今年ほど清涼飲料水をがぶがぶ飲んだ年はない。夜は好きでもないエアコン
を28度に設定して夜通し回しっ放しだ。それでもギンギン照りつける真夏の太陽
の下で熱中症を気にしながらあちらこちらに出かけた。先日は電車を乗り継いで
乃木坂まで行った。その日は国立新美術館のオルセー美術館展の最終日だっ

た。実はこのオルセー美術館展は始まってすぐに観に行った。日経新聞にもたび
たび紹介され、おなじみの作品がたくさんやって来ている。館内をゆっくり回り、夫
々の作品を顔をくっつけるようにしてゆっくり鑑賞することが出来た。何と贅沢なこ
とよ。こんな名画が身近に手に取るように観れるなんて。ワイフと館内のレストラ

ンで食事をしながら、満足感に浸った。たまたまこの展覧会の最終日、連日のペ
ンキ塗りが一区切りついたところで、もう一度、あの絵たちに会いたい気持ちがむ
くむくと湧いてきた。そのために汗びっしょりになって昨日はペンキ塗りに励んだ
のだ。ワイフももう一度、行きたい気持ちになっていたようだ。朝食を素早く済ま

せ、二人ともなぜか駆け足で急坂を上って町田駅に向かった。混雑を予想してい
たが40分待ちで館内に入ることが出来た。今回は2度目だから観たい絵を絞って
その前に進み、細かい筆使までじいっと覗き込む。画集などでは決して感じ取れ
ない画家の感情や技法を読み取ることが出来る。特にゴッホの筆さばきは遠景

では感じ取れない。ただ厚く塗りたくっているのではない。その繊細な筆さばきは
考え抜かれた表現なのだ。展示されていた7枚の絵には、それぞれが表現方法
に工夫が見られ、画家が試している(挑戦している)姿勢が随所に表れていた。
「ひまわり」「自画像」「狂人」・・こんな言葉ですまされない。ゴッホは奥が深い。

7枚の絵を見比べてみて、つくづくそう感じた。ポスト印象派の作品は色の輝きか
ら構図や内面的なテーマが加わり、絵に厚みが出てきたような気がする。だから
観る人にとってもいろんな観点からアプローチが出来て面白い。同じ絵を見て前
回、気がつかなかったことを再発見することがある。パリに住んでいたら、フラッと
       
喫茶店に立ち寄るように美術館に赴き、好きな絵に気軽に会うことが出来るんだ
・・・・・・クーラーの効いた帰りの電車の中でそんなことを考えていた。
「町田!町田」 我に返ってあわてて電車から降りた。頭から地べたから熱風が
押し寄せてくる。 「今日は奮発してデパートでうなぎでも買って帰ろうか」 ささや
         
かな庶民の楽しみだ。・・・・・・・・・・・
昨日も又出かけた。ドイツで声楽を勉強している友人の娘さんのコンサートがあっ
た。芸大出身の若きバリトン歌手(ドイツ在住)とのジョイントコンサートだった。
第三部では娘さんの母である友人の語り(彼女は朗読の会に所属)などもあり、

ほほえましい光景もあった。シューマンの作品を中心のリートは確かなもので40
年前にミュンヘンに留学中の声楽家、伊原直子さんや井形景紀さんとご一緒し
た時の姿が目を閉じると浮かんできて重なり合った。あの頃はみんな若かった
なー。舞台で歌う二人から若い情熱とパワーをいただいた。

芸術の世界には人に感動を与えるものがある。今の政治に夢も希望もないのと
対照的だ。こんな暑い寝苦しい夜は、エアコンつけて、「真夏の夜の夢」でも見る
ことにするか。   
  
         
         
 
 2010年8月13日  NO.415 「寝苦しい夜に」