2002.02.04

朝   へ

<SN型冷蔵庫>


 台所の中でさえ、心の置き場をふと考えてしまう事
 を知ったのだとおもう。
 今日と言う日に、起きた事がわだかまりを作ったか
 らこそ、驚きを持つのであり、此れが記されている
 ので、あろうとおもう。
 例えば、冷蔵庫一つ増えた事に、驚きを重ねるのは
 ありていに言えば、改装された台所の空間にピッタ
 リとおさまっている事実が、目の前にあるのを見て
 しまっているからだ。
 Toshiba・SN型北斗星
 ライトグリーンの冷蔵庫
 中に入っているものが、相も変わらず、同じもので
 あっても−−けっして、カタログの様であるはずが
 ないのだけれど−−古ぼけたものの、使いにくさの
 水たまりに足を止められた者が、立ち働く限り、冷
 蔵庫のドアが開閉され、トマトや肉が取り出されて
 行き、そしてテーブルの上に、サラダや、肉料理が
 並べられ、食べられ、片付けられて行く。
 だから、ドアは、一度閉まっても、その開閉運動を
 翌日まで、続ける事が可能になるのだろう。

<構図から>


 テーブルの上におかれたいる、コップとコーヒー茶
 碗と砂糖とを、目の前にある通りにながめている。
 天井から来る光が作るものの影がそこで、図を作る
 のを、しばらくの間眺めていても、見飽きぬものが
 あるのは、私の視線に広がるそれらが、固定した写
 真の像の様に思えるから。

 テーブルの上から何も生まれぬのであるにしても充
 実した時間を私が持つ中で、本や衣服で乱雑になっ
 ていた室が、ある日曜日に清掃された後の様な不安
 定をもたらす。
 たぶん、私は一つの体験をなしたのであり、眠って
 は目覚め、目覚めては眠ると言う言う事ですぎて行
 くものたちの中で、時々おこる光の乱反射のような
 ものを身にあびたのである。

<雨 模 様 へ >


 見る角度があって、見られるものが、斜に区切られ
 て来る時、雨でさえも、流れるものとして地平に対
 して、一つの角度を持つことになる。
 歩いている時に突然に降り出した雨が、全身ずぶぬ
 れになる、驟雨であっても、次のデパートの入り口
 まで、急いで駆け抜ける足下の、乾き具合が、すば
 く表れて行く様子だけが、一面になる。
 入り口に辿り着いて、雨が急にやんで仕舞ったとし
 ても、陽射しが明るくなるにつれて、雨が降ったと
 言う事だけでは、日足や、空気の状態で感知され続
 ける。
 又、しょぼふる雨を室の中から窓越しに見ている時
 何もする事がなくなった手持ちぶたさの中で窓ガラ
 スの格子の模様と落ち続ける雨脚を見つめているの
 は、幾何される原始の姿を目の前に持つ事になるの
 だと思う。
 傘のさし具合によっては、また濡れると言う事は当
 たり前なのであり、その為に玄関に傘が用意してあ
 ることを、雨の日に知るのだと言う事だ。

<光のなかで>


 一条の光の中で、流れ続ける煙り模様を
 見つめている事に
 時間のたたぬのは、私の座っている席から僅かな角
 度で見上げられる位置が
 充満しているからなのである。
 立ち込める煙りがあって
 冷気の流れる室
 だからこそ、また煙りの中を
 様をなして動いて行くのだし
 幾つかの層を区切る事ができる。

<茶  店>


 その店の天井に並ぶ数個のライトと
 一番端に揺れているライトが
 天井から見下ろす位置に深さを与え
 人々の頭上にあるものは
 ドアに向う人々に手のとどくほどの
 なつかしさを与える。

 見られたものの位置に自由を与え
 2メートル30の室の床から天井への
 すれすれの視覚が
 椅子せきのある空間に広がる。

<朝へ>

 居間と玄関脇の室のそれぞれにある
 二つの時計が
 数分のずれをなして2時の音をたてると
 寝静まった家の台所にたたずむ私の位置の上で
 テーブルや蛇口やガスレンジが明るくなる。
 さっき帰ったばかりの私の中で
 深夜の国道を走り続けて来た車の暖房の汗の余韻
 を残す。
 先日買い替えたばかりの冷蔵庫の、ジーンと唸る
 音が、私の背後で響き、ミルクと冷たい夕食の残
 りものが、胃の中に流れて行く。
 耳を音に向け、ひんやりしたミルクの流れを感ず
 ることで、深夜の時を知り、椅子にすわる私自身
 のけだるさを一瞬わする。
 後に残された事は、ただ蒲団の中でのびることで
 あり、目覚めた時の窓からの光りに、朝を感ずる
 事だとふとおもったのである。

<確かに、あるものを示す>

 私の家や木々の上空をを飛ぶ
 N学園から離陸したグライダー
 目で曲線の軌跡を追い
 数分の間見とれていれば
 飛行する物体が私の目の前で
 広がりをしめす。
 例えば、残暑の日であれば
 にじみ出て来る汗を
 スーと拭いながらみとれる
 数分間は
 確かに青空に、向ってみあげる
 私の所に淀んでいるものを
 耳に聞こえる微かな音ども
 ともに
 あるがままにしめす。