2002.02.25

森へ行く事の一つの詩論

<森>


何故人々は、町を抜けて森へ行くのか
木々の緑と
空気の透明感をかき乱し
高速度悪露を通り抜け
限定料金所をぬけて

森がない 森がない 道ばかり

いつもの四人乗りに分乗し
ひと間の風景画の前から
せせらぎのそばに行く
風景画では味わえない
深い森を感ずる為に?

町を町のある場所に置き
高速高架道路を通り
森に行く

森がない 森がない 道ばかり

森の緑には
光り合成作用による酸素が満ち
マンホールの内側に起きた酸欠と
比べるべきものがあるから?

森には 高速高架道路の続きとおぼしき
道がつらなり
入り口に
<これより車乗り入れ禁止>の
白い標識が立て掛けられている

森がない 森がない 道ばかり

<ふたつのまとめ>


町を町の有る場所におくように
四人乗りの車は
路上におかれ
森は いつしか
町と人間の間に
道のようにおかれる

森がない 森がない 道ばかり

森へ何故行くか
行く為に何故行くか
道のように
何故行くか
詩論が書かれる
向う側を何故行くか

<夜明け速く>


<朝影は>靄の中で
小鳥の鳴き声にゆらぐ

閉ざしたままの雨戸をそのままにして
このまま遅い眠りにつくか
層となった連なりの様に
階下の
四角いテーブルの角に
丸くおさまるか

家並みはたぶん緑の木々と共に
朝露にぬれ
歩くたびごとに
足下は明るくなるが
敷き詰められた蒲団のある部屋は
数時間もすれば
初夏の光と暑さで
ふくらみ始める

<あればなら>


そうだ今すぐに出かけよう
朝五時
ベッドの脇を流れる空気は
小鳥の飛び跳ねる鳴き声と
混ざりあって
さわやかだ
夏にしては
ものの輪郭が自己主張し
朝露の路上は
黒々として明るく
落着きが有る

そうだ今すぐ戸を開けて
矩形のビルの間
空間ばかりの
電車通りとは反対の
まだ車の通っていない
七号通りに出よう
自由点滅のあの交差点
過ぎるころには
鼓動と供に
息は賂上の白線のリズムに
重なるのだから

<実在が背後へ>


八月の影を切る
木々の陰の向う側
ビルの白い壁面が光る時
こちら側
私に見られている面と
直線によって切られる面とが
垂直に交差する

一日の時間の中で
陰の移動とともに
両側の壁面が
中心から傾斜しはじめ
光が照らし出されてくると
すでに数時間
窓ガラスの脇のイスに座り続けている
私の心に
光が層をなして
積み重ねられてきた

私はそれを見続けているのだが
私の身体は眠りらついた犬の様に
イスの上に丸くなり
全身の重みを
重みだけと言う様に支えている

瞳孔の広がりの中で
光が白くあふれ
一切の実在が
眠りの時のように
背後に隠れる