ホフディラン アルバムレビュー(第11回)

『ホフディラン』2011.5.25


 今から、もう、13年も前になる。僕は、何日も前から、この日が来るのを心待ちにしていた。


 当時高校生だった僕は、いつもの部活を終えて、高台にある高校から、滑り降りるように坂段を降り始めていた。

 この時、僕が住んでいた街は、日本でも稀にみる、極めて急な傾斜に市街地を形作っていた。最近では、街の中にエスカレーターができたりしているらしい。それでも十分驚きだが、その当時は、本当に単に階段があるだけだった。市街地の通路すべてが階段なのである。まともに車が通れない。引越ですら馬を使っていたそうだ。
 はっきりいって、それは今考えるとすごいことだった。街(市街地)から、バスで上ると30分かかる高校だが、歩いて降りて行っても30分だった。それだけ、山の上の高校だった。
 ひとたび転べば落ちてしまいそうな坂段を一段飛ばしで駆け下りたのは、今日が、ホフディランの、新アルバムの、発売日だったからにほかならない。僕は、この前、初めてローカル局のラジオで、恋はいつも幻のようにを聞いた。心に残る、いい曲だった。市の南部に住む、ホフ好きのクラスメイトを誘って、市の中心部にある、バスターミナルで待ち合わせることにしている。

 必死に、坂を滑り降りて、バスターミナルに着いたとき、彼女はベンチに座っていた。僕に気づいて、夏の日差しを眩しそうに受けながら、僕をちらっと見て、微笑んでくれた。麦わら帽子を抑えながら、黒目がちな目を僕に向けて。

 僕は、その微笑みが、今にも、失われてしまうんじゃないかと、心配してしまって、急いで彼女のもとへ走って行った。


 ふと気づくと、僕は我に返って、朝日が描かれたCDケースをゆっくりと閉じた。音楽はタイムマシーンという歌詞をにわかに思い出した。


hoffdylan




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