隗作品抄 大山雅由選
苺つぶす叶はぬ夢の数いくつ 須賀智子
足裏の覚えてゐたる川渉り 関口道子
教会の歴代通帳黴香る 西原暎子
五月尽角やはらかき鹿のをり 山田泰造
ふるさとの繭煮る匂ひ鼻先に 山本力也
フラスコの蒸気上げたる花の冷 玉井信子
もうひと芽あとひと芽とて新茶摘む 木林万里
暑気払ひ味噌ラーメンを食べきつて 大畠正子
北国街道海より朧這ひのぼる 青柳明子
運び出す早苗に撒ける力水 和田久美子
ニューロンは麻痺せり黴の手紙束 細見逍子
手ぬぐひの絵柄たのしも茄子の花 内山玲子
姿見に木漏れ日生るる更衣 榎 和歌
みどり児の声立て笑ふ春の蝶 飯島千枝子
朝寝してまさかの人の夢を見る 田中昭次
電車待つ駅の木椅子や啄木忌 上田公子
さくらしべ掃き老年のすこやかに 早川まさ
仙人掌花咲けば真中に移しやる 崎啓子
映しあふ青葉清涼飲料水 宮武佳枝
あめんぼう吹き剥がされて跳びにけり 平山みどり
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