クラブの真実 U

〜祭り上げられた生贄〜


高校2年のある日の金曜日・・・


俺は放課後教室の掃除をしていた。

掃除が終わり、そそくさと帰る準備をしていた俺に誰かが「よっ!」っと、話かけに来た。

俺はその声の主を捜すべく教室内を見回し、教室の出入り口で視線を止める・・・

そこには先輩が立っていた。


先輩「お前がJ.Jやな?今日は掃除か?」

俺「はい・・・J.Jです。もう終わって帰る所ですけど・・・」

先輩「そうか。ちょっと話あるんやけど・・・時間あるか?」

俺「ありますけど・・・何の話ですか?」



この先輩とは話をした記憶はない・・・

顔くらいは見た事あるが・・・

知らないも同然の関係だ・・・

一体なんの用があるのか・・・

俺が不思議に思っていることを気にかける様子もなく話始める。


先輩「いや、大したことじゃないんやけど・・・明日土曜日で授業昼までやろ?授業終わってから時間あるか?」

俺「明日ですか?多分空いてますけど・・・」

先輩「よし!じゃ、明日授業終わったら職員室に来いよ!」

俺「え・・・明日職員室?何をするんですか?」

先輩「明日話するから。いいな。忘れるなよ。明日職員室で待ち合わせな!」

俺「はぁ・・・分かりました。」

先輩「手を止めてすまんな。もう帰ってくれていいぞ。」

俺「はい・・・」


先輩は用件を俺に伝えて何処かに行ってしまった・・・

何故見知らぬ先輩から突然明日職員室で待ち合わせを告げられるのか全く心当たりもなく、訝しげに思いながらその日は終わった・・・



そして翌日・・・



良く晴れていた。

授業が終わり俺は先輩との約束通り職員室の前に来た・・・

幾ら待っても先輩は現れない。

仕方ないので職員室を覗いてみる・・・

先生達が机に向かい何やら書いてたり、立って話したりと以外と賑やかだ。授業が終わり後は帰るだけだからだろうか・・・


先輩の姿はなかった・・・


何だか職員室は気分的に入るのは嫌だ・・・


入るのを躊躇してキョロキョロしていると、声をかけられた。



先生「どうした?」

俺「え?いえ・・・ちょっと先輩と待ち合わせをしてたんですが中に居ないかと・・・」

先生A「ここでか?そう言えばさっき生徒が来てたな・・・ちょっと待ってろよ。奥の部屋にいるかも知れない。」


そう言うとスタスタと奥に行ってしまった。

するとすぐに奥から先輩が姿を現した。


先輩「おぉ、遅かったな。」

俺「いや、職員室前で待ってたんですけど・・・」

先輩「あれ?そっか・・・それはすまん。とりあえず奥に来いよ。」


俺は言われるがまま職員室の奥の部屋に入る。


部屋の中には年季の入ったソファが2つ、向かい合うように置かれていた。


そして、先生が立っていた。


先輩「J.J来ました。」

S先生「えっと・・・J.J君?だったかな?」

俺「はい。J.Jです。」


何も聞かされていない俺は戸惑ったが、それを察したのかS先生はとりあえず俺にソファに座るように促した。

3人はソファに同時に腰掛ける。

向いに先生が座り、俺の隣に先輩が座る。


S先生「J.Jに何処まで話してる?」

先輩「いえ、まだ何も話してません。」

S先生「そうか。」

俺「あの〜、何の用事なんでしょうか?」

S先生「とりあえず、これから出かける。けど、時間も時間だし弁当持ってきてないだろ?」

俺「はい。持ってません。何処かに出かけるって、制服でいいんですか?」

先輩「学校の活動だからいいんだよ。」

S先生「とりあえず行くか。行きながら話しよう。車を校門前に着けるから待っててくれ。」

俺「え?車で行く程遠いんですか?どれ位でここに帰って来れるんです?」

S先生「5時までには帰れるだろう。」

先輩「いいから行くぞ。」


校門の前で待つこと5分・・・

白い乗用車が俺たちの前に停まる。


その車に無言で乗り込む・・・

俺と先輩は後部座席に座った。

走り始めたので、改めて俺は問いかけた。


俺「あのぅ〜・・・ところで何処に行くんですか?」

S先生「K市や。」

俺「K市まで行くんですか?またここからだと遠いですね・・・」

先輩「大丈夫、大丈夫。すぐに用は済むから!」

俺「何するんです?」

先輩「まぁ、まぁ!とにかく飯喰ってからや。」



どうしてそこまで話を引っ張るのか皆目見当もつかない・・・

何だかとても嫌な予感がする・・・

俺の不安をよそに飲食店に着いた。

3人は席に着き、注文を終えると俺は早く不安を解消させるべく早速本題に入る。


俺「それでK市に着いたら何をするんです?」

S先生「実はな、今度K市のJRのN線が廃線になるんだ。知ってるか?」


俺「知らないです・・・そうなんですか・・・」


S先生「それで廃線にあたって駅も潰れるから、写真に収めようと思ってな。
形に残すのもいいだろ?それに文化祭も近いから、出品しようとも考えてる。」


お待たせしました・・・と、店員が注文の品を俺たちの前に置いた。

それを食べながら話は続く・・・


俺「なるほど・・・目的は解りました。一つ聞いていいですか?」

S先生「なんだ?」

俺「どうして俺も行く事になったんですか?2人じゃ足りないんですか?」

S先生「荷物を運んだりしなくちゃ行けないし、こう言う歴史に触れる機会も中々ないだろ?良い勉強になるぞ。」

先輩「そうだぞ。それにこうやって外で先生との交流と言うのも中々ないぞ。おごって貰えるしな!こんな美味しい話ないぞ!」

S先生「おいおい。昼食だけだぞ。先生もお金ないんだから。」

俺「ここおごって貰えるんですか?すみません。しかし写真を撮る手伝いは俺でなくても良かったんじゃ・・・」


先輩「真面目な奴が行かないと折角の貴重な体験が台無しになってしまうだろ?それに手伝って欲しいのに、
ふざけたり、遊ばれても困るしな。しっかりした奴でないと。それでJ.Jが選ばれたんじゃないか。この先も色々頑張って貰わないといけないし。」


俺「そう・・・ですか?有り難う御座います・・・」

先輩「なんだ?納得いかなさそうだな。美味しいご飯が食えて、外に出れるし言う事ないじゃないか。」

俺「そうなんですが・・・」

S先生「あんまりゆっくりしてられないぞ。早い目に食べろよ。」


既に食べ終えた先生の空のお膳を見て、俺と先輩は慌てて食べた。

先生が食事の支払いを済まし、いよいよ目的の場所に向かった。


目的の駅を回り、先生の指導や駅にまつわる話を聴きながら撮影を順調に終え、帰路についた。


帰りの途中・・・


先輩「どうな?良かったやろ?写真撮影の楽しさも解ったか?」

俺「そうですね。撮影なんてしたことなかったし・・・良い勉強にもなりました。」

先輩「来た甲斐があっただろ?また、してみたくないか?」

俺「そうですね。外で活動も楽しいですからね。またやってみたいですね。」

先輩「そうか!やっぱりな!J.Jなら良さが解ると思ったよ!良かった!」

S先生「連れてきた甲斐があったな。最初来ないかとも思ったが、来てくれた上に楽しさも解って貰えて先生も嬉しいよ。」

俺「思ったより楽しかったです。今日は有り難う御座いました。」

先輩「月曜日に今日は撮った写真を持って行くから、また放課後残ってくれるか?用事はないか?」

俺「大丈夫です。楽しみにしてます。また職員室に集合ですか?」

先輩「いや、先生は忙しいから放課後また俺がお前の教室に行くわ。」

俺「いえいえ!俺が先輩の教室に行かさせてもらいます。」

先輩「いいって。それに俺が行く方が都合いいしな。」

俺「分かりました。では、お待ちしてます。」

S先生「行けなくてスマンな。」

俺「いえ・・・」

先輩「とにかく良かった、良かった。」


それからは皆疲れが出たのかあまり会話もなく夕方予定より若干早く学校に着き、挨拶を終えた後、家路に着いた。そして・・・


月曜日の放課後・・・


俺は先輩と小さな部屋に入った。

初めて入る部屋・・・

中は狭い・・・机は部屋の真ん中に一つ・・・丸椅子が4つ有り後は黒板があるだけの部屋である。

俺は恐る恐る先輩に聞いた。


俺「ここは何の部屋なんですか?俺初めて入りましたよ。」

先輩「ここは部室。」

俺「え??ここがですか?そうは見えないですけど・・・」

先輩「綺麗だろ?ここに来る人は少人数で決まった人しか入らないからな。」

俺「そうですか・・・部室って言うことはここで何かの活動してるんですよね?」

先輩「当たり前やろ。じゃなかったら部室なんて言わないだろ?」

俺「ここは何部の部屋なんですか?」

先輩「今日は実はそれについての話もあるんや。まぁ、先に写真見ろよ。出来上がったから。」


先輩は鞄から分厚く束ねられた写真を俺に手渡した。


俺「上手く撮れてますね!これは先輩が撮った写真かな?・・・これは手振れしてるから俺が試しに撮った分ですね・・・」

先輩「どうだ。いいもんだろ?写真を撮ってこうやって見るのも。」

俺「はい。上手く表現出来ませんが・・・いいですね。」



2人で暫く写真の出来具合を見て話をしていたが、見終わったとたんに先輩は俺をジッと見る。
そして、先輩は強張った表情で俺に話始めた。



先輩「今回楽しかったか?正直に聞かせてくれ。」

俺「はい。そりゃ、今回初めてだから写真の楽しみ方なんて解りませんが、
解らないなりにも楽しめました。」



先輩「良かった!!少しは写真に興味持てるか?」

俺「そうですね。それなりには・・・」


内心それは心に思っていても「興味ありません」何て口に出して先輩にキッパリ言う人なんているのか?と疑問にも思いつつ返事をしたのだが・・・

先輩はその返事に勝手に納得したらしくテンションが若干上がりながら話を続ける・・・


先輩「そうか!それは良かった!じゃ、J.Jに任せた!!」

俺「え??」

先輩「お前さっきここが何のクラブの部室か聴いたよな?そこから話しよう。」


先輩は少し熱のこもった話し方で語り始める・・・


先輩「まずは話を聴いてくれ。終わった後に質問は聴くから。」

俺「はぁ・・・」


俺は何だか言い知れぬ不安に包まれたが大人しく聴くしかなかった・・・













先輩「まずここは『写真クラブ』の部室だ!」



俺「そうなんですか・・・成る程・・・こんな所にあったんですね・・・
しかし、写真部があるとは知りませんでした。」



先輩「そうだろ?中々知られてないし、部員は俺を含めて2人しかいない。
幽霊部員は結構いるがな・・・」



俺「要するに隠れ蓑(かくれみの)にされてるんですね。」


先輩「そうだ。しかし、今日から『3人』になった!」


俺「何か1人増えてやしませんか?」


先輩「ちなみにこの部の部長は俺や!」


俺「そうだったんですか・・・それで何故『3人』何ですか?」


先輩「質問は最後だと言ったのに・・・仕方ない奴だな。
3人は『J.Jを含めて3人』だ!」



俺「ちょ、ちょっと待って下さい!!俺は他の部活に入ってます!!」


先輩「知ってる。サッカー部だろ?しかし、お前活動に参加
していないみたいじゃないか。」



俺「・・・ここのサッカー部は本気でしてないので・・・」


先輩「理由はともあれ幽霊に等しいなよな?」


俺「そ、それはそうですが、他にもクラブ入ってるし、
役員の活動もあるし・・・」



先輩「『機械クラブ』だろ?あれはお前の専攻してる学課は半強制じゃないか。活動は一部でしてるのが実情でお前はほぼ活動してないな?
役員は知ってる。しかし、安心しろ!」




俺「一体何をどう安心するんですか?」
























先輩「俺が全て退部の手続きをしたッ!!」





























俺「はぁ!?何ですかそれ?どうやって・・・第一俺は何も・・・」



先輩「土曜日に行ったS先生は写真部の担当なのだ。先生からも他のクラブの担任に話してもらって、
許可を得てJ.Jを退部扱いにしてもらった!」




俺は驚愕して言葉を失くす・・・構わず先輩は話を続ける。




先輩「実は写真部が廃部になりそうなんだ。そこで、俺の代で潰すのはヤバい。誰か良い候補がないかと捜してたんだが、
そこでお前の話を、お前の担任の先生に聞いてな。それで、土曜日に誘うことを思いついたんだ。」


俺「しかし・・・退部だなんて強引な・・・」


先輩「俺もちゃんと考えたんだぞ?だから、興味も示さないとか楽しくなかったとか・・・お前が不真面目な奴なら部員には入れなかった。
だけど、お前は楽しいし、興味もあると言ってくれたし、第一真面目だ!文句なし!」



俺「お、おかしいです!矛盾が多すぎる!先輩!失礼ながら言わさせてください!」


先輩「何や?」


俺「まず・・・決定ってさっき言いましたよね?決まったのはさっきなのに、
何故『既に退部』になってるんですか?」


先輩「それはお前はきっと入るだろうと思ったから、土曜日に退部の話をして、今日は正式に退部になったんだ。
もちろん『本人も希望』していると言う事でな。」



俺「希望って・・・入るなんて言ってないのに・・・第一それじゃ俺の意見は聴いても聴かなくても同じって事じゃないですか!!
それのなのに先輩は俺が興味なければクラブに入れてないなんて・・・」



先輩「俺はお前を信じてた。だから、いいんだよ!」


俺「そ、そんな・・・」


先輩「それにまだ大事な話がある!」


俺「まだあるんですか?既にめちゃくちゃですよ・・・これ以上何があるんです?」



落胆しながらの俺の問いかけに先輩はニヤけながら、黒板に何かを書き始め叫んだ!!


先輩最高潮で・・・・



























コツコツコツ・・・


先輩が書き終えて俺を見て言った!!









































先輩「お前は次の写真部の部長になってもらうッ!!」



俺「・・・」































え??何ですって???





















写真部に入部

時期部長決定


























俺の鼓動は早くなり、頭をフル回転させて
現状の把握を試みる!!!








































結果・・・























全く理解出来んッ!!(x−−)

























異議有りィ!!!




俺「先輩!!どうしてそうなるんです!!」


先輩「俺の目に狂いはない!お前は部長にふさわしい!!」


俺「お、俺は入るなんて言ってないんですって!!
俺は嫌ですよ!!」


先輩「断れると思ってんのか?」


俺「当たり前でしょ!!断れない理由がない!!」


先輩「いや、既に交渉は成立している。」


俺「とうとう頭おかしくなったんですか?
何時成立したって言うんです?」


先輩「先輩に対して、頭おかしくなったって言うか?
土曜日に決定した!」


俺「俺は交渉なんて・・・」


先輩「飯をタダで喰ったな?」


俺「ま、まさか・・・」


先輩「分かったか?タダで飯喰えるなんて甘っちょろい
考え通用すると思うか?『見返り』が要るだろう!」


俺「金払います!!」


先輩「先生は金を受け取らない。話は済んでいるし。
良かった!!時期部長も決まって一安心だ!」


俺「嫌です!俺は活動しませんからね!!」


先輩「来い!お前は既に部員や!部長の言う事を聞け!!」

























あ、あんた『とてつもなく』おかしい!!



何でここまで手の込んだやり方で部員にさせておいて、
俺への説明や納得させる時はゴリ押しなんだ??


しかも、俺が部員に入っていることにして「部長の権限」を行使しているんだ!






軽くめまいがするような気がする・・・



また嵌められた・・・

こんな形で予感的中するとは!


こ、これじゃ中学の時とあんまり変わらないじゃないか!!


俺は今後も騙されて生きて行く運命なのか!!
(T_T)



記憶が中学の時と重なり、消えた・・・


その後・・・



俺「あの・・・一つ提案が・・・」

先輩「なんだ?」

俺「要するにこのクラブの後釜が居ればいいんですよね?適任が居れば・・・」


先輩「・・・誰か居るのか?」


俺「ヨッシーって奴が同じクラスに居るんですがどうでしょう?真面目で素直だし・・・
頑張ると思うんですが・・・」



先輩「いや、やはりお前だ。お前しか俺は知らないし、
なんだったら、そいつをこのクラブに誘ったらどうだ?
一緒ならやり易いだろ?」


俺は想像する・・・
































この狭い空間にヨッシーと2人・・・


































写真を見つめながら「ムフフ」と笑うヨッシー・・・























あぁ・・・た、魂が抜ける・・・






俺「いや・・・一緒って言うのは・・・」



先輩「兎に角お前が部長だ!頑張れよ!!この部を潰さないようにな!!
じゃ、俺は帰るから。活動や写真の現像方法やら
明日から教えるから来るように!!」


先輩はそう言い残し去った・・・




呆然とする俺を置いて・・・


その翌日からヨッシーを騙そうと奮闘したり、
先輩との戦いも続くが・・・敗戦する・・・


暫く俺は立ち直れずクラスの友だちに
心配される日々が続いた・・・