2006年11月30日  NO.332 「男が倒れていた」      
 右腕が思うように使えず、パソコンのキーが打てないで困っている。この日記
の最新の日付を見たら11月7日になっている。今日は11月30日だ。書き綴りたい
ことは山ほどあるのに・・・・・ついに意を決して、左手でキーをひとつひとつ
叩いてみることにした。果たして書き終わることが出来るだろうか?疲れたらやめ

ればいいんだ。・・・・ なるべく動かさないようにと医者から言われているので
歩く以外はじっとしている時間を多くするようにしている。お店もぴたっと終わる
ことにしている。先日も早めに片付けると、6時前に娘エリカと店を出た。早く帰っ
てゆっくりしよう。藤沢周平が待っている。門を出ると、隣の建設中の家の前に

若いお兄さんと年配の人が何やら道路の下にあるものを指差しながら話をして
いる。年配の人は美術館の守衛さんらしい。彼はその場を離れて私の方に歩き
始めた。「人が倒れている・・・兄さんにまかせてきた。」 彼は駐車場の門を閉
めるためにいなくなった。お兄さんが不安そうに突っ立っていた。「どうしたんだ

い?」 「このおじさん動けないみたいだ。」 エリカのリードを持ちながら私も心
配になって覗き込んだ。歩道の上だったので、その間に何人かの大人の人が
通り過ぎたが、みんな避けるようにして通り過ぎてゆく。バイクに乗って通り過ぎ
ていった若い女の子がわざわざバイクを手で押して戻ってきた。私たちは3人に

なった。倒れている男の人は65歳前後だった。声をかけると返事をし始めた。何
となく酔っ払っているような気がした。「大丈夫だ」 と言って立ち上がろうとする。
よく顔を見ると顔面を打ったらしく大きなこぶができ、口を切って血がにじみ出て
いる。女の子がバッグからハンカチを取り出して彼に差し出した。男はバツ悪そう

な顔をしながら、彼女からそれを受け取って口を拭いた。私はその男が顔面を打
っていること、立ち上がろうとしても歩けるような状態ではない、と判断してお兄さ
んに救急車を呼んでほしい、と頼んだ。(実は私は携帯を持っていないのだ) 彼
は安心したように、119に携帯で連絡した。ところが倒れている本人はわれわれ

の心配をよそに、ニヤニヤ笑いながら女の子の顔を見つめ、何かぶつぶつ言って
いる。「ひとりで帰るから放っておいてくれ」と駄々をこねる。女の子はじっと我慢
しながら救急車が到着するまで一緒に待っていてくれた。やがて暗闇の中に赤い
ランプをつけた車がサイレンを鳴らしてやってきた。

 男は頭を打っていた。あるいは軽症であったかもしれない。それでもあの時、若
い兄ちゃんと女の子は救急車が立ち去るまで彼を面倒みてくれていた。ふたりと
も見た感じは、繁華街で見かけるような一見、ふらふらしているような若者だった。
そんな彼らが自分の時間を犠牲にして、いわば自業自得のような男を親身になっ

て世話をしていたのだ。その間、身なりのよさそうな大人が何人も通ったが、心配
そうな顔をしてチラッと見る人はいたけれど、立ち止まって声をかける人はひとり
もいなかった。何だか日本の社会の縮図を垣間見たような気がする。今の若い人は
と、批判していそうな人が見て見ぬふりをして通り過ぎ、批判されそうな若いあん
ちゃんが最後まで面倒を見ていた。あの酔っ払いも情けない男だ。しっかりせい!