2015年08月06日  NO.485 「気分爽快な旅」      
 先日、ワイフの故郷、山形へ車で出かけた。私もワイフも夏風邪をこじらせ
コンコン咳をしながら、大事な約束事を果たすために思い切って出かけた次
第だ。家を朝の5時半に出て、首都高から浦和経由で東北自動車に乗った。
ドライブは順調そのもので、11時ごろには山形の寒河江インターに到着して

いた。「ホテルに荷物だけチャックインして、ひと風呂浴びない?」 ワイフか
ら、こんな提案が出るほど時間に余裕があった。温泉に入ってまた、この暑
い中(実は、
東北の山形は日中の最高気温が36度・37度、信じられない暑
さ) 車での親戚周りはしんどい。結局、良く利用する寒河江のチェリーランド

で昼食をいただくことにした。12時前だったのでまだお客も少なく、ゆっくり食
事をすることができた。「さーて、まずは墓参りだね。」 私はテーブルを離れ
カンカン照りの大駐車場を歩き始めた、その時である、「アッ入歯をテーブル
に置いてきた。」何万もする簡単にぱちんとはまる小入歯。血相を変えて駆

け足でレストランに戻った。私の利用したテーブルはすでに片付いていた。す
ぐ皿などを洗っている、おばさんの所に行って事情を話した。おばさんは片づ
けた盆には入歯などは無かったという。ここで引き下がるわけにはいかない。

私の険しい表情を察知して、箸や紙くずの入ったビニール袋を手でかき回し
て私の入歯を丹念に探してくれたが、見当たらない。そこで最後に横2メート
ル縦1.5メートルの水槽の中を手探りしはじめた。汚れている水槽の中には
食器とお盆が浸かっている。丹念に右から左にかき回して探してもらったが

小入歯は見つからない。約十分間、その間皿洗いの作業はストップしていた。
遠くの方からチラッ、チラッとおばさんの様子を見ていた強面の男性が私た
ちの方に近づいてきた。料理担当の主任のような人だった。私はおばさんに
早く仕事をするように注意しに来たのかな?と思った。だが、彼は事情を飲

み込むと、ゴミ袋の中身をひとつひとつ取り出しながら丁寧に調べ、歯がない
とわかると、水槽の栓をとり、水を抜き始めた。そして、食器を一か所に集め
水槽の中に溜まっている食べ物のかすを丁寧に取り出し始めた。その間、厨
房は若い男性が一人でやっている。水がだんだん減って来て、底が見え始め

た。ごみがほとんどなくなっている。栓の近くのごみを取れば終わりだ。歯は
出てこない。私はがっかりしながら、「ないですか。大変お手数をかけました」
と言った時、最後のひとつかみのゴミの中にピンクの物体が表れた。「これで
すか」「それです。助かりました。どうもありがとう」私は彼の手を力を込めて

握った。彼は軽く会釈して、直ぐ厨房に戻っていった。若い女性が彼のことを
部長と呼んいた。いちばん忙しい昼時、調理場の責任者が、仕事を中断して、
私の入歯を丹念にじっくり、ごみを精査しながら本気で探す部長と呼ばれる人。
 私は自分を彼に置き換えてみた。果たしてこれだけのことをしてあげていただ

ろうか。この部長さんはやるからには徹底的にやる、彼の作業を見ていてそん
な空気が伝わってきた。入歯が見つかった歓びもさることながら、仕事を中断し
て徹底的にゴミを一つ一つとりわけながら、淡々と作業をしていた部長さんの
姿に歓び以上のものを感じた。自分を見つめ直す良い機会でもあった。
体調は今一つだったが、気分爽快な山形の旅であった