1回 石 田 波 郷 俳 句 大 会      

石田波郷大賞作品

 

大賞

水引の花われもまた見舞妻       島 雅子     (相模原市)

 

   清瀬市長賞

競売に出されし山も眠りけり    きょうたけを   (千葉市)

 

   角川学芸出版賞

      競売に出されし山も眠りけり    きょうたけを

 

  石田波郷新人賞

    

    新人賞  「静かな朝」        西村麒麟   (俳誌「古志」 26歳) 

 

準賞  「自転車の鍵」           小野修平  (高校2年 16歳)

 

準賞  「劇場より」                福田浩之  (高校3年 18歳)

 





1回 石田波郷「新人賞」

        静かな朝   西村麒麟

江ノ電に綺麗な梅雨のありにけり

貝の上に蟹の世界のいくさかな

初めての土地たくさんの夏燕

びつしりと魚を干して南風

座布団の涼しく並ぶ宿屋かな

夏の果さつと出て来る漁師飯

冷静に蠅を打ちたる女かな

東京へ再び青き山抜けて

立秋や金魚にも名を付けやらん

初めての趣味に瓢箪集めとは

八方は海や静かに赤とんぼ

桔梗のつぼみは星を吐きさうな

傷の無き秋の燕の翼かな

とびつきり静かな朝や小鳥来る

秋蝶のひらひらとまた海の方

抜け目なく星の流るる様を見つ

こほろぎの道やゆつくり考へる

母よりも先に目覚めて曼珠沙華

色鳥を障子の部屋に遊ばせて

また結婚案内状や栗をむく




1回 石田波郷「新人賞 準賞」

自転車の鍵   小野修平


双六のますをはみ出す駒一つ

旧札の色の深さやお年玉

耳先の丸く食はれし雪兎

倅むやホチキスの口開ききらず

補助線の色の交わる春隣

どつぷりと躑躅に浸る丸き鳩

小松菜の欠片くつつく鍋の縁

あたたかや雨の匂ひの猫来る

寝転びて春野に沈む踵かな

春愁や原色並ぶ世界地図

噴水のしぶきに雲のちぎれけり

リズムよく脚立を上りさくらんぼ

ごきぶりの動くだけなる駅舎かな

雨去りて雪渓の白増しにけり

夏シャツの波の集まる肩の骨

立秋の大水槽のあをさかな

一人だけ遅刻してゐる休暇明

栗飯の栗の欠片の淡さかな

薄つぺらき自転車の鍵そぞろ寒

蜻蛉の群れの流るる谷間かな



1回 石田波郷「新人賞 準賞」

劇場より   福田浩之

春愁の上りはじめの観覧車

鳥帰る溶けてなくなりさうな空

てのひらを落花はことごとく避ける

虹消えてゼウスは母が欲しかつた

手にはカーネーションしかしわるい男

東京の雨は縞馬桜桃忌

にんげんがどこまでもゐる油照

こがね虫闇のむかうの虚子へ返す

劇場より人あふれあふれ終戦日

八月の瓦礫のやうに泣く女

埋め立ての廃品の島虫の声

青い雑踏広告塔が月を吊る

末枯れて歯車の足りない気分

教室でさんざん荒れてきた冬服

凍る夜の机に座礁した辞典

雪しんしん脳死の頬が濡れてゐる

背後とは雪の別れを置くところ

街はるか冬青空に橇の跡

甲板の風がくすぐつたい春だ

卒業の絵筆に沖が染みてゐる

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