2008年01月29日 NO.373 「イチローとカレーと山崎豊子」      
   今月はじめ、NHKのテレビ番組プロフェッショナルの特別番組で「イチロー」を見た。
  プライバシーをほとんど公開しない彼が珍しく自宅を含め、野球以外の私生活の取
  材に応じた。彼の広々とした邸宅の中は私が予想していたように、すっきりとしてい
  た。余計なものは何も置いていない。キッチンも住宅展示場のように、シンプルそのも

  のだ。がらんとした空間に彼と奥さんと柴犬がひっそり? と暮らしている。合理的
  なライフスタイルが、いかにもイチローらしい。番組の中で一番驚いたのが彼の食
  事だ。彼はテーブルに座ってカレーライスを食べていた。大きなテーブルの上には水
  とカレーライスだけしかなかった。彼は淡々とそのカレーライスを食べている。美味しい

  とも、美味しくないとも言わない。彼は7年間、家にいる時は、毎日カレーライスを食べ
  続けている。彼の奥さんはイチローのために大量のカレーを作り、冷凍保存しておく。
  そのカレーをイチローはあきもせず食べているのだ。私もこの10年間ずっとカレーを作り
  続けているので、いったいイチローの奥さんはどんな特性カレーを作っているんだろう

  か、興味が湧いたが番組の中で詳しい説明はなかった。私が作るカレーは野菜と果物
  をすりこんで炒め、タップリ時間をかけて煮込む。カレー粉が入るからカレーと呼
  ぶが、要するに野菜と果物のスープみたいなものだ。それにニンニク・しょうがや牛乳な
  どが入っているから、血液の循環作用には効果があるのかも知れない。週に1度

  のペースでカレーを食べに来てくれる人の中には健康のためにカレーを食べてい
  る人もいる。Nさんは週に2回、カレーを食べにやって来る。この私でさえ、週に1度
  はちょっときついな、と思うのに良く食べられるな、と感心していた。ところが、イチ
  ローのカレーの話をテレビで観て、カレーを見直してあげようと思う。マスターが何

  時間もかけて煮込んだカレーである。私も、自分の、カレーをもうちょっと可愛がっ
  てあげようかと反省している。
  イチローは家で何もすることがないとき、あるビデオを何回も見ると言っていた。山
  崎豊子の「白い巨塔」である。彼は気に入ると徹底的に自分のものにする。「白い
       
  巨塔」を10数回観ている、と彼は言う。社会派の山崎豊子のこの作品を彼は飽き
  ることなく観つづけている。億万長者のイチローからそれらしい、きらびやかな空気
  を感じない。彼はいつもハングリーだ。こういうプロらしいプロは今や日本にはほと
  んどいない。それにイチローみたいなストイックな生き方を一般大衆は好まない。

  今夜もテレビをひねってごらん。ちゃらちゃらしたおなじみの顔がわいわいがやが
  や 騒ぎ立てている。タレントも俳優も大学教授も政治家もみいーんな同じ顔に見え
  てくる。数年前の日記に私は山崎豊子の小説「沈まぬ太陽」のことを書いた。これも
  大企業、政治家、官僚の等の社会構造に深くメスを入れた社会派小説だ。山崎豊子

  のように日本の悪しき権力構造に切り込んでゆく本格的な小説家はもうこれから
  先出てこないだろう。寂しいなあ、ため息が出てくる。そうだ、今夜は、さっき出来
  上がったばかりのマスターのカレーを食べてあげよう。エネルギーを溜め込んで前
  に進まなければ・・何しろ今年の御神籤は「思ったことは全て叶う」だからね。