2002.02.03

深 夜 の 自 画 像

<七 月 の 実 在>


 梅雨あけた朝
 排尿にともなうわずかな時間の流れの中で
 目に入ってくる下着の白さが
 やけに目にしみる

 窓外の
 屋根の日陰が地面に
 一つの線を作り
 明暗のコントラストが
 幾何学された図形のように
 そこだけ浮遊する

 木々のみどりが
 木々の緑と言うように塊を作り
 葉と葉
 枝と枝
 の間に見えかくれする

 風が
 隣家の窓ガラスに反射する光りを
 さえぎる。
 −−風に音を重ね
   光に匂いをふりかけるように

<深 夜 の 自 画 像>


 深夜
 国道を
 トラックの通過していく音が
 NからK市へと
 流れていく。
 庭に立ち止まる私の
 この存在の厚みに似たものが
 緩やかな距離をおいて
 私へと積み重ねられてくる
 −−数十分の間に通過していったのが
   わずかな数であっても

 例えばその音は
 透明な液体の様に
 素早く拡がり
 透明な層をなして
 私の背後で一枚一枚
 かさなる

 国道と庭をはさむ
 家並の間を
 二つの軸で
 平行に拡がるように
 像をつくっている。
  

<垂  線>


 夕暮れ
 雲の切れ間から
 円錐状の光がひろがり
 私の帰り行く方向に在る切れ間から続く
 空間が
 私の背後から
 家並み遥かな山脈のつらなりを結ぶ時
 私は
 私の位置を
 木々や川やS工場のポールに
 はためく旗の中を
 ぬう様に
 歩くのをみている。
  

<始まりと言えそうなものへの可動>


 図書館の木製のテーブルの脇で
 書き物の手を休め
 透明な壁画のようなガラス窓の外側に拡がる空に
 目をむける

 ビルとビルの上に広がる空間に一羽の鳥が
 軌跡を描く
 その時
 私の夢の中に絶えず現れる飛翔の像が
 ガラス窓のこちら側で形をなす

 鳥の位置にいて
 図書館のある町並みを見下ろす時
 夢の中にの飛翔の像がすばやく飛び立つ

 手を休めた私の鼓動と窓がラス越しに広がる
 空間と言う
 この形態のすべてが
 すっぽりと切り取られたもののように
 孤立し
 海の上空に広がる雲と
 空の下に流れる海との
 たゆやかさを
 その孤立の中に
 充満させ続ける
 

<自分だけには、わかることがある>


 たぶん、自分だけに解る事がある
 左手をあげ、おろし、次に右手をあげ、おろす
 と言う事のどこかで、こんなことでしかない
 と言う事がある。
 交差点の信号が、青になったから歩き出し
 黄色になりかけたから、すばやく走ると言う事で
 少なくとも一瞬の時は流れていく様に
  

<自  戒  抄>

 お昼に目覚め、飯を食べ、又街に出ると言う事が問
 題なのではな(お昼に目覚め−−出る)と記す事に
 より、結ばれてしまう像の位置が問われねばならぬ
 一心に神経を集中していた所から空の広がった所ま
 で来た時、全身がその広がりと加速度に重なる感性
 を持つ為に、電車のドアが閉まりかける僅かな距離
 にみあう様な動きをする自己が、発車のベルが鳴り
 終わった後の余韻を捕らえるのである。
 電車に乗り遅れてしまうから急ぐのであり、次の電
 車にすればいいから、ゆっくり歩くと言う言う事で
 いいのです。