メインページへ

熱の移動と熱抵抗、放熱のまとめ(必要な放熱器の計算まで)

トランジスタや3端子レギュレータを使用する際、消費電力が多いと放熱について考える必要が出てきます。
・放熱器は必要か不要か
・放熱器は何を選んだらよいか。
などを考えて決定しなければなりません。

筆者の場合、放熱を必要とすることが頻繁にないので、どのように考えるのかを忘れがちです。計算手順 は覚えているのですが、心配になって調べなおしたりしてしまいます。調べなおすのも、あっちこっちの 本を引っ張り出してきたりするので意外と大変です。なので今回このページにメモとしてまとめておこうと思います。

記 2010年11月20日

1.熱について

ここでは、トランジスタや3端子レギュレータなどの放熱を考えるときに必要となる「熱」についての考え方をまとめます。

1−1.放熱設計における「熱」についての誤解

日常生活の会話の中で「熱がある」とか「熱を計る」とかいう表現を使うことがあります。日常会話の中では これでよいのですが、放熱設計で「熱」という言葉を使うとき、同じようには使えません。
 日常生活での「熱がある」という言葉は「温度が高い」という意味です。「熱を計る」という言葉も「温度を計る」 と同じ意味で使われています。つまり、「熱」と「温度」を同じ意味で使用しているのです。

放熱設計で言う「熱」はエネルギーを意味します。なので高い・低いという表現は使いません。高いか低いかを表現 するのはあくまでも温度です。

これ以降「熱」は放熱設計で言うエネルギーとしての「熱」のことを指します。

1−2.熱の量

「熱」はエネルギーとしての量を「熱量」として表すことができます。単位はジュール[J]、あるいはカロリー[cal] を使います。このページではジュール[J]を用いて表します。

1−3.熱容量

ある物体の温度を1[℃]上げるのに必要な熱量を熱容量と言います。単位はジュール毎摂氏度[J/℃]を使います。
 例えば、熱容量10[J/℃]の物体の温度を5[℃]あげようと思ったら、必要な熱量Q[J]は
  Q[J]=10[J/℃]×5[℃]=50[J]
と、求まります。また、同じ物体に熱量8[J]を与えたら何度上がるかは
  T[℃]=8[J]/10[J/℃]=0.8[℃]
と求まります。
このように、物体の熱容量と熱、温度は互いに関係しあっています。

1−4.発熱

電気回路では、抵抗に電流を流すと電力を消費します。その消費量は抵抗にかけた電圧と流れた電流をかけた値で表されて 消費電力と呼ばれます。消費電力は抵抗から熱となって放出されます。
 これは抵抗によって、電気エネルギーが熱エネルギーに変換されていることを意味しています。変換と同時に抵抗 という物体に熱エネルギーが供給されるので、自身の熱容量との関係で抵抗の温度は上がります。


Pe[W]=E[V]×I[A]
図1.抵抗の電力消費
 図1に示すように、Pe[W]の電力が消費された場合、そのエネルギーの全てが熱エネルギーPt[W]に 変換されます。
   熱エネルギーPt[W]=消費電力Pe[W]
ここで使われている熱エネルギーの単位ワット[W]は、仕事率としてジュール毎秒[J/s]として考えることが できます。つまり、1秒間に熱量Pt[J]が発生すると考えることができるのです。
抵抗の熱容量がCr[J/℃]であるとすると、1秒ごとの温度上昇ΔTr[℃]は
   ΔTr[℃]=Pt[J]/Cr[J/℃]
になります。
 熱容量と熱の関係だけを見たとき、電流を流したままにすると1秒にΔTr[℃]のペースで永遠に温度上昇を続けます。

1−5.熱の移動

「発熱」の項で、「抵抗に電流を流し続けると抵抗の温度は永遠に上がり続ける」と述べましたが、実際は そうはなりません。それは熱の移動が行われているからです。
 温度が高い物体と低い物体があるとき、温度が高い物体から低い物体に熱が移動します。これを熱の移動と言い、 温度が低い物体は移動してきた熱量の分だけ温度が上昇し、温度が高い物体は失った熱量の分だけ温度が下がりま す。この現象により、温度が高い物体と低い物体は同じ温度になろうとします。
 上記の抵抗の例では、抵抗の温度が高くなったため、温度が低い抵抗の周りの空気に熱が移動したことになります。
 熱が移動する量は、熱流Q[W]として表現します。単位の[W]は1秒間に流れる熱量として[J/s]を表しています。

1−6.熱抵抗の存在

普段、定格電力内で使用している抵抗は焼け焦げません。抵抗から周りの空気へと熱の移動が行われているからです。 では、定格電力以上で抵抗を使用するとどうなるか。抵抗は焼け焦げてしまいます。

定格電力以上で抵抗を使用すると焦げてしまうのは、「周りの空気に移動する熱」よりも「電力消費によって 供給される熱」の方が多いからなのです。供給される熱が多いため、抵抗内部の熱量はどんどん増えて温度が上がり、 自分自身を焼いてしまうのです。
 「周りの空気に移動する熱」よりも「電力消費によって供給される熱」の方が多いという状態がなぜ存在するのか というと、そこには熱の移動をしにくくする熱抵抗θ[℃/W]というものが存在するからなのです。熱抵抗θによって 熱の移動量が制限されているのです。

熱の移動が始まるには、物体間で温度差が必要です。物体間の温度差がΔT[℃]で、熱流Q[W]が発生したとします。 このときの熱の流れにくさである熱抵抗θ[℃/W]は次の式で求めることができます。
   θ[℃/W]=ΔT[℃]/熱流Q[W] ・・・・式1

1−7.熱流−温度差 特性

式1を熱流を求める式に変形すると式2のようになります。
    熱流Q[W]=ΔT[℃]/θ[℃/W] ・・・・式2
そして、θ[℃/W]が一定であるとすると図2のようなグラフが書けます。
このグラフから、温度差が大きくなると熱流が多くなっていくことが分かります。


図2.熱流−温度差 特性

図3.電気抵抗の温度上昇

ここで、電気抵抗の温度上昇を考えてみましょう。
@電気抵抗に電圧をかけて電流を流すと、消費電力が熱に変換されて電気抵抗の持つ熱量が増えます。
 増えた熱量によって電気抵抗の温度が上がります。
A周りの空気よりも温度が上がると熱流が発生します。熱流が発生すると消費電力で発生する熱が周りの空気に
 逃げるので、抵抗内部に蓄積される熱量は[消費電力−熱流]となって@のときより少なくなります。
B増えた熱量[消費電力−熱流]によって抵抗の温度が上がります。
C周りの空気との温度差が開くので、熱流が増えます。
D BとCを繰り返して「消費電力=熱流」になると、抵抗内部の熱量が増えなくなるので抵抗の温度は上昇しなくなります。

この様子を図3に示します。

消費電力P[W]と熱流Q[W]が等しくなるときの温度差は、式1を次のように変形することで求めることができます。
   ΔT[℃]=θ[℃/W]×消費電力P[W] ・・・・式3
仮に電気抵抗の熱抵抗をθ=100[℃/W]、消費電力P=1[W]とするとΔT=100[℃]となって、周囲温度と100℃ の温度差でそれ以上温度は上がらなくなります。
このように熱がこれ以上あがらなくなった状態を定常状態と呼びます。また、定常状態に至るまでの温度上昇している 状態を過渡状態と呼びます。

 電子部品とその周りの空気との間の熱抵抗θが分かれば、消費電力に対する定常状態の温度差を計算で求めることが できるようになります。(消費電力に対して何度まで温度が上がるのかが分かるようになります。)このページの主題 であるトランジスタや3端子レギュレータの放熱も同じです。周囲の空気に対する熱抵抗θを求めることによって、
・放熱は足りているのか
・どのようにすれば放熱が足りるようになるのか
を考えることができるようになるのです。

まとめとして次の例を考えて見ましょう。
周囲の空気に対する熱抵抗θが100[℃/W]、120[℃]を超えると焦げ始める電気抵抗で、気温40[℃]において 消費できる最大電力を計算してみましょう。
     周囲の空気と抵抗の温度差ΔT=120[℃]−40[℃]=80[℃]
     消費電力P[W]=熱流Q[W]=80[℃]/100[℃/W]=0.8[W]
となります。
消費電力が0.8[W]のときに電気抵抗の温度が120[℃]の定常状態になります。消費電力が0.8[W]を超えると定常状態の 温度があがるので、電気抵抗の温度は上昇して120[℃]を超えて焦げ始めます。

1−8.熱回路

物体間の温度差、熱流、熱抵抗の関係は、電気回路のように抽象化して熱回路として考えることができます。
 この様子を図4に示します。


図4.電気回路と熱回路
温度差:ΔT(℃)
熱流 :Q(W)
熱抵抗:θ(℃/W)

ΔT=Qθ
θ=ΔT/Q
Q=ΔT/θ

・熱抵抗θに熱流Qが流れると、θの両端には温度ΔTが生じる。
・熱抵抗θに温度差ΔTがかかると、熱流Qが流れる。


2.半導体パッケージでの熱抵抗を求める

「1.熱について」では、電子部品の熱抵抗、発熱量、定常状態の温度差の関係がわかりました。
 ここでは、半導体のパッケージの中でチャネルが発熱してから、その熱が外気(周囲の空気)に流れていく経路の 熱抵抗の求め方を述べます。
 チャネルで発生した熱はどんな場合でも最終的には外気に放出されます。なのでチャネル−外気間の熱抵抗が 分かれば、「発熱量から定常状態の温度を」「定常状態の温度から使用可能な発熱量を」と自由に計算できるよう になります。そこに最大定格温度と使用する外気の温度範囲を加味すれば「放熱器が必要かどうか」「必要な放熱器の 熱抵抗の値は」ということも算出することができます。

2−1.パッケージ内の発熱と熱の移動

発熱する部分はチャネルとかジャンクションとか呼ばれています。部品の種類やメーカーによっても呼び方は 色々ですが、ここではチャネルと呼ぶことにします。
 チャネルの温度は最大定格が決められており、放熱対策ではこの温度が最大定格を超えないようにすることが目的 になります。

チャネルに電力の消費があると、チャネルの熱容量と発生する熱によってチャネルの温度が上がります。 すると、チャネルとケース間に温度差が生じてケースに対して熱の移動が始まります。

2−2.チャネル−ケース間熱抵抗θch-c

チャネルとケースの間には熱抵抗θch-cが存在します。この値はデータシートに記載されている場合もありますが 記載されていない場合には計算で求めることができます。


図5.チャネル−ケース間抵抗
 データシートにチャネル−ケース間熱抵抗θch-cの値が記載されていないときには、 データシートの最大定格のところに記載されている二つの値から計算して求めます。
@許容損失Pch(W):ケース温度Tc=25℃と一緒に記載されています。
A最大チャネル温度Tch(℃)

「ケース温度を25℃に保った状態で、チャネル温度が最大チャネル温度Tchで定常状態になる 消費電力は許容損失Pchである」と解釈します。

この状態を図で示したのが図5です。

チャネル−ケース間温度差Tch-c[℃]=最大チャネル温度Tch(℃)−25[℃]
とすると、チャネル−ケース間熱抵抗θch-cを求める式は以下のようになります。
    θch-c[℃/W]=Tch-c[℃]/Pch[W]

2−3.部品単体のチャネル−外気間熱抵抗θch-a

部品単体のチャネル−外気間熱抵抗θch-aが分かると、放熱器を使用しない時の熱特性を計算することができます。
 θch-aの値はデータシートに記載されている場合といない場合があります。記載されていなくても、外気温度 に対する許容電力がデータシートに載っていれば算出することができます。この値がデータシートにない場合には 実際にケース温度を測定して算出することになります。

私見ですが、東芝の場合、データシートに記載されていることが多いです。
 Renesasはドキュメントに記載されているのを見つけたので後述の表5に載せておきました。

2−3−1.外気温度に対する許容電力が分かる場合


図6.チャネル−外気間抵抗θch-a
 要領は2−2.チャネル−ケース間熱抵抗θch-cと同じです。ただし、許容損失Pchの値は外気温度Ta=25℃の 時のデータを使用する必要があります。この値がデータシートに出ているかどうかは製品しだいです。
 計算に使うデータは以下の二つです。
@許容損失Pch(W):外気温度Ta=25℃と一緒に記載されています。
A最大チャネル温度Tch(℃)
許容損失と最大チャネル温度は次のように結びつけて考えます。

「外気温度を25℃に保った状態で、チャネル温度が最大チャネル温度Tchで定常状態になる 消費電力は許容損失Pchである」と解釈します。

この状態を図で示したのが図6です。

チャネル−外気間温度差Tch-a[℃]=最大チャネル温度Tch(℃)−25[℃]
とすると、チャネル−外気間熱抵抗θch-aを求める式は以下のようになります。
    θch-a[℃/W]=Tch-a[℃]/Pch[W]

2−3−2.外気温度に対する許容電力も分からない場合


    θch-a=θch-c+θc-a
図7.チャネル−外気間抵抗θc-a
 この場合、データシートからの値で算出するのは無理なので、ケースの温度を計測して 計算する必要があります。
 チャネル−外気間熱抵抗θch-aは、チャネル−ケース間熱抵抗θch-cとケース−外気間熱抵抗θc-a を足したものと考えることができます。この状態を図7に示します。

 チャネル−ケース間熱抵抗θch-cはデータシートからの値を使って、2−2で示した方法で 値を算出することができますので、ケース−外気間熱抵抗θc-aを計測によって値を求めることになります。

ケース温度Tcと外気温度Taを計測しながら、消費電力Pchを零から増やしてゆき、ケースと外気温の差 (TcとTaの差)と、そのときの消費電力Pchを使って計算することができます。
このとき注意すべき点は、
・消費電力を変化させてから定常状態になるまでに少し時間がかかります。
 消費電力を変化させてからケースの温度が安定するまで待つことが必要です。
・チャネル温度が最大定格を超えない範囲で行わなければなりません。
 チャネル−ケース間熱抵抗θch-cをあらかじめ算出して、実験可能なケース温度と
消費電力の関係を把握しておきましょう。

ケース−外気間温度差Tc-a[℃]=ケース温度Tc(℃)−外気温度Ta[℃]
とすると、ケース−外気間熱抵抗θc-aを求める式は以下のようになります。
    θc-a[℃/W]=Tc-a[℃]/Pch[W]

2−4.放熱器付きチャネル−外気間熱抵抗θch-a

放熱器に取り付けた場合のチャネル−外気間熱抵抗θch-aは、
・チャネル−ケース間熱抵抗θch-c
・ケース−放熱器間熱抵抗θc-h
・放熱器−外気間熱抵抗θh-a
を合計したものになります。この様子を図8に示します。


    θch-a=θch-c+θc-h+θh-a
図8.放熱器付きチャネル−外気間抵抗θc-a

チャネル−ケース間熱抵抗θch-cの求め方は2−2の説明と同じなので、ここではケース−放熱器間熱抵抗θc-hと 放熱器−外気間熱抵抗θh-aについて述べます。

2−4−1.ケース−放熱器間熱抵抗θc-h

ケース−放熱器間熱抵抗θc-hは、
・ケースと放熱器の接触面積またはケースの形状
・絶縁板の有無
・シリコングリスの有無
・締め付けトルク
などが影響します。
正確に知りたい場合には計測するしかないのですが、半導体メーカーが目安となる値を提示してくれています。  シリコングリスや絶縁板は製品によってその特性が違うので、目安で心配な場合にはやはり計測するしかありません。

東芝とRenesasのドキュメントに「ケース−放熱器間熱抵抗θc-h」のデータが載っていたので表4,5に示します。

表4.東芝 ケース−放熱器熱抵抗と締め付けトルク
パッケージ 絶縁板 θc-h[℃/W] 締め付けトルク
[N.m]
シリコングリス
あり なし
TO-220AB 絶縁板なし 0.3-0.5 1.5-2.0 0.6
マイカ (50-100 μ) 2.0-2.5 4.0-6.0
TO-220(IS) 絶縁板なし 0.4-0.6 1.0-1.5 0.6
TO-3P 絶縁板なし 0.1-0.2 0.5-0.9 0.8
マイカ (50-100 μ) 0.5-0.8 2.0-3.0
TO-3PL 絶縁板なし 0.1-0.2 0.4-1.0 0.8
マイカ (50-100 μ) 0.5-0.7 1.2-1.5

表5.Renesas ケース−放熱器熱抵抗と締め付けトルク
パッケージ 絶縁板 θc-h[℃/W] θch-a[℃/W] 締め付けトルク
[N.m]
シリコングリス
あり なし
DPAK 絶縁板なし 0.3-0.6 2.0-2.5 178 0.6
TO-220AB 絶縁板なし 0.3-0.5 1.5-2.0 80 0.6
マイカ (50-100 μ) 2.0-2.5 4.0-6.0
LDPAK 絶縁板なし 0.3-0.5 1.5-2.0 83.3 0.6
TO-220FM 絶縁板なし 0.4-0.6 1.5-2.0 62.5 0.6
TO-3P 絶縁板なし 0.1-0.2 0.5-0.9 55 0.8
マイカ (50-100 μ) 0.5-0.8 2.0-3.0
TO-3PFM 絶縁板なし 0.3-0.5 1.0-1.5 42 0.6
TO-3PL 絶縁板なし 0.1-0.2 0.4-0.5 45 0.8
マイカ (50-100 μ) 0.5-0.7 1.2-1.5

2−4−2.放熱器−外気間熱抵抗θh-a

市販品の放熱器を使う場合には、製造メーカーのデータシートから熱抵抗を調べることになります。

 自分で切って加工した金属板を放熱器として活用する方法があります。トランジスタ技術誌に 金属板の面積と熱抵抗のグラフが載っているのですが、コピーするのは憚られるので年月ページ だけを以下に記しておきます。
トランジスタ技術2003年4月号185ページ
トランジスタ技術2007年2月号232ページ



3.計算例

秋月電子でたまたま売っていたNチャネルMOS-FET、2SK3628のデータを使って試算してみます。
データシートはこれです
絶対最大定格を表6に示します。

表6. 2SK3628の絶対最大定格

3−1.チャネル−ケース間熱抵抗θch-c

計算に必要なデータを表6から抜き出すと以下のようになります。
   消費電力Pd=100[W]
   チャネル温度Tch=150[℃]
チャネル−ケース間熱抵抗θch-c=(150[℃]−25[℃])/100[W]=1.25[℃/W]
となります。

3−2.チャネル−外気間熱抵抗θch-a

計算に必要なデータを表6から抜き出すと以下のようになります。
   消費電力(Ta=25℃)Pd=3[W]
   チャネル温度Tch=150[℃]
チャネル−外気間熱抵抗θch-a=(150[℃]−25[℃])/3[W]≒41.7[℃/W]
となります。

3−3.放熱器なしで使うときの最大消費電力

このFETを放熱器なしで使用するときの使用可能な最大消費電力を求めてみましょう。
 まずは最大チャネル温度から考えましょう。ぎりぎりで設計すると怖いので、今回は最大定格の80% にしてみます。
    Tch=150℃×0.8=120℃
 次に外気温ですが、使用する環境での最高気温プラスαで考えます。真夏でも室温は40℃まではめったに ならないと思うので、40℃に+10℃して
    Ta=50℃
とします。すると温度差は
    Tch-a=120℃−50℃=70℃
となります。

あとはチャネル−外気間熱抵抗θch-aを使って70℃の温度差で定常状態になる消費電力を計算すれば終わりです。     Pch[W]=Tch-a/θch-a=70[℃]/41.7[℃/W]≒1.68[W]

3−4.消費電力30Wで使いたい

放熱器に取り付けない状態では1.7W程度までしか使用することができません。より消費電力が多い用途に 使用するには放熱器に取り付けて熱抵抗を下げてあげる必要があります。
 使用する温度は3−3と同じ条件で30Wまで使用できる熱抵抗を考えて見ましょう。
まず、温度条件は3−3と同じなので
    Tch=150℃×0.8=120℃
    Ta=50℃
    Tch-a=120℃−50℃=70℃
です。この温度差で、30Wの消費電力で定常状態になる熱抵抗θch-aは
    θch-a=Tch-a/Pch=70[℃]/30[W]≒2.33[℃/W]
となります。θch-aの値が2.33[℃/W]より大きくなると30W消費させたときの温度差Tch-aは70℃を超えて しまいますので、
    θch-a≦2.33[℃/W]
の範囲で考える必要があります。

[チャネル−外気間熱抵抗θch-a]=[チャネル−ケース間熱抵抗θch-c]+[ケース−外気間熱抵抗θc-a]
と合わせると、
    θch-c+θc-a≦2.33[℃/W]
となり、θch-c=1.25[℃/W]なので
    1.25[℃/W]+θc-a≦2.33[℃/W]
    θc-a≦1.08[℃/W]
となります。

さらに、
[ケース−外気間熱抵抗θc-a]=[ケース−放熱器間熱抵抗θc-h]+[放熱器−外気間熱抵抗θh-a]
であることから
    θc-h+θh-a≦1.08[℃/W]
となります。
ここで、ケース−放熱器間熱抵抗θc-hを考えるにあたり、FETの放熱器への取り付け方を決めます。
・絶縁板なし
・シリコングリス塗布
とします。
Panasonicのパッケージごとの接触熱抵抗のデータが入手できなかったので、表4の東芝の値を流用します。 TO-3Pに接触面積が近いようなので
    θc-h=0.20[℃/W]
としました。よって、
    0.2[℃/W]+θh-a≦1.08[℃/W]
    θh-a≦0.88[℃/W]
となり、放熱器の熱抵抗は0.88[℃/W]以下のもの、ということになります。