2004年08月7日  NO.223 「日本の宿」      

今年も山形に行ってきた。ワイフの母親と愛犬エリカを考えると温泉
と高原になる。行き着くところが蔵王ということになるわけだ。蔵王で
ヴァトベルクに泊まり、寒河江のワイフの実家のそばの温泉に泊まって、最
後の2泊を上山温泉の『古窯』に泊まることにした。古窯には10年以上

前に、お母さんを連れて泊まったことがある。その時は娘エリカは未だ
いなかった。結婚以来、山形の温泉地は肘折、銀山などずいぶんと、い
ろんなところを訪れた。温泉にはそれぞれ特徴があり、ホテルや宿もさ
まざまである。毎回の仕上げをヴァルトベルクに決めてるのは、何もホ

テルの名前がドイツ語名だからではない。涼しいところにあるのはもち
ろん、その理由の一部だが、中規模ホテルの雰囲気が私の肌に合うの
だ。スタッフみんなが家族的で気持ちが落ち着き、心が癒される。
今年の仕上げとなった古窯も印象に残っているホテルのひとつだった。

十年以上も前になるのに、たった一泊だったけれども、よく覚えている。
トイレが素敵でステーキがうまかった。この二つの感動が私の脳裏に深
く刻まれていたのだ。トイレはすべての施設の気配りを象徴している。ス
テーキはもちろん食事を表している。当時、印象としてここの経営者はず

いぶん研究しているな、と思った。その後、その経営者がテレビや本で
すっかり有名になった古窯の女将であることがわかった。ロビーや廊下
に作家や俳優など著名人の楽焼の作品がたくさん並べてある。テレビ
や映画、小説などの取材で訪れたり、個人的にやって来た人もたくさん

いるようだ。感心するのは、とかく有名になると庶民に対するサービスが
おろそかになるものだ。ところが一般の個人客にも手を抜かず、相変わ
らず気配りができているなー、と感心した。有名人になった女将が宿の
本質を忘れていない間は”日本の宿、古窯”はお客さんの心を捉えるに
違いない。

山形の友人が宿を経つ一時間前にわざわざ奥さんと会いに来てくれた。
そして、かの有名人?古窯の女将を紹介してくれた。宿の経営以外でも
忙しい毎日のようだが、旅人の接待をする人が、実は、いちばんロマン
チックな旅をしたいのではないか。元気な彼女を見てそんな気がした。

  
        
 今年(2018年)の7月、山形の友人から一冊の本が送られてきた。
       本のタイトルは「古窯曼陀羅」(佐藤 洋詩恵著) 本名 佐藤美恵
       美恵さんは古窯の女将。 毎日、名門旅館を取り仕切る女将であり
       毎日新聞などにエッセーを綴る文人、俳人でもある。一気に読ませ
       ていただいた。そして、彼女は14年前に私が想った通りの人だった。