2005年06月13日 NO.271 「映画と小料理屋」       
 Erika のお店は11時30分にオープンする。このオープンの時間を見ては
「マスター!やる気あるの?」 といじめる常連さんが何人もいる。私はいつ
もやる気、十分ですよ。ちゃんと朝は6時15分に起床しているのだ。朝の7時
20分にワイフが「行って来ます!」と元気に家を出て行く。食器洗いをして簡

単な掃除をし、歯を磨きながら日経を拾い読みして、メールをチェック、トイレ
に行く頃には娘エリカが玄関のドアーのところでお待ちかねだ。8時30分に
エリカと散歩に出る。ゆっくり散歩、約一時間。Erikaに着くのが9時30分。
ゴミ出し、洗濯、掃除、水遣り、買い物、オープンの準備、電気釜のスイッチを

入れるのが11時30分、Erikaオープンの時間である。この時間に階段を
上ってくる足音が聞こえてくる。ひょっとするとひげのTさんかな?やはり、彼
だった。名前を伺ったことがないからかってにTさんと呼ばせてもらうことにし
た。「昨日は夜遅く寝たんで、起きたばかりなんだ。」と言って定位置に腰を

おろす。「いやー、昨日、見た映画良かったなー、入江たか子、きれいだった
ね」 映画の話をすると止まらない。昔の日本映画を見に、阿佐ヶ谷や千駄
木などにほとんど毎日のように出かけてゆくのだ。作品を観る前に、必ず原
作に目を通す。映画を観終わって電車に揺られて町田に着くと、足はなじみ

の小料理屋へ…そこでおいしいお酒を飲んで、もう一軒、ほろ酔い加減で
自宅へ…映画の話を実に楽しそうに話してくれる。すべて古い日本映画だ。
私のまわりには洋画フアンはたくさんいる。昔の映画少年は洋画が多い。Tさ
んには日本映画が肌に合うのだ。彼は昔話をあまりしない。いつも”今”の話

をする。それでも話の成り行きで、自分の昔の時代の話が飛び出してきたり
する。そんな話を通じて、彼の正体がぼんやり現れてくる。安保闘争で亡くな
った樺美智子さんとは大学時代の同窓生だったようだ。某女子大で歴史を教
えていた。今は、映画、と読書、と小料理屋。いつもひとりだから、一人暮らし

のマイペースのお方、と勝手に想像していたら、飲み仲間のHさんから、「彼
の奥さんは才媛で元気に活躍していますよ」という話だった。過去にとらわれ
ず、『今』をエンジョイしているTさんは健康そのものだ。映画監督、吉村公三
郎シリーズが始まり、今週もせっせとTさんは阿佐ヶ谷まで通っている。