-栽培ワンポイント-
「シュート処理の真実」
書物でもネットでもシュートの処理が必要だということが必ず記されている。ところが
なぜ短くしようとするのかの理由についてあるいは根拠について、適切で理解しやすい書
かれ方が行われていないように見受けられる。そこには口伝による、実感のない継承が蔓
延していると思われる。実際、初心者だけでなくある程度栽培経験を積んでいる人でも、
詳しくは理解していないことがときどき見受けられる。それは知識のための知識を呑みこ
まされているからだ。
なぜクラウンや枝からの新しい枝の伸びを制限するのか。
( 1 )その理由の第一について最も良くわかるのが「ホウキ」のことだ。つまりシュート
をそのまま伸ばしつづけると、その株の樹高となる長さだけ伸びてから一本枝の生
長が「分枝の生長」へ切りかわるときが来る。それは栄養生長から生殖生長への転
換が必要だから起きる。この場合の分枝それぞれはそのまま花梗であり、ほぼ例外
なく大房咲きとなり、こじんまりした一輪ずつとなって開く。セミナーなどでも花
が小さいからよくない、という説明がよく為されている。しかしこれは厳密には決
して正しくない。正しくは次のようなことだ。
すなわち、ときおり当HPでも述べてきているように、薔薇は栄養生長と生殖生長
が重なるのがほとんどであり、ホウキになったときの転換も図式的な転換ではない。
花を付けるための花成ホルモンは、シュート芽の出現段階からずっと芽で作られて
は生まれつづけていて、ホウキとなって咲き終わるまで存在し働いている。つまり
シュートの先端で、シュートの全長を伸ばしつつ生殖生長も行っているという事実
がある。この遺伝的事実が大きく強いからこそ、四季咲きの薔薇が誕生したことを
忘れてはならない。
そしてシュートを伸ばしている時期ではないとき、一株の全枝で行われている二つ
の生長のバランスは気候や施肥、土壌内条件の変化などによって左右されもするが、
その品種の持って生まれたバランスとして一定している。シュートはそのバラン
スを崩すものではなく、むしろ花をより多くしかも美しく咲かせようとする
生殖生長の目的に向かう樹勢を、高める、あるいは強めるために発生してい
る。皆さんも、シュートを20~30cmといった長さで処理をした後、そこから
頂芽がなかなか伸びてこない、ピクリともしない日々があるのをご存じと思う。そ
れは切除したことによる茎頂の喪失が、ほかならぬ伸長力をもたらしていた花成ホ
ルモンの喪失だったからだ。一気にホルモンを喪えば、そのホルモンにコントロー
ルされていたすべての酵素群が失活する。だから停滞するのであって、シュート以
外の他の枝へ栄養や生長力が分散したり配分されるわけではない。
そうして、そのシュートはしばらくしてから生長を再開し、次段を伸ばし始める。
わたしたちがさらに再びシュート処理をする。このとき、強い品種ほど、またあら
ゆる条件に恵まれた株ほど、処理後の停滞日数が短くなっていく。その記録を録っ
てみられたい。ついには処理をしなくても望み通りの美しい花、程よい房立ちとな
って落ち着くときが来る。
このときがもう一つの樹高となる。おおむね、処理回数が何段となってもクラウン
から花までの高さが一定だからだ。この樹高と、処理をせずに伸ばしたままにして
できた樹高とでは、前者の方が必ずいくらかでも高い。若くて伸長力の強い薔薇ほ
どその差は大きくなる。
さて、シュートを発生させた株は樹としての勢いを得ている。気温の上昇する季節
であればそのまま各段の若々しい枝はますます充実していき、太くなる。花を咲か
せた最終段は一旦おちついてから再びぐいぐいと伸びるか。たとえそのように伸び
ていると見えるときがあったとしても、それはシュートだった枝のさらなる充実で
あって、もはや樹としての勢いは安定してしまっているのだ。また気温の下降期の
季節であれば、気温に合わせて徐々にシュート伸長力は落ちついていく。それは秋
にすばらしい花を咲かせる枝となりつつある様子のことだ。
( 2 )ふつう一季咲きの薔薇ではシュート処理はしないものと思われているきらいがある。
四季咲き品種に対してだけ行うのだと。それは確かに花を咲かせるためには正しい
かもしれない。しかしわたしたちが鋏を入れることは、薔薇にとってはすべて刺
激となる。この刺激に反応しない薔薇など存在しない。つまり一季咲きの薔薇ほ
ど、ほどほどのタイミングでシュート処理をしていると伸長力が増していく。樹と
して大きくなっていく。株全体の成長過程が刺激を受けるからだ。ただしそれは数
年がかりでわかることであり、しかも気温下降期には処理をしてはならない。
また四季咲き品種にあっては、処理をすると他の既存の枝のうちいくらかは弱小枝
に転じる。鉢植えだけでなく地植でも起きる。この場合、長く太ってこない、鉛筆
以下の太さのままになろうとしている枝については付け根から切除しよう。その刺
激によって他の枝の栄養生長が力を増していくが、シュートだったものへその力が
偏ることはない。なぜならシュート処理やそのような整枝が成長そのものへの刺
激となっているからだ。その事実はサイドシュートの発生としてあらわれる。蔓
性の品種やミニなど、あるいはポリアンサやノワゼットで実によくわかる。分枝力
全体が刺激され、枝や花梗の多発となる。処理も整枝も、生長への刺激として同じ
意味である。
こうして薔薇の側からシュート処理を見直してみると、処理をしないでいるよりも
した方が結果的に良いことをしてもらっていることになる。
( 3 )また、実際に切除する箇所について、摘み方や切り方について、剪定や整枝のよう
に芽の上5mmのところを芽と平行に切るのとは異なり、芽とそれを保護している
葉の付け根のすぐ下で切除するように教わっていると思うが、どうしてその位置な
のかについて理解しておられるだろうか? すなわち、残す頂芽の上に数センチの
茎頂を残す理由のことだ。その答は残すようにした方が花成ホルモンの形成が速く
また豊かだからということと、切り口から必ず何らかの微生物が入ってきて、残さ
れてみずみずしいままのあの部分で薔薇の生長を助ける働きをしたり、あるいは有
害な働きをしようとすることにある。ご存じのようにシュートがみずみずしい間は
抗菌力がハイレベルになっていて、有害微生物の細胞への侵入を許さない。残した
部位はその戦場であり、90%以上の確率で薔薇が勝つ。そして残された部分と残
された芽と葉の間すべてで、花成ホルモンの形成とサイトカイニンやオーキシンの
働きが活発となり、それはシュート以外のところとは比較にならないレベルで行わ
れる。三要素のうちでも特にリン酸が多く使われ、芽の動き出しに向かってフル回
転し、疾走している。しかしそれは動物のような細胞の生長とは違い、たいへんな
時間がかかる。しかもそこから下の枝葉はすべて緑の充足した色へと成熟していく。
したがってあのように残しておかないと、余分な日数がかかってしまうのである。
もちろん芽の伸びが新芽の形を成し始め、5~10cmの長さになったら新芽の付
け根5mm上のところまで必ず切り戻しておこう。残したままであると、今度は芽
に栄養が送られるのを少しだが妨げる部位となってしまう。それは薔薇の生長点
とは常に「頂き」にあり、そこへすべての要素が集まるからだ。
薔薇の系統、タイプの違いによって、たとえばつる薔薇やミニ、オールドローズやモダ
ンローズといった違いによって、剪定時期が異なるのはご存じだろう。初心者向けの書物
などでいきなりHTの剪定期や方法から説明するから、初心者の皆さんの頭が混乱してし
まうのだ。まず薔薇がどのような植物なのか、どのような樹なのか、そのことから説明を
始めるべきだ。わたし自身かつて混乱して、わけがわからなくなった思い出がある。その
混乱を長く引きずると、たくさんの貴重な薔薇をダメにしてしまいかねない。
それはシュート処理についても言えること。ベーサルもサイドも、人が名付けているだ
けのことであって、薔薇にしてみればどうでもよい概念だとさえ言いきれる。薔薇たちが
望んでいるのは、日々の観察を通しながら、自分がどのように伸び、太り、とどまり、花
を咲かせ、散らし、再び枝を伸ばしていこうとしているかをわかってもらえることだ。わ
たしたち人間は概念や認識を通して観察も行おうとする。その習慣が、いつのまにか概念
や認識による判断のためだけのものとなっていないか。そうではなく、薔薇になったつも
りであるような観察をしてほしい。その最善の理由は「その方が楽しい」という一点に尽
きる。観察とは自分を見ることではなく、相手を見ることなのだから。
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