隗作品抄　     　　　　　　　大山雅由選

一本の大根のレシピきりもなや　　　　　　　森井和子

冬麗や開港絵図に火の粉あと　　　　　　　きょうたけを

金星の瞬き入るる聖樹かな　　　　　　　　　関口道子

父の忌や耳たぶにある熱燗計　　　　　　　　宮崎晴子

冬凪やトキの安否を気遣ひて　　　　　　　　小林正人

病得て素直になりぬ石蕗の花　　　　　　　　大畠　薫

ひとしづく冬芽映して地に滲みる　　　　　　北山百子

メヒカリのきらめき透けて冬の潮　　　　　　木林万里

秋天を見よ安達太良の岩の虫　　　　　　　飯島千枝子

綿虫を追へば薄日に風の音　　　　　　　　　須賀智子

冬夕焼富士は遠くにあるがよし　　　　　　　細見逍子

木枯や青を塗らんかたつぷりと  　　　　　　宮武佳枝

小春空ゆつくり登る聖母坂　　　　　　　　　山上恵子

小商ひ夢見し母よ零余子飯　　　　　　　　　青柳明子

出逢ひたる綿虫川を吹かれゆく　　　　　　　斎藤八重

時雨るるや味噌のこげつく五平餅　　　　　　矢畑昌子

しぐるるや三千食の鍋煮ゑて　　　　　　　和田久美子

石狩の海より広き鰯雲　　　　　　　　　　　山田悠子

砕け散る波のリアスや冬茜　　　　　　　　　堀内知行

日向ぼこ猫も老婆も溶けてゆく  　　　　　　佐藤陽子