3回 石 田 波 郷 俳 句 大 会      

石田波郷大賞作品

大賞

夏椿いつも心の清瀬村          湯浅康右     (船橋市)

   清瀬市長賞

着流しの波郷先生白椿         小林和子       (練馬区)

   角川学芸出版賞

    初夢の師の長身の後に付く       大原芳村     (東村山市)

  石田波郷新人賞

    新人賞   「晩 夏」       涼野海音  (俳誌「火星」「晨」 30歳) 

準賞   「はなびらのやうに」  大塚 凱  (高校2年 16歳)

奨励賞  「山無月」       抜井諒一  (会社員  29歳)

        奨励賞  「深雪晴」       小林鮎美    (会社員  25





3回 石田波郷「新人賞」

        晩  夏   涼野海音


野遊のしばらく黙りゐる二人

終点に石鎚山や建国日

卒業の日の噴水の高さかな
  
   旅人は帰らず桜咲きにけり

夏立ちぬ木に吊られたるヘルメット

青梅の落ちたる草のそよぎをり

土つきしかかと入りゆく茅の輪かな

短夜の誰もつかはぬ帽子掛

薔薇園の入口濡れてゐたりけり

剥製の鷲の羽根落つ晩夏かな

どの家も灯つてゐたる桐一葉

鳥渡る立体駐車場しづか

水澄みて小さき文字の手紙かな

地球儀の海を回してゐる月夜

風花や空手道場より声す

タクシーを洗ふ水音冬木の芽

見上げゐる聖樹の枝の雫かな

古暦丸めて空をみてゐる子

明日会ふ人に賀状を書いてをり

  初日さす砂場に小さき山のあり





3回 石田波郷「新人賞 準賞」

はなびらのやうに   大塚 凱


畳みたる胴へと据ゑぬ獅子頭

雑巾を絞る手赤し寒稽古

釘箱に大小の部屋多喜二の忌

啓蟄のしんから軽き土鈴かな

木々の名を吊るす梢や涅槃西風

石鹸玉ときをり鼻を濡らしけり

祝つてやる花屑をぶつかけてやる

がじゆまるは気根を飾り五月来ぬ

ソーダ水擽るやうにかき回す

瘡蓋に血の透けてゐる旱かな

西日濃しみなが遠のく鬼ごつこ

蔵すれば琥珀に似たり蝮酒

流星のだしぬけに風乱れけり

爽やかや便器の池は渦となり

外野手に空のさびしさ赤とんぼ

煩悩のごとくに柿のぶらさがる

絶望へ希望へ傾ぐ案山子かな

しぐるるや湯の町の湯気くぐりゆく

落葉焚一葉ははなびらのやうに

歳晩や絞りきりたるボンカレー



3回 石田波郷「新人賞 奨励賞」

   山 月      抜井諒一

緑蔭に見えざる影のありにけり

水すまし水に触れてはをらざりし

鳥は鳥追うて西日を目指しけり

村人はみなよそよそしほととぎす

とどまれる時に濃くなる草いきれ

青蜥蜴S字S字に走りけり

山深き川に水着の娘かな

為す術も無き水たちを滝と言ふ

夏の月どろりと流れ出してゐる

日の透けて空蝉に魂ある如し

振り返るたびに華やぐ蓮の池

自らの影へ止まれぬ川蜻蛉

別荘の涼しさ自慢されてをり

提灯を揺らす風来て夏終わる

  秋立つやぶつかるやうに風の来て

ともしびの揺れてみづうみ秋めけり

秋水の中には音の無き世界

呼吸する肺すみずみに秋気澄む

止まりたるものに影ある秋の夕

  人間のゐる明るさや山無月




3回 石田波郷「新人賞 奨励賞」

      晴      小林鮎美


  
  春寒く薬指にて薬塗る

持て余したるは卒業証書入れ

紫陽花の小径ゆくとき脳静か

人も馬も痩せれば青し旱星

訃報受けし日の夏掛の軽さかな

手花火の火を絶やさずに祈りけり

地下水を抱きし森や月涼し

本業は無職しばらく水を打つ

私の余白に黴の生えにけり

ごきぶりと暮らすごきぶり殺しつつ

花火後の街の乾いてゆきにけり

失恋や糸瓜の水を顔につけ

   秋冷の底に国勢調査員

夢想あり林檎蜜から腐る夜

綿虫を駅のホームに残し行く

討ち入りの有耶無耶となり葛湯かな

誰も皆敵で味方や年忘

餅焼いて関東平野は月の昼

さわさわと雪の降る夜のライブハウス

  生まれつき手持ちぶさたで深雪晴





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