東野圭吾


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ひがしのけいご。1958年、大阪市生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業。1984年「放課後」で江戸川乱歩賞、1999年「秘密」で日本推理作家協会賞を受賞する。

2006年「容疑者Xの献身」で直木賞と本格ミステリ大賞を受賞する。

著書は「分身」「白夜行」「あの頃ぼくらはアホでした」「鳥人計画」「超・殺人事件」

「おれは非情勤」「レイクサイド」「ゲームの名は誘拐」「手紙」「殺人の門」「幻夜」「チャレンジ?」「さまよう刃」など。

怪笑小説   毒笑小説

黒笑小説   名探偵の掟

超・殺人事件   名探偵の呪縛

 

 

 

怪笑小説

集英社

ISBN

4-08-774168-0

1995年10月第1刷

1553円+税

怪笑小説

( ユーモア小説 )

 1993年から1995年まで「小説すばる」および「小説新潮」に掲載された短篇を1冊にまとめたもの。気分がふさいだ時や明るくなりたい時に向いている。

作品は「鬱積電車」、「おっかけバアさん」、「一徹おやじ」、「逆転同窓会」、「超たぬき理論」、「無人島大相撲中継」、「しかばね台分譲住宅」、「あるジーサンに線香を」、「動物家族」の9作品となっている。

「怪笑」は作者もしくは出版社による造語だろうか。ブラック・ユーモアよりは癖がなくて、単なるお笑いよりは灰汁(あく)があるものを指しているようだ。

いずれも短篇だから、結末で、それまでの話がひっくり返る楽しみがある。全般的な印象としては、清水義範さんのユーモア小説に似ている。

( 電車 )

「鬱積電車」は大都市で通勤、通学のため満員電車に乗った経験がある人は、「そうそう、そんな覚えがあるよ」とうなづけるだろう。

( 氷川きよし )

「おっかけバアさん」は、かつておばさまを熱狂させた元俳優、杉良太郎をモデルにしている。つつましい年金暮らしをしていたおばあちゃんが、お杉さまの追っかけになるドタバタ悲喜劇。いまならば、氷川きよしを想像すればよい。

( 根性ドラマ )

「一徹おやじ」は、かつて一世を風靡したスポーツ根性劇画『巨人の星』のパロディだ。元ネタを知っていれば面白く読めるだろうが、20代以下の世代には馴染みにくいかもしれない。

( 余計なあとがき )

 それぞれの作品のあとに「作者あとがき」が載っているが、作者の生真面目すぎる人柄が出ている。でもこれは、落語の解説を聞いている感じがあって興ざめだ。

 

 

 
毒笑小説

集英社

ISBN

978-4-08-747013-0

1999年2月第1刷

2007年3月第19刷

600円+税

単行本は1996年7月、集英社。

毒笑小説

( くつろぎのために )

 短篇12作品が載っている文庫本だが、この文章を書いている時点(2008年2月)で、まだ 5 作品しか読んでいない。残りは放り投げたのではない。

上記「怪笑小説」と同じく、気分転換を図りたいときに手頃な短編集だから、あとでゆっくり楽しむつもりでいる。いわば、犬がエサを庭に埋めるのと変わりない。

( お笑い小説 )

 巻末の企画記事として、「守れ、笑いの牙城。めざせ「お笑い」ルネッサンス!」という京極夏彦との対談が載っている。

 すでに読んだ 5 作品は、「誘拐天国」「マニュアル警察」「女流作家」「殺意取扱説明書」「栄光の証言」である。

( いくつかのあらすじ )

 「誘拐天国」のおもな登場人物は、宝船満太郎、銭箱大吉、福富豊作の三人である。みんな名前のとおり財をなした人物で、いたずら好きでやたらと血の気が多い。そこで三人が悪知恵をはたからせて、ろくでもない計画を実行する。

この設定だけで顔をしかめたり、引いたり、小説に道徳心を求める人には、この短編集は向いていない。

「女流作家」は、ラストの落ちがある程度わかるように書かれているが、作者の仕掛けの半分しか気づかなかった。

「殺意取扱説明書」は、やり方によっては恐ろしく深刻な小説になりかねない。だけど毒笑小説のひとつなので、笑撃の問題作にとどまっている。

「栄光の証言」は、刑事事件における証言の問題点が浮き彫りにされている。もっと詳しく書きたいが、ネタばれになるおそれがあるので止めておこう。

 マニュアルがないと何もできない、指示されるまでは自分から動こうとしない。こんな世相をからかった場面もある。

 

 

 
黒笑小説

集英社

ISBN

4-08-774754-9

2005年4月第1刷

1600円+税

黒笑小説

( この短編集について )

 「もうひとつの助走」など 13 作品をまとめた短編集。13 という数字自体がブラック・ユーモアだ。全体として「怪笑小説」「毒笑小説」よりも毒性がやや強い。

何にでもすぐ腹を立てる人には、この短編集はきつすぎる。というか、短気な人ならば「黒笑小説」という文字を見るだけで、しかめ面をするだろう。

13 作品はすべて「小説すばる」の1999年7月号から2005年4月号までに掲載された。

( 文壇ネタ )

「もうひとつの助走」「線香花火」「過去の人」「選考会」はいずれも、文学賞の発表前後にゆれ動く作家と編集者の外見と本音が、おもしろおかしく対比されている。

著者の東野圭吾さんは、5 回も直木賞候補になり、6 回目で受賞した。だから文学賞が発表されるたびに一喜一憂する関係者の気持ちが身にしみてわかるのだろう。

直木賞作家になる前に、みずからの体験を笑い話にしたのだからたくましい。作家は転んだら砂金をつかんで立ちあがる。

もっとも、6回も直木賞候補になるというのは、相当な実力がなければ達成できない。ほとんどの作家は一度も候補にはなれないのだから。

「もうひとつの助走」ほか 3 作品を読むと、新人賞とは「小説を書いていけるかもしれない」と判断されたに過ぎないようだ。小説家として生き残ってゆくのはおそろしく厳しいのだろう。

( 男の悲哀 )

「モテモテ・スプレー」と「ストーカー入門」は、さっぱりもてない男が、もてたい願望をどうしても捨てきれず、恋のために振りまわされる話である。

「臨界家族」は風刺が効いた秀逸だ。テレビ向けのアニメは、関連商品とセットで営業戦略が練りあげられる。

アニメ番組が終わるとすぐ、テレビ画面は、アニメの主人公が使っていた小道具の宣伝に切りかわる。当然、幼児たちはそれを欲しがり、「あれ買って」と親にねだる。

ところがアニメグッズは高いから、父親は働いてもなお節約を強いられる。「臨界家族」はそんな話だ。作品名がなぜ「臨界」なのかは、ラストの落ちを読めばわかるようになっている。

 

 
名探偵の掟

講談社

ISBN

4-06-264618-8

1999年7月第1刷

2008年1月第39刷

590円+税

名探偵の掟

( まじめな冗談小説 )

 県警本部捜査1課の大河原警部が主人公であり、相棒の天下一大五郎探偵が活躍する。天下一はもちろん横溝正史の小説に出てくる金田一耕助のパロディだ。

刑事事件が次々と起こって、ふたりは現場に駆けつける。だけど「名探偵の掟(おきて)」は推理小説ではない。名探偵と間抜けな刑事の役割分担のあり方が問題にされている。

大河原は天下一の引き立て役なので、自分の手で真犯人をみつけてはいけない。つかまえた容疑者はあとでかならずアリバイが証明され、大河原は恥をさらす。

おまけに大河原は長野県警や千葉県警にいたり、警視庁の警部だったりする。天下一大五郎は温泉地の事件ではなぜか女になって登場し、入浴シーンで視聴者を引きつける。

( パターン別の雰囲気を楽しむ )

 「名探偵の掟」は、密室事件、時刻表トリック、2時間ドラマ、閉ざされた空間といった推理小説のパターンをふまえた12章からなる短篇集である。

警部と探偵が地道な捜査をして、ようやく真相にたどりつく長編ではない。事件がおこるとすぐに事件は解決する。天下一大五郎は関係者をあつめて謎解きを始め、「犯人はあなただ」と得意になって指さす。

 つまり推理小説の雰囲気だけを楽しむ連作なので、推理物は苦手だとか、あれこれ考えるのは面倒だとか、陰惨な場面など読みたくないという人にもお薦めできる。

 

 

 
超・殺人事件

新潮エンターテインメント倶楽部SS

ISBN

4-10-602649-X

2001年6月発行

1400円+税

超・殺人事件

下記 8編からなる短編集で、1996年から2000年にかけて『小説新潮』に掲載された。

「超税金対策殺人事件」、「超理系殺人事件」、「超犯人当て小説殺人事件」、「超高齢化社会殺人事件」

「超予告小説殺人事件」、「超長編小説殺人事件」、「魔風館殺人事件」、「超読書機械殺人事件」。

( ユーモア短編集 )

副題は、「 推理作家の苦悩 」となっているが、歴史に名をのこすような文豪が、創作に苦しんでいる姿をリアルに描写するのとは毛色がちがう。

さえない推理作家が、こまったあげくに、とんでもない小説をでっちあげてしまう趣向のユーモア短編集である。たぶん、著者はストレス解消のために書いたのだろう。

作家にとって小説は創作活動だが、編集者にとっては商品であるという意識のずれを、この短編集では活かしている。

つぎにあげる 3作品は世の中への風刺が利いているので、ラストでにやりと笑った。

( 超税金対策殺人事件 )

収入が急に増えた作家が、遊びにお金を使い果たした。ところが税理士から、来年の所得税はがっぽり取られると知らされ、節税対策を考える。

( 超高齢化社会殺人事件 )

読書離れが進行したので、作家も読者も高齢化した。そこで、もうろくした作家も現役でがんばるようになった。

当然、小説の原稿は矛盾や意味不明の個所が増える。だが、状況はそんなに簡単ではなかった。

( 超長編小説殺人事件 )

原稿用紙800枚の推理小説を書き終えた作家が、編集者から2000枚に増やすように要求された。

ものすごく 長い作品でないと注目されないからだという。つづく第 2作はもっとエスカレートするのだった。

 

 

 
名探偵の呪縛

講談社文庫

ISBN

4-06-263349-3

1996年10月第1刷

2009年3月第41刷

571円+税

2009年7月読了

 文庫特別書下ろし作品。表紙の帯には、「名探偵天下一大五郎ここにも登場!」と書かれている。これは宣伝文句だが、ひょっとして謎解きのヒントになるかもしれない。

( 設定に難あり )

 いちおう最後まで読んだが、東野圭吾の推理小説としては物足りなくて、できが悪いというのが率直な感想だ。

 天下一大五郎は、ふとしたことで、日本のどこかの見知らぬ地方都市にさまよいこむ。そこで住人たちと出会うのだが、誰もが殺人事件に巻き込まれるのが目的で登場するような感じがする。

天下一は事件の謎解きをして、犯人をうならせる。だけど、犯人が人殺しをするにいたった動機が弱い。その程度の気持ちのゆがみで、はたして殺人をおかすだろうかと首をかしげる。

 それに、事件が起こった都市が、なんだか非現実的なのも気になる。日本のどこかではあるが、住民たちはみんな現実離れした考え方をする。

おどろいたことに、住民たちは「本格推理小説」というジャンルがあることさえ誰ひとり知らない。

( マニア好み )

 こうなると、東野圭吾は推理小説に詳しくないのかと罵りたくなるが、そうではない。東野はもっとも有名な推理作家だ。そこいらのアマチュアじゃない。

殺人事件の動機不在と非現実的な都市という不自然さなど先刻承知のうえで、「名探偵の呪縛」は書かれている。つまり、「名探偵の呪縛」はたぶん、マニア好みの作品なのだ。

だから小説のあちこちに、マニア向けの趣向がこらされているはずだが、わたしのような一般読者は仕掛けに気づかない。

 

 

 

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