2014年03月05日  NO.465 「ウクレレを弾く青年」      
 一か月前から写真の整理を始めた。私の家は貧しかったので、幼い時の個人的な
写真はそんなにたくさんはない。小学校時代は遠足や運動会、そして卒業アルバム
に顔を出している程度だ。学年が上がると共に写真の数が多くなってくる。大学に入
るころから世間並みの写真の枚数になってきた。不揃いのアルバムや、未整理のバ

ラの写真など複雑にいりこんでいる。もちろん独身時代の写真はすべてアナログであ
る。黄ばんでいる写真や2枚くっついてしまって破けている写真、カラーが劣化してモ
ノクロになっているものもある。それらの中からこれだけはというものを厳選して並べ
一枚づつ一眼レフのデジタルカメラで撮り直すのだ。スキャナも考えたが、今回は敢え

てデジタルカメラでやってみた。独身時代の写真144枚をSDカードに取り込みパソコ
ンで修正してカメラ屋に持って行った。そこで2時間かけて編集し、フォトブックで仕上
げてもらうことにした。これから先、古い昔の写真を取り出してゆっくり見るなどという
ことはほとんどないだろう。ましてや、自分以外の人に膨大な写真を見せることなどは

まず、考えられない。そこで、手始めに私の独身時代の写真144枚を本にしてみた。
表紙は屋根の上にある物干しの手すりに腰かけて、ウクレレを弾いている自分の姿。
出来上がってきた本(フォトブック)の表紙を手に取って見た。そこには若き日の青年が
まぶしく光り輝いていた。私はその自分の姿に図らずも感動してしまった。

 小学校時代からの友人、兄貴とふざけっこしている写真、今はアメリカに住んでいる
親友、大学入学前に近畿一周の旅に出かけた高校時代の仲間、そして何度も山歩き
やキャンプを共にした大学時代の友人、学校の警備員時代に組合活動で役所の中を
デモした写真……そしてドイツでの生活等々 失恋した時のげっそりと痩せこけた姿。

ページをめくってみていると写真以上にその時の情景が鮮明に浮かんでくる。
フォトブックを閉じてしばらく余韻を楽しんだ。自分のたどってきた道を振り返ってみると
よくも、まあーこんなことをしてきたものだ、と他人事のように感心してしまう。妙な気分
だ。今の自分じゃ到底できない数々の体験。何だかアルバムの中にいる青年からパワ

ーを貰ったような気持ちになった。懐古趣味は自分の性分には合わない。まだまだ人
生はこれからだ。目を爛々と光らせて下にどんどんと音を立てて階段を下りて行った。
キッチンで夕飯の支度をしていたワイフの肩をポンとたたいて、「今日のおかずはなん
だい!」と後ろから大きな声で叫んだ。「どうしたの?びっくりするじゃないの?」「いやー

腹がペコペコなもんで」 ウクレレを弾く青年はウキウキしながら彼女の顔を覗き込んだ。   
古いアルバムは思い切って処分することにした。思い出は記憶中に全部残っている。あ
とはハイライトを見るだけで十分だ。これから先、心に残るよう感動のシーンを何枚付け
加えることができるだろうか?そこに映し出される光景は楽しいことばかりではないだろ 

う。哀しいことも、苦しいこともきっとあるにちがいない。でも、感動は喜怒哀楽の中に必
ず宿っている。私はそんな感動に触れていたい、といつも思っている。