2016年11月07日 NO.503 「星野道夫の旅」
先日、横浜高島屋に出かけた。私の好きな写真家、星野道夫の没後20年、特別展
が高島屋で開催されていた。最終日前日だったので10時開店に合わせて家を出た。
今まで、星野さんの作品は何冊かの本を通して、見ただけだった。写真も素晴らし
かったが、そこに書かれた散文詩風の文章(エッセイ)に魅せられていた。いつか彼の
写真を直接、見てみたいと常々、思っていた。
今回の没後20年の特別展は企画編集が完璧で、アラスカという厳しい自然の中に
どっぷりと浸り、カリブー、ザトウクジラ、ホッキョクグマなどの動物たちの生き様、美し
く咲き誇る植物、天空の星、オーロラを現地に住みついて日常の暮らしと一体となった
日々の生活をいろいろな角度から取り上げていた。ロシアでのテレビ取材中に事故に
遭遇し、43歳という若さで彼は亡くなった。年表をたどって勘定してみると、結婚し
て3年目に当たる。彼の文章や奥さんの解説、写真配置などをみると、この写真展
を構成に携わっているスタッフと星野道夫の気持ち、精神は完璧に一致している。
厳しい自然環境のアラスカの大地はまるで人類が現れる以前の姿のように彼には
映る。彼の視界に入るその光景を、全くのひとり、(たった一人の人間)彼だけが見て
いる。その瞬間は、この世に自分以外に誰もいない、彼はいつもそんな気持ちで自然
と対峙していたのではないか。そして彼はその情景を写真や文章にして他者と共有す
るのだ。だから、私は彼の文章を読みながら写真を見ていると、アラスカの大地に立
たずんで、カリブの群れを追いかけている自分がそこにいるのだ。そして、現実の日
常生活を重ねあわせながら、彼自身がそうであるように、読者にも、生きている歓び
を呼び起こしてくれるのだ。無限に広がる孤独な世界と、現実の社会生活を彼はい
つも結びつけ、読者に何かを投げかけるのだ。以前、ちょっと触れたが、大きな悩み
事を抱えた若者が彼の作品に遭遇し、自分自身を見直すために、普段の生活を断ち
切って一人旅に出たり、ボランィア活動を始めたり、遠くアラスカまで出かけている。
そして、彼らは自分自身を取戻し、医学や法律などの分野で現在、生き生きと活動し
ている。作品展の会場には一人でやって来た人がたくさんいた。彼らは日ごろ目にす
ることのできないカリブーの群れを食い入るように見ていた。勿論、私もその一員だ。
会場の出口でワイフと落ち合って、デパートでランチを食べた。気分爽快。腰痛もど
こかにすっ飛んで行ってしまった。
短い一生で
心惹かれることに
多くは出合わない
もし見つけたら
大切に…… 大切……
星野 道夫