横田弁「大蛇退治の昔話」
(横田町の有線で放送された「暮らしの中の方言」の一コマです)

 むかしむかし高天原ちーとこで 須佐之男命は にょーばんこをしごーしたりしてえけじごばっかしされたもんだけん 高天原からぼったくられてしまーて 出雲の国斐伊川のじんどおおもとの鳥上まで逃れてきちゃっただげな。

歩いちょったら 途中で川上の方から箸が流れてくーやつを見つけちゃっただがの。

ははーにんげがどこぞにおーわいとおもーてたったも奥の方へとめてえかっしゃったら じいさんとばあさんが一人のにょうばんこをかくすやーにして おいおいほえちょーとこへ出くわしちゃった ちーわけだ。

「お前ちゃーだーだかえ」ちーて聞かっしゃったら じいさんは「おらは大山津見神の子で足名椎 かかあは手名椎 娘は櫛名田姫ちー名前でございすが」「そげーかい えままたなしてそげねほえちょーだかい」「はえ 実はわしらにゃー初めは娘ん子が八人おーましたが 高志の国から八俣の大蛇ちーもんが毎年決まったやーねやってきて 娘らちを一人わて呑みこんで食うてえきますだがね そーでたったもおらんやーねなって えまこの子ほどがまんだ残されちょーますだども またあいつがやってくーやーな時季になってきて おぞーてえけませんもんだけん こげーして娘をかくすやーにして ほえちょーとこでございすがね」ちーただげな。


 話を聞いてから 命が「その大蛇てて どげななりをしちょーもんか」と重ねて聞いちゃったら じいさんは「その眼はほづきみたいね真っ赤で 胴体は一つだども頭が八つ尻尾も八つわてあーやーな化け物でございして その体にゃー苔と杉と檜が生えちょって 八つの谷八つの峰にもわたー程の大けなもんで 腹を見ーといつも血だらけでただれちょーます。そりゃーほんね おぞげなもんでございすが」ちーて答えただげな。

命は三人の顔を見ちょらっしゃったが「なんと そのかわいげな娘をわしの嫁にごすこたーできんだか」と急にいいちゃったもんだがの。

「そりゃー勿体無いことでございすが お前さんは一体どこのどなたさんでございますかね」ちーたとこーめが「わしは天照大神のおとどいで弟の須佐之男命 えんまかた高天原から降りてきたばっかしのとこだ」といわっしゃっただがの。

よーねおべはちけたふたーりは「そーがほんとーだとすりゃー飛びあがー程嬉しいことでございすわ どげぞ娘をもらーちゃってごさっしゃいませ」ちーて申し上げただげな。

そーからまず命は 姫を上等な櫛に化けさせてわが頭の髪に刺いてかくいてしまーてから ふたーりに「まず手間ーかけて飛び切り上等なつおい酒をこしらえっさい。

また 原っぱの真ん中に桟敷を作って その大巡りの塀おいに八つ程門口があーやーねしつらえちょいてから その門口みんなに台を置き そこへお前さんちが作った酒をひたひたと入れたはんどを それぞれに乗せちょくだじ。

絶対に大蛇が近寄ってくー筈だけん そいつをじっと待っちょってみっさい」と ここで大蛇退治の作戦を指示しちゃったわけだ。


 ふたーりはいわれたやーにこしらえをして待っちょっただげな。

あたり一面にええ匂いがすーもんだけん そーね誘われて八俣の大蛇がやって来ただがの。

置かれた八つのはんどにそれぞれが首ー突っ込んで 酒をガブガブ飲み始めただげなわ。

ほんにまげね腹いっぱい飲んだしこーで よーね酔うてしまーてからーに そのまんま横んなって やんがてたわいもなしに寝込んでしまーただがの。

 命は まいとこやったがな えまだと思うて十握の剣を抜いて 寝ちょる八俣の大蛇の傍へ駆け寄ったなり 大蛇をばらばらに切りこだくってやっつけてしまーちゃっただがの。

そーで斐伊川の水は 大蛇の血でよーね真っ赤に染まってしまーただげなわ。


 真ん中のしーごを切っちゃった時じゃった。

カチンちー音がして 命が振りおろいちゃった十握の剣の刃がこげただげなわ。

どげーしたことかいと こげた刃先で大蛇のしーごをたち割ってみちゃったとこーめがのー なんと刃がよー光って渦の模様のついた立派な刀が出てきただがの。

おべて手にとってみて 何ぞいわれのあー刀だなーとあれこれ思案した挙げ句 この大刀を天照大神に献上さっしゃっただげな。

この刀が三種の神器の一つで「天叢雲剣出顕之地」ちーて船通山の石碑に刻んであー天叢雲剣だっただがの。

名古屋の先の熱田神宮に そーがえまは草薙の大刀ちー名前に変わって ご神体として祀られちょーだげなわ。

横田町は神話の里だちーことを誇りにしちょーが そのことのもとは えま話いてあげたこの昔話だちーことがわかったわねえ。

こーでこっぽし。 

 

児玉敏郎

 

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