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社員を活かして育てるキーワード

その1・モチベーション





【 目次 】

第1章  今なぜ、モチベーションが注目されるのか

第2章  モチベーションの基礎 (古典派説)
マズローの欲求階層説
ハーズバークの動機づけ衛生理論
古典派の説を経営に活かす





第3章  現代のモチベーション理論
期待理論
職務設計理論
目標設定理論
まとめ







第1章  今なぜ、モチベーションが注目されるのか



モチベーション とは、人が一定の方向や目標に向かって行動し、それを維持し続ける働きです。単に「動機づけ」 「やりがい」、と呼ばれることもあります

モチベーションのうち、仕事に関するものが、ワークモチベーションです。現在、多くの企業で社員のワークモチベーション、「働きがい」 を高めることが注目されています。それはなぜなのでしょう


@経営や事業を取り巻く環境の変化

企業を取り巻く経営環境や競争条件の変化が早く、現場での臨機応変な行動、迅速な意思決定が求められています。上司の指示や本社の決済を待っているだけの受け身の姿勢では変化に遅れ、機会を喪失し、競争相手に出し抜かれるリスクが増しています

また、こうした変化の多くは誰も経験したことがない非・連続的な延長線上に生じています。そのため、過去の知識や経験は役に立たず、現場での挑戦や創意工夫が重要になっています

こうした状況に対応するには、社員の積極的な仕事への関与(=いわゆるコミットメント)や、自発的・自律的な判断・行動が必要です。そのためにはモチベーションが高まった状態であることが必要になります


A高まる付加価値の重要性

競争の質が変化し、顧客は製品やサービスに対して付加価値という一種のソフトやソリューションを求める傾向にあります。製品に占める製造原価の割合、サービスに占める労働コストは低下を続けていますし、今後も下がり続けるでしょう

そのため顧客価値の最大化に応えるような付加価値を提供できるかどうかが企業の収益を左右し、成長を決定づけるようになってきました

この付加価値を生み出すのは、社員の意欲や能力にかかっています。 社員が積極的な姿勢で職務と向き合い、前向きな意識で能力を発揮するには、強い動機づけによるモチベーションの向上が欠かせません


B経済的報酬の限界

デフレと低経済成長の下、年々増え続ける社会保障費の増加は企業経営にとって大きな負担になっています。利益に応じて課税される法人税と違い、社会保障費は人件費に応じた負担のため、利益が減っても変わることはありません。利益面から見た中小企業の社会保障負担は大企業に比べ重くなっています

一方、従業員の側も大幅な昇給が期待できず、手取りの賃金総額も減少しています。ときおり “給料が安いから社員にやる気がない” と思い込んでいる経営者や人事担当者の方がおられますが、実は多少給料を上げたぐらいではモチベーションは向上せず、仮に向上してもその効果は一時的で長続きしないことがわかっています

大幅な昇給を継続的に実施することが現実的でない以上、モチベーションを向上させ、企業の生産性や競争力を高めることが求められています


C物質的報酬より心理的報酬

終身雇用制度は事実上崩壊し、長期安定雇用は保障されなくなりました。また、かつてのような高い経済成長はできず、昇進のポストは不足しています。この結果、社員の会社への忠誠心は失われています

そして、年功序列賃金制度も見直しが相次ぎ、物心両面における安定感・安心感も揺らいでいます。成果が評価され年収が増えても、それはあくまで一時的なものになっています。誰もが、いつ自分が負け組みになるかもしれない、そんな不安を抱いています

こうした状況で、評価制度と賃金制度の見直しだけによる成果主義的な人事制度は上手く機能しないことが明らかになってきました。お金やポストが報酬として働かないからです

企業は組織と社員、それぞれの目標をいかに高いレベルで一致させ、どのようにしてそれらの整合性を図っていくかが求められています。社員一人ひとりの目標や夢、希望、キャリア、自己実現に企業はどのように対処していくべきか、その答えはモチベーションを向上させることにより、働き甲斐、生き甲斐を高めることです


D求められる成長実感

終身雇用制度の崩壊や非正規社員の増加により、企業と社員の関係はかつての家族主義的な一心同体の関係から、権利と義務による 「契約」 という関係に変わりつつあります

契約による雇用・労使関係では、プロのスポーツ選手のように所属組織への愛情、愛着、一体感は希薄になります。契約関係にある社員が求めるのは、会社は自分の活躍する場を提供してくれるのか、きちんと成果を評価してくれるのか、ここで腕を磨けるのか、といったことです

また、義務を果たした以上、権利として主張すべきものは主張するという考えになり、金銭的報酬のアップに対しては感謝の念よりも、当然の権利としての認識が強く出ます

こうした契約的な雇用・労使関係を背景に、若い社員ほど将来を見越して、今の会社でどれだけ成長できるのか、この仕事でどんなスキルや能力を身に付け、将来のキャリアにつなげられるのかに関心が向いています

彼らは終身雇用が保障されない中で、成長もできず、キャリアを積めないまま、年齢を重ねることに危機感を抱いています。入社後3年で退職する者が35%に至るのは、こうした状況が背景にあります

かつての終身雇用や年功序列賃金に代わり、新しい人事の方針、方向性が必要になっています。その一つがモチベーションを向上させる仕組み、マネジメントです




第2章   モチベーションの基礎 (古典派説)



マズローの欲求階層説

「動機づけ」「やる気」 と呼ばれることもあるモチベーションは、2つの要因から生じます

ひとつは、「動因」 (ドライブ)とよばれ、人の内部・心にあり、行動を引き起こします。 身近な動因には、食欲や睡眠といった生理的欲求があります。これらの生理的欲求は1次的欲求ともよばれ、人間には誰しも備わっています

この1次的欲求が満たされると、次に社会的な欲求と言える2次的欲求が生じてきます。これについては、モチベーションの理論として マズローAbraham Maslow) の 欲求階層説hierarchy of needs) がよく知られています



maslow model


この図のように、マズローは欲求の内容をピラミッドのように配置し、下層の欲求が満たされると上層の欲求が生じるとしました。そして、下層の欲求が満たされない限り、上層の欲求が生じることはない、と主張しています

太古の時代、マズローの 「安全の欲求」 は外敵から身を守りたいという欲求であり、「所属の欲求」 は共同体で生活を営みたい欲求と考えることができます

また現在の企業にあてはめてみると、「安全の欲求」 は終身雇用のような雇用の保障であり、「所属の欲求」 とは同僚・仲間との一体感・連帯感と考えることができます


モチベーションを構成するもう一つの要因は 「誘因」 (インセンティブ)です。 これは人の外部にあり、この要因により人の行動は誘発されます

ショッピングにおける 「衝動買い」 は、ディスプレイが誘因になり、「買いたい」 という動因が引きこされた結果といえます

動因と誘因は相互に影響しあって人間の行動を左右しています。強い動因があれば、誘因がなくても行動が引き起こされます

逆にいくら誘因があっても、動因が生じなければ行動は起こりません。お腹がいっぱいのライオンは目の前にシマウマがいても、動こうとしません。衝動買いのように、誘因によって動因が喚起され、行動に移る例もあります




ハーズバークの動機づけ衛生理論

外部から報酬を与えて、モチベーションを刺激しようとする手法は 外発的動機づけ と呼ばれています

目標を達成すれば特別の報償を与える表彰制度や、成績次第で昇進・昇格もあれば降級・降格もある人事制度、成果主義に基づく賃金制度などは、この外発的動機づけの代表例です

これに対して社員が自らの意思で主体的に目標を立て、目的に向かって行動を起こさせるようにする動機づけは 内発的動機づけ と呼ばれています

外発的動機づけは、「誘因」 によって行動を起こさせるものであり、内発的動機づけは 「動因」 により、モチベーションを高めようとするものです


ハーズバーグFrederick Herzberg) は、企業におけるこの動因と誘因を具体的に研究し、動機づけ衛生理論Motivator Hygiene Theory) として発表しています。この理論はモチベーションを考える上できわめて重要な考えとなっています

ハーズバークは、さまざまな企業・職種の社員から、仕事中に極度の満足・不満を覚えたとき、どのようなことが起きたかについて質問し、その要因を抽出しました

すると、満足を招いた要因としては

  • 達成感
  • 他者からの承認・評価
  • 仕事そのものへの満足感
  • 責任
  • 昇進
  • 進歩
  • 個人的な成長

といった要因が81%と多くを占め、これを「動機づけ要因」 としました


逆に不満を招いた要因には

  • 企業の施策と管理
  • 監督
  • 監督者との関係
  • 労働条件
  • 給与
  • 身分
  • 保障

といった要因が69%と多数を占め、これを「衛生要因」 としました


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「衛生要因」 は満たされないことで不満を引き起こしますが、これを改善しても満足度が高まることはありません。『不満の解消=満足度の向上』 ではないのです

つまり、仕事への不満を生み出す要因をいくら改善してもモチベーションは向上しません。「従業員満足度調査」 (ES調査) や 「モラルサーベイ」 を実施して社員の不満の原因を見つけ、これを解消することでモチベーションを向上させようとしても、そこには限界があることがわかります

「衛生」 とは馴染みのない用語ですが、不衛生にすると病気になりやすい(=満足度が低下する)。しかし、いくら衛生的にしても健康になるわけではない(=満足度はアップしない)、と考えるとわかりやすいでしょう

ここで衛生要因として 「給与」 「身分」 が入っていることが注目されます。賃金制度や昇進・昇格制度は、設計上の不備や不適切な運用により不満をもたらします。しかし、これらの制度や運用をいくら改善しても、不満は減るかもしれませんが、モチベーションは向上しません

賃金制度や昇進・昇格制度のカギを握る人事評価を適切に実施しないと、動機づけ要因のひとつ 「他者からの承認・評価」 が阻害され、モチベーションは大きく低下します。衛生要因への配慮はほどほどにして、動機づけ要因を高めることがモチベーションアップには効果的です


マズローはモチベーションの源泉は人間の欲求という心理・心の内面にあることを指摘し、ハーズバーグはモチベーションは仕事の種類・内容といった外部環境が深く関わっていることを明らかにしました

マズローやハーズバークの説は1940年代〜1960年代にかけてのものであり、モチベーションの理論としては古典派に位置づけられます。古典派の説に対しては、その後、検証のため各種の実地調査が行われましたが、理論を裏づける結果は得られませんでした。そのため批判の声もあります

しかし、彼らの説はモチベーションを考える上での基本的枠組みを明らかにした点で大きな功績があり、今なお世界中で引用され、現代のモチベーション理論の形成に大きな影響を与えています




古典派の説を経営に活かす

マズローやハーズバーグの説からわかることは、会社が社員のモチベーションを向上させるには、内発的動機づけによる手法が望ましいということです

賃金制度や昇進・昇格制度は、ある程度の合理的・客観的基準を満たすことは必要です。しかし、それ以上いくらこれらの制度設計や運用を見直しても、モチベーションは向上しません

それよりも内発的動機を喚起し、動機づけ要因に訴えかける以下のようなマネジメントが望ましいのです

  • 目標の達成感を味あわせる
  • やればできるという自信を持たせる
  • 成功には賞賛の声をかけてやる
  • 期待する役割を示し、部署やチームにとって必要な存在であることを理解させる
  • 仲間からの感謝の気持ちを伝える
  • 成功を分かち合う
  • 権限を委譲し、挑戦させてみる
  • 細かな指示や命令は控え、自主的・自発的な判断や行動を尊重する
  • フィードバックを通じて客観的に自分自身を知らしめる
  • トップや上司が夢を語る
  • 提案や意見には真剣に耳を傾ける


では、モチベーションはどのようなプロセスを経て生じるのでしょう。モチベーションが発生するメカニズムは、次章でご紹介する 「現代のモチベーション理論」 によって明らかにされています

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第2章   現代のモチベーション理論



期待理論

マズローやハーズバークの研究成果を基に、現在は人間の認知や職務の詳しい分析を通じて、モチベーションが生じるメカニズムを体系的に明らかにするいくつかの理論が打ちたてられています

こうした最新のモチベーション理論は、いずれも統計的手法に基づいて実地調査が行われ、その後の分析・検定結果を前提に展開されており、検証に十分耐えうる内容になっています

最初にモチベーションの仕組みを明らかにしたのは ブルームVictor Vroom) で、彼の説は 期待理論Expectancy theory) とよばれています。ブルームはモチベーションを引き起こす 「誘因」 として、次の3つの要素を取り上げました

  1. 対象物そのものの魅力度
  2. 対象物を手に入れるための行動が、どのくらい目的達成に直結しているか、その度合
  3. 行動により対象物を手に入れることができる可能性


これらを掛け合わせたものが高いほど、モチベーションが高まるとされています



vroom model



期待理論のわかりやすい例として、大相撲を取り上げてみましょう。仮に現在大関の地位にあり横綱を目指している力士がいたとします。この力士にとって、「1」 にあたるのが横綱の地位という魅力度です

そして横綱に昇進するための条件はただ一つ、2場所連続優勝することです。これが「2」 に当たります。対象物を入に入れる事と目標が明確にリンクしていて、ほかに選択肢はありません

ビジネスでは、このように対象物を得る (例えば目標を達成する) ための方法が唯一これだけしかない、とういうケースは稀で、いくつかの選択肢があるのが普通です

そして「3」 は、この力士自身が考える、2場所連続優勝の可能性、確率です


ブルームの期待理論の最大の特徴はモチベーションには対象の魅力度や自分が考える可能性といった人間の認知が深く関わっていることを示した点です。これにより、モチベーションを考える際には個人差を考慮する必要があること明らかになりました



期待理論を経営に活かす

ブルームの説を実際の仕事の場面にあてはめると、モチベーションを高めるためには次のような手法が考えられます

まず、目標、結果の魅力度を高めることです。一般的に目標には次のようなものがあります

  • 昇進、昇格
  • 昇給や賞与といったお金に関係するもの
  • 目標管理制度で設定する個人の目標
  • 部・課、チームなど集団での目標


これらは企業・組織から見た目標です。そのため視点を広げ、企業の目標と個人の目標を高いレベルで一致させるようにします

そのためには、経営理念の浸透、経営計画の周知、事業計画の進捗状況の公開、自分自身と自らが属する部門が果たす役割の理解促進などに加え、いまの仕事をする意味は何か、この会社で働く目的とは何か、自らの成長のために何が必要なのか、これらを明らかにすることにより、企業の目標が本人にとっても価値のあるものであることを理解させるプロセスが必要です

会社と個人の目標がより高いレベルで一致すればするほど、目標・結果の魅力度が高まることになります


次に「2」 (行動が目標達成に直結する度合) に対応した方法としては、次のようなものが考えられます

  • 目標が明確であること
  • 目標達成へのプロセスが明瞭なこと
  • 選択される手段、アプローチに誤りがないこと
  • それらが効果的、合理的であること
  • 結果が客観的にフィードバックされること
  • 必要に応じて支援が得られること


ここでの目標や成果には、企業・組織の目標・成果だけではなく、個人のものも含まれます

実務的な対応としては、人事評価制度 や目標管理制度 が整備され機能していること、戦略が戦術に落とし込まれていること、キャリアの開発 ができる仕組みが整っていること、などが挙げられます


「3」 の可能性を高める方法としては

  • 成功体験を積ませ、自信を持たせる
  • 周囲の人たちから成功談を得る
  • 競争力のある製品・サービスの提供
  • 顧客満足度の向上
  • マネジメントやマーケティングの強化
  • OJT、OFF-JTによる人材育成、能力開発
  • 状況の変化に対応した方針の見直し

などがあります

「3」 は日々のビジネスに最も近いテーマが多く、これを忘れる経営者や管理職はいません。しかし、モチベーションを高めるためには 「1」 と 「2」 への視線と、個人への配慮 (個人差) が欠かせません


「1」 「2」 「3」 の要因はいずれも一つではなく、複数存在し、それらは日々刻々変化しています。そうした状況において、要因の組み合わせの巧拙が社員や組織のモチベーションの高低を決めています




職務設計理論

ブルームの期待理論では職務の中身や内容がモチベーションにどのように作用するのかという点について、十分な考察がなされているとは言えませんでした

そこで、ハックマン (Richard Hackman) と オルダム (Greg Oldham) は職務の特性を詳しく取り上げた 職務設計理論 (Job Characteristics Model) を導き出します

職務設計理論では職務の特性として次の5つを挙げています
  1. 技能の多様性
  2. 職務の完結性
  3. 職務の重要性
  4. 自律性
  5. フィードバック

これら5つによって@有意義感 A責任感 B結果についての理解、という重要な心理状態が生じ、それが仕事上の成果であるモチベーションに繋がります

こうした一連のプロセスに達成・学習・進歩といった個人の成長欲求の強さが深く関わります。成長欲求の強い社員ほど、高い有意義感を得て、強い責任感を感じ、結果についての理解が進み、高いモチベーションを得ることになります

期待理論と同様に職務設計理論においても、職務の特性についての認知や、重要な心理状態、個人の成長欲求といった個人的な要因が関わっており、そのためモチベーションには個人差が生じることになります

以下に職務設計理論のモデルを示します

hackman&oldman model


職務設計理論の最大の功績は職務の具体的な内容とその受け止め方 (=認知) がモチベーションに作用している仕組みをが明らかにしている点です。これにより企業の経営者や人事担当者は従業員のモチベーションを向上させるためには、何をどのようにすればよいかという対策の基本的な指針を得ることができます。

具体的には、モデルの図の左端に並ぶ @ 〜 D について改善や促進を図ればよいことになります。以下ではモデルの解説しながら、職務設計理論を経営・人事に活用する方法を見ていきます


職務設計理論を活用したモチベーション対策

@社員の技能の多様性を高める
技能の多様性とは、どのくらい多様な職務を遂行できるスキルやノウハウを身に付けているかということであり、教育や研修により知識や資格を得たり、職務拡大 (水平方向への職務拡大) や職務充実 (垂直方向への職務拡大) によって経験を積むことによって得ることができます

具体的には次のような施策が考えられます
  • OJTの計画的推進やOFF−JTの充実といった教育制度の強化
  • ジョブローテーションの計画的実施
  • 製造業における多能工化の推進
  • 複数の製品・サービスを扱える人材の育成
  • 専門職制によるスキルの深堀り

A職務の完結性を高める
職務の完結性とは、仕事全体の中で社員が自分一人でどのくらいその職務を完成・完結させられるかということです。例えば製造業では一人で製品を完成させるような 「セル生産方式」 「一人屋台」 は完結性が高く、巨大な流れ作業の細分化された一工程だけを担う 「ライン生産方式」 は完結性が低いことになります

一般消費者相手の不動産仲介業や保険代理店営業職は職務の完結性が高く、外食チェーン店の接客業務や大型量販店の販売担当といった職種は完結性が低いといえます

職能別の組織運営から事業部制へ移行させることや、特定の目的を期間限定的に推進するプロジェクトチームの活用は職務の完結性を高めることにつながります


B重要性の認識
数ある職務の中で、どれくらい中核的で重要な職務を担っているかという認識のことであり、一般的には企業の収益の要となる職務や重点投資が行われる部門に属する社員ほど高くなる傾向にありますが、個人の認知や認識によっても大きな違いが生じます

企業が人員を配置している以上、どの職務や部門にもそれぞれの機能・役割があります。その事を経営陣や管理職が従業員に理解させることも重要性の認識を高めることにつながります

具体的には以下のような方法が挙げられます
  • 経営理念・社是の理解や浸透
  • 経営計画・経営情報の積極的公開
  • 事業計画立案への参画促進
  • 重点課題に対する個人の役割への期待表明
  • 業務改善提案の受付け
  • 部門目標の持つ重要性についての理解促進
  • 表彰制度の拡充とその積極的活用

これら@ABのレベルが高ければ高いほど、つまり技能に多様性があり、職務の完結性が高く、重要な仕事に就いていると認識している社員ほど、高い有意義感を得ることになります


C自律性を高める
一般的に定型的な業務は自律性が低く、非定型的な職務は自律性が高くなる傾向があります。しかし、職種を問わず、自律性の高い社員は職務遂行にあたり、自主的な意思決定を行い、自発的な行動を取り、主体的な意識を持って職務を推進し改善を図っています

また、同僚や部下だけでなく、他部署や取引先といった周囲の関係者も巻き込みながら職務を遂行するスタイルを創り出しています

こうした自律性を高めるためには次のような試みが必要です
  • 権限委譲を進め、一定の権限を付与する
  • 役割を拡大し、裁量の余地を広げる
  • 自ら手を挙げ挑戦するという 「事実」 を人事考課で高く評価する (挑戦した結果は二の次)
  • 自主申告制度や社内公募制・FA制によって希望する部署へ異動できる仕組みを取り入れる
  • 許容範囲内で当事者自身に業務マニュアルをスリム化させ、マニュアルへの依存度を下げる
  • 日頃から問題の発見に努めることや、課題を設定すること、思考に際しての暗黙の前提条件を見直すことを意識させる
  • 上司や管理職が細かい指示を出し、逐一報告を求める 「マイクロ・マネジメント」 を止め、あなたは 「何を、どうしたいか」 を問いかけるコーチング型のマネジメントへの転換を図る

こうして高まった自律性が責任感の実感につながります


Dフィードバックの活性化・充実化
フィードバックは職務に対する結果や評価を知らせる有形・無形の情報のことです。上司からの評価や支援、得意先・取引先から得られる感謝や叱責といった人間の手を介する無形のものと、何らかのシステムにより自らの生産性、貢献度などが確認できるような有形のものがあります

フィードバックという結果や評価を得ることより、社員は何らかの気づきを得ることができ、思考や行動の修正を図り、能力開発への促進力を得ることになります


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目標設定理論

目標設定理論は、社員の目標の認識とモチベーションとの関係を明らかにしています。この理論が誕生するきっかけは社会心理学の研究成果からもたらされました

社会心理学者のバンデューラ (Albert Bandura) は 「社会的認知理論」 を発表し (1977年)、この中で 自己効力感 (self-efficacy) の高・低が業績に強い影響を与えることを明らかにしました。自己効力感とは、自らが所定の環境の中で所定の行動を成し遂げることができる、という確信や信念のことです

バンデューラによれば自己効力感の高い人は困難な状況であっても、あきらめずに努力を継続することができ、その結果、高い業績を挙げることができます。逆に自己効力感が低いと、物事を簡単にあきらめてしまい、低い業績しか挙げられません

この自己効力感をモチベーションの仕組みに取り入れ、ロック (Edwin Locke) と レイサム (Gary Latham) は調査研究を基に 目標設定理論 (Goal Setting Theory) を打ち出します。目標設定理論は自己効力感と目標の達成という業績との関係から、モチベーションの仕組みを明らかにしています

目標設定理論では、最初に設定された目標が具体的で困難なものであるほど高い自己効力感と相まって、行動を継続するという努力を生み、成果につながるとします。そして、高い業績がフィードバック・評価され、報酬 (金銭に限りません) を得ることがモチベーションを向上させ、より一層高次の目標設定につながり、このモデルのサイクルが循環します


goat setting



目標設定理論により、モチベーションが業績を向上させるのではなく、目標を達成し、それが評価され報酬を得ることが満足感を生み、モチベーションを向上させることが明らかになりました。そして、この向上したモチベーションによって自己効力感が高まり、さらに高い目標が設定されることになります

だたし、このサイクルが有効に機能するためには、次の2つの条件を満たす必要があります


条件1 自己効力感に応じた目標の設定

高い自己効力感を得るには目標を達成するのに必要な知識や能力、スキルが備わっていることが前提とされます。そのため目標は社員や部下が潜在的な可能性を最大限発揮して達成できる水準に設定することが必要です。実現できないような高すぎる目標を与えると、自己効力感が低下し、満足するような結果は得られません

ロックとレイサムの研究調査によれば、高い自己効力感を持てない場合は、目標を数値目標のような業績目標にするのではなく、数値目標を達成するために必要な 「学習目標」 にすることが有効であるとしています。学習目標を達成することが業績目標を達成するための正しい手順を発見・習得し、実行に移す可能性が高まり、自己効力感を向上させるからです

このように自己効力感の高・低により有効となる目標の特性に違いが生じる原因は、目標達成のために実行される戦略の違いにあります。自己効力感が高い社員は、業績目標を達成するため必要な能力、スキルが備わっているため、有効な戦略を計画的に見直した上で実行することができます。しかし、自己効力感が低い社員は、能力やスキルが乏しいため、業績目標を達成するために必要な戦略変更ができず、無駄で非効率な行動を繰り返すことになるためです


条件2 目標を自分のものとすること

目標設定理論のサイクルが循環するには、設定される目標にコミットメント (=打ち込み度・関わり感) があることも条件とされます。目標を自分のものとして受け入れることが必要なのです。そのためには、@設定された目標が達成できるという期待感を抱かせること、そして A目標がその人にとって重要であると理解、認識させることが必要です

条件1と2を満たす方策は次のセクション 「目標設定理論を経営に活かす」 の中で検討します



目標設定理論を経営に活かす

@目標を設定すること

最初にすべきことは目標を設定することです。この目標は社員一人ひとりの自己効力感に応じた具体的で困難なものであることが必要です。設定された目標に対して社員の自己効力感が低いと判断された場合は、目標を見直し学習目標に変更します。自己効力感は常に一定しているわけではありませんので、経営者や管理職は必要に応じて目標を見直すことが大切です

参考までに自己効力感の高低を調べるチェックリストをご紹介します。社員や部下がリストにいくつ該当項目があるかを検討します

  1. 難しい目標でも自分で解決できる自信を持っている
  2. 目標を達成するに必要な専門性に自信がある
  3. 仕事を進める際は自分の意思を尊重している
  4. これまで仕事をする上で多くの困難を乗り切ってきたという自負がある
  5. 仕事上の決断は最終的には自分で行っている
  6. 職務を遂行する際、自分の意見を上手に主張する
  7. リーダーシップが発揮できる
  8. 周囲から仕事ができると思われている
  9. 上司や部下、プロジェクトメンバーなどに自分の意見や考え方をはっきり伝える
  10. 仕事に対して自分なりのやり方を持っている


該当する設問の数が40歳未満の場合は、4〜6が普通レベル、40歳以上の場合は、6〜8が普通のレベルです。普通レベル以下の場合は自己効力感が低いと判断できます

オフィス ジャスト アイでは社員の自己効力感を測定できる 個人特定分析 を行っています (結果サンプル・PDF  自己効力感はP2・左下のグラフ)


目標設定の方法については、強制的に割り当てるやり方と、自らが設定に参加する方法があります。実地調査を行うと必ず参加型の方が業績が優っている結果となりますが、ロックとレイサムが精査すると、参加型による目標設定は強制型よりも困難な目標を設定する事例が多く、そのため結果として参加型による目標設定が業績の向上につながっていることがわかりました。目標設定の方法は強制型でも参加型でも業績に大きな違いは生じません。大切なのは目標の困難度です


A目標に対するコミットメントを向上させること

社員や部下の目標に対するコミットメント (=打ち込み度・関わり感) を向上させるには、次の2つの方法があります。まず社員や部下に設定された目標が “達成できる” という期待感を抱かせることです。そのための具体的策には次のようなものがあります

  • 必要な能力、スキルを身につけさせる
  • 必要に応じて支援や資源 (予算、権限、情報など) が提供されることを約束する
  • 組織内で情報が共有・交換される
  • 戦略、手法、プロセスが明示される
  • 権限委譲がなされ、自主性が保障される
  • 適時必要なフィードバックが得られる

次に、目標がその人にとって重要な存在として位置づけられることです。そのための施策としては次のようなものが考えられます

  • 目標とそれを達成することが成長や職業上のキャリアに重要であることを理解させ、納得させる
  • 目標の達成と報酬 (金銭報酬に限らない) が連動している
  • 目標達成により得られる報酬 (金銭報酬に限らない) があらかじめ明示されている
  • 目標を達成することへの期待感を示す
  • 組織内での役割を明確にして、その重要性や貢献度を理解させる
  • 目標を達成することが “あなたらしさ” が活かせることに繋がることを得心させる





まとめ

現代のモチベーション理論として、期待理論、職務設計理論、目標設定理論をご紹介してきましたが、いずれの説が正解なのかという答えはありません。一つの理論で人間のモチベーションを完全に説明するような統一的な理論は未だに確立されていません。21世紀に入ってからモチベーションにはパーソナリティが重要な役割を果たしていることを示す研究成果が相次いで発表され、注目を集めています。モチベーションを解明する作業は今も進行中です

現代のモチベーション理論はいずれも人の認知や自己効力感といった心の内面がモチベーションに深く関わっていることを明らかにしました。こうしたことからモチベーションを向上させる有効な対策や方法は人や企業・組織によって異なることがわかります。モチベーションを向上させるには制度や仕組みを整備・構築するだけでなく、社員一人ひとりに応じた個別の対策を講じる必要があります


オフィス ジャスト アイでは、8つの要因ごとに社員のモチベーションの理想と現状を数値化する モチベーション測定 を行っています。これはモチベーションを船にたとえると、現在の船が進んでいる方角と、進むべき進路を明らかにし、船を理想の目的地へ導くことをを可能にするものです

また、10種類のモチベーションの要因ごとにその強さを分析し、意欲・やる気の構造を明らかにする 社員特性分析 も行っています。こちらはモチベーションという船のエンジンの特徴を明らかにするものです。エンジンの特徴がわかれば、船を全速力で航海させることができます


motivation_ship

モチベーション測定の結果サンプル(PDF)
社員特性分析の結果サンプル(PDF)



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