和歌

恋歌(4)

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失恋

 

 

失恋

祈りけん事は夢にて限りてよ さてもあふてふ名こそ惜しけれ

四条宰相、後拾遺集944番。

会えるようにと祈ったのは、夢の中だけにしてね。それでもやっぱり私に会いたいとおっしゃってもねえ。浮き名ばかりがたって、私の名前がすたれます。

藤原能通が、四条宰相に惚れて、石山寺で会いたいと祈った。すると、「会える」という夢をみた。そこで能通は四条宰相の乳母に手紙を出して伝えた。その返事が「祈りけん……」で、能通はふられた。

 

忘らるる身はことわりと知りながら 思ひあへぬは涙なりけり

清少納言、詞花集265番。

我が身が忘れられているのは当然と心では知っていても、涙が出るのは、涙はそれを理解できないからなんですね。

これは男の心がもどって来るのを願って、相手に送った作品。

 

 

いつしかと待ちしかひなく秋風に そよとばかりも荻の音せぬ

源道済(みちなり)、後拾遺集949番。

早く約束の秋にならないかと待っていた甲斐もなく、荻の花が風にそよぐ音さえ聞こえてきません。

「そよ」は荻の葉にそよぐ風の音で、「そうよ」の擬音語。「荻」は女に見立てている。

したがって、会うのは秋まで待って下さいとあなたはいったのに、いつになったら会って頂けるのでしょうか。しかし、女はもう会う気が失せている。

 

商変り領らすとの御法あらばこそ わが下衣返し賜はめ

作者不詳、万葉集16−3809番。

女はこれまで愛されていたので、しきたりに従って下着を交換していた。でも男の愛情が薄れ、愛という契約も解消された。売買契約解消を許すという法律があるとすれば、私が差しあげた下衣をお返し下さってもよさそうなものを。

なお、いったん買い物をして品物を授受したら、みだりに売買契約を取り消してはならないという法律があった。

現代はこんな簡単ではなくて、慰謝料をちょうだい。いや、悪いのは君のほうだ。なに言ってんのよ、子供の養育費も必要なのよ。冗談じゃない、1円だって出せないね……。

「商変り(あきがはり)」は売買契約解消。「領(し)らす」は、治めるが転じて、許すという意味。「御法(みのり)」は法律。「下衣(したごろも)」は下着。

 

 

雲の上に さばかりさしし日影にも 君がつららはとけずなりにき

藤原公成、後拾遺集622番。

雲の上にあれほど射した日光にも、つららのようなあなたの冷たい心は解けませんでしたね。

作者には、和泉式部のむすめ小式部内侍とのあいだに子供がいるから、別の女のことを恨めしく思って詠んだのか。創作の背景がよくわからない。

つぎの623番は、ほかの人物の作品なので、作者は返事をもらえなかったようだ。「君は氷みたいに冷たい人だね」と言われて、「あら、そうかしら」と返事をする女はいないだろうが。

 

この頃の吾が恋力 記し集め 功に申さば五位の冠

作者不詳、万葉集16−3858番。

五位以上は貴族なので、作者はそれ以下の地位にいたのだろう。たぶん平社員みたいな人が、恋のためにひどく骨を折って苦労している。この「功績?」を書いて申告すれば、きっと五位の偉い役に就けるほど大変なんだよ。

こんなに苦労しているようならば、恋は実らないだろう。古語辞典で恋力を引くと、この歌が出ているだけだから、恋力は作者の造語だろうか。

恋力(こひぢから):恋のための苦労。記し(しるし):書き記す。功(くう)に申さば:功績を申請する。奈良時代は、位が欲しいときは自己申告して認めてもらった。冠(かがふり):かんむり、位階。

平成14年4月のある日、地下鉄の吊り広告をなにげなく見たら、某洋酒メーカーがワインの宣伝文に、次のような文章を書いていた。

恋力が湧いてくる

社名は伏せるが、京都の山崎に工場があるといっているメーカーだ。でも工場は京都府の大山崎町じゃなくて、大阪府の島本町にある。関東に住んでいる私には、京都でも大阪でも構わないけど。

 
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