AutoHotkeyとは
AutoHotkey(AHK)は、Windows環境の操作を「自動化」できる非常に便利なフリーウェアです。翻訳者専用ではなく汎用のソフトウェアで、世界中で広く使用されています。
公式サイト(英語)からインストーラをダウンロードして実行すると、環境に適したバージョンが自動的にインストールされます。
AHKは多数の機能を備えており、翻訳にともなうさまざまな作業を効率化できます。ただし、AHKは、いわば「マクロ言語」なので、スクリプトを書かないと基本的に何もできません。
簡単な例として、
テキストを全選択して切り取り、改行を5個入れた後に貼り付ける
という操作を「F1キーを押す」だけで実行するスクリプトを作成すると、次のようになります。
F1:: Send, ^a^x{Enter 5}^v
このスクリプトを空白のテキストファイルに書いて保存し、拡張子を.ahkに変更(test.ahkなど)すると完成です。
AHKのスクリプトでは「^」が「Ctrlキー」に対応していて、「Send, ^a^x{Enter 5}^v」の部分は「Ctrl+Aキーを押してCtrl+Xキーを押し、Enterキーを5回押してCtrl+Vキーを押す」という操作を表します。
このスクリプトを実行しておくと、いつでも、「F1キーを押す」だけで上記の操作を実行できます。
スクリプトの実行中は、トリガーとなるキー(このスクリプトではF1キー)による通常の操作(ヘルプの表示など)は原則としてできなくなります。ただし、スクリプトは、いつでも簡単に一時停止または終了することができますし、「通常の操作」を同時に実行するスクリプトも作成できます。
Wordマクロなどでも同様の自動化ができますが、AHKは「Word上の操作だけ」を自動化するのではなく「Windows上の操作」を自動化するので、このAHKスクリプト1つで、Windows標準操作が可能な任意のソフトウェアにおいて、この操作を自動的に実行できます。
上記のスクリプトでは「Send」というコマンドを使用していますが、このようなコマンドが現時点で400前後もあり、それらを組み合わせて、いろいろな操作を自動化できます。たとえば、「Run」というコマンドを使用すると、メモ帳、Word、電子辞書ソフトウェアといった任意のプログラムを実行できるだけでなく、特定のファイルやフォルダを開いたり、ウェブサイトにアクセスすることができます。
これを他のコマンドと組み合わせて、
という操作を「右のAltキーを押す」ことで実行するスクリプトを作成すると、次のようになります。
RAlt::
Clipboard =
Send, ^c
ClipWait, 1
Run, http://www.google.com/search?q=%Clipboard%&gws_rd=ssl
Return
このスクリプトにより、Wordなどで文字列を選択状態にして右のAltキーを押すと、その文字列をGoogle検索できます。Excel、PDF、ウェブブラウザ、TRADOS、電子辞書ソフトウェアなど、テキストを選択できる場所であれば、どこでも実行できます。また、「検索後にウェブブラウザに移動してしまうカーソルを元のソフトウェアに戻す」といった操作も組み込めます。
Google検索も、単純な検索だけでなく、フレーズ検索や、加工(「ies」や「ied」の「y」への変更など)してからの検索、中国語版やドイツ語版のGoogleだけの検索、特定企業のウェブサイト内だけの検索も可能です。
英辞郎やWeblioはもちろん、他のウェブ辞書検索ツールでは対応できないタイプのウェブ辞書も検索できます。ウェブ辞書のオプション(「部分一致」と「完全一致」の切り替えなど)も選択できます。
さらに、PASORAMA、Dicregate、Logophileなどの電子辞書ツールや、かんざし、KWIC Finder、MultiTermなどの検索ツール、Excelファイルの用語集などにも文字列を送って同時に検索できます。
トリガーとなるキーも、Pauseキーなどを含め、キーボード上のほとんどすべてのキーを単独で、または「Alt+Shift+Tキー」や「無変換+Sキー」のように組み合わせて使用できます。さらに、マウスのクリック、ファイルの操作、特定の時間などをトリガーとすることもできます。
画面上の特定のボタンや場所を仮想的に「クリック」することもできるため、ショートカットキーが割り当てられていないボタン、リンク、入力欄などを、F1などのキーを押すことでクリックすることもできます。
ソフトウェア、ファイル、フォルダなどを指定した順番、場所、大きさで開くこともできます。メッセージ、入力欄、メニュー、チェックボックス、ラジオボタン、ツールチップなどを使用して独自のインターフェースを作成することも可能です。このため、プログラムランチャーのようなものも作成できます。
音声ファイルの実行や、スピーカーの音量の調節もできます。正規表現による検索や置換も行えます。ファイルの作成、ファイルへの書き込み、計算/演算、COMモジュールやDLLの操作などもできるため、「選択した文字列のURLエンコードを生成してアドレスと合成し、ウェブブラウザを起動してアドレス欄に貼り付ける」といった複雑な処理も自動化できます。
スクリプトファイルを実行ファイルに変換するツールも付属しており、変換した実行ファイルを使用することで、AHKがインストールされていないPCでもスクリプトを実行できます。
AHKは柔軟にいろいろなことができる本当に便利なソフトウェアです。慣れるまではハードルが高い部分もありますが、さまざまなマクロ言語の中では比較的簡単な部類に入ると思います。また、以前に比べて、AHKについて詳しく紹介している日本語のウェブサイトも増えてきており、情報を入手しやすくなっています。翻訳作業を効率化するために、ぜひAHKを活用してみてください。
<補足>
「AutoHotkeyではなくAutoHotkey_Lを使用した方がいい」と書かれているウェブサイトなどもありますが、これは古い情報です。AutoHotkeyの開発が一時中止されたときに後継バージョンが「AutoHotkey_L」として開発されましたが、今はまた「AutoHotkey」として開発が継続されていて、公式サイトからダウンロードできるものが最新バージョンです。
すでにAHKがインストールされている場合、新しいバージョンのAHKのインストーラを実行すると、AHKを最新バージョンにアップグレードすることができます。