花は 綺麗
この花は 綺麗なね


(4)否定形「〜だない」

 「〜だない」という言い方は出雲弁の特色で、他にも多くみられる。

〔形容動詞以外のケース〕

共通語 出雲弁
動くんじゃない 動くだない
そうではない そげだない

 形容動詞においても例外ではなく、連用形「〜で」はもちろんのこと、接続助詞「〜では」も「〜じゃ」も用いられず、否定形にはすべて「〜だない」が用いられる。

共通語 出雲弁
賑やかじゃない 賑やかだない
元気ではない 元気だない
綺麗ではない 綺麗だない


3.過去形にみる特色

(1)過去形「〜なった」「〜なかった」

 「静かだった」という共通語系とともに「〜なった」がほぼ全域で用いられる。また、東部では「〜なかった」という特殊な語形がみられる。この一見して否定形にみえる形が出雲弁における形容動詞の過去形の一つである。
 この「〜なかった」はあくまでも“平坦調”であり、通常の否定形のように「か」にアクセントは置かれない。この言い方は出雲東部(松江以東)にみられる(広戸惇「山陰の方言」)。

共通語 出雲弁
おばあさん元気でしたか おばば マメなったかね
おばば マメなかったかね(東部)
お祭りは賑やかでしたか まつーは にぎやかなったかね
まつーは にぎやかなかったかね(東部)
山の中は 静かだったよ やまん中は 静かなった
やまん中は 静かなかったで(東部)

(2)過去の否定形 「〜だなかった」(か にアクセント)。

 それでは「〜ではなかった」という過去の否定形は「〜だない」と同じく出雲弁特有の「〜だなかった」がほぼ全域で用いられる。

共通語 出雲弁
賑やかではなかったよ にぎやかだなかったでや
元気じゃなかったよ 元気だなかったわね
スマートじゃなかったよ スマートだなかったでや

 前述した東部における過去形「〜静かなかった」が“平坦調”であるのに比して、この「〜だなかった」は通常の否定形と同じく“か”にアクセントが置かれ東部でも用いられる。

金沢育司

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