<森>
何故人々は、町を抜けて森へ行くのか
木々の緑と
空気の透明感をかき乱し
高速度悪露を通り抜け
限定料金所をぬけて
森がない 森がない 道ばかり
いつもの四人乗りに分乗し
ひと間の風景画の前から
せせらぎのそばに行く
風景画では味わえない
深い森を感ずる為に?
町を町のある場所に置き
高速高架道路を通り
森に行く
森がない 森がない 道ばかり
森の緑には
光り合成作用による酸素が満ち
マンホールの内側に起きた酸欠と
比べるべきものがあるから?
森には 高速高架道路の続きとおぼしき
道がつらなり
入り口に
<これより車乗り入れ禁止>の
白い標識が立て掛けられている
森がない 森がない 道ばかり
<ふたつのまとめ>
町を町の有る場所におくように
四人乗りの車は
路上におかれ
森は いつしか
町と人間の間に
道のようにおかれる
森がない 森がない 道ばかり
森へ何故行くか
行く為に何故行くか
道のように
何故行くか
詩論が書かれる
向う側を何故行くか
<夜明け速く>
<朝影は>靄の中で
小鳥の鳴き声にゆらぐ
閉ざしたままの雨戸をそのままにして
このまま遅い眠りにつくか
層となった連なりの様に
階下の
四角いテーブルの角に
丸くおさまるか
家並みはたぶん緑の木々と共に
朝露にぬれ
歩くたびごとに
足下は明るくなるが
敷き詰められた蒲団のある部屋は
数時間もすれば
初夏の光と暑さで
ふくらみ始める
<あればなら>
そうだ今すぐに出かけよう
朝五時
ベッドの脇を流れる空気は
小鳥の飛び跳ねる鳴き声と
混ざりあって
さわやかだ
夏にしては
ものの輪郭が自己主張し
朝露の路上は
黒々として明るく
落着きが有る
そうだ今すぐ戸を開けて
矩形のビルの間
空間ばかりの
電車通りとは反対の
まだ車の通っていない
七号通りに出よう
自由点滅のあの交差点
過ぎるころには
鼓動と供に
息は賂上の白線のリズムに
重なるのだから
<実在が背後へ>
八月の影を切る
木々の陰の向う側
ビルの白い壁面が光る時
こちら側
私に見られている面と
直線によって切られる面とが
垂直に交差する
一日の時間の中で
陰の移動とともに
両側の壁面が
中心から傾斜しはじめ
光が照らし出されてくると
すでに数時間
窓ガラスの脇のイスに座り続けている
私の心に
光が層をなして
積み重ねられてきた
私はそれを見続けているのだが
私の身体は眠りらついた犬の様に
イスの上に丸くなり
全身の重みを
重みだけと言う様に支えている
瞳孔の広がりの中で
光が白くあふれ
一切の実在が
眠りの時のように
背後に隠れる
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