私の身近に、この品種を「たれぱんだに似ている」と評した人がいるが、言われてみると頂天眼よりも丸手で、無表情でこちらを見ているその表情は、確かにたれぱんだと相通ずるものがあるかもしれない。この品種がどのような過程を経て誕生したのかは不明だが、体型から推測すると、中国花房と頂天眼の掛け合わせによって作出されたものと思われる。奇抜さを誇る中国金魚の中でも屈指の奇抜さをもつ本種は、中国金魚の傑作の一つに挙げても良いと思う。私がこの品種を知ったのはフィッシュマガジンの1983年4月号で紹介されていた写真を見たのが最初なのだが、見た瞬間からすっかりこの品種の虜になってしまった。しかしなかなか入手出来ず、何年も後になってやっと、大和郡山の養魚場から数匹送ってもらった魚を元に、初めて仔引きに成功したときの喜びは今でも忘れられない。当時種魚に使った魚は茶金と同じ体色の魚であったが、孵化したばかりの稚魚は何と全身透明(目も透明)であった!孵化後数時間して、少しずつ色が付きはじめて目の色も黒くなったのだが、それまでは普通鱗とモザイク透明鱗の金魚しか採卵経験が無かったので、このときの経験は新鮮な驚きがあった。私は経験が無いので分からないが、茶金ももしかすると稚魚のうちは同じ様な色彩経過を辿るのかも知れない。この奇抜な頂天花房という品種について詳しく書かれた資料には未だお目にかかったことがないが、実際に飼育してみて、この品種の魅力を一言で言うならば、それは「泳いでいる過程での表情の変化」だと思う。普段は無表情でゆっくりと泳いでいるが、水面に向かって泳いでくる時に、花房が目にかかって目が隠れることがある。その時の表情が今にも泣き出しそうな、何ともいえない表情で、何度見ても飽きないのである。普通の頂天眼でさえも気持ちが悪いと言って敬遠する人が多い位だし、私の周りでも、今のところこの品種が好きだと言ってくれた人に出会ったことは残念ながらないが、奇抜な品種が好きなごく少数の方のなかには、案外、私と同じようにこの品種を評価してくれる方がいるのかもしれない。毎年、少数が中国から輸入されている程度で、人目に触れる機会の少ない知る人ぞ知るといった存在の本種であるが、入手される機会に恵まれた方は是非大切に飼育して、この品種独特の魅力を楽しんで頂きたいと思う。

・頂天花房について
・頂天花房各種

非常にバランスの良い頂天花房の若魚。輸入量は少なかったが、この当時は現在よりも上質の個体が多かった。(フィッッシュマガジン1983年4月号より)

茶頂天花房。このタイプは中国花房の体型を色濃く継いでおり、体型は他の色彩のものよりも骨太のものが多い。(「2002発行 大百科系列No.39金魚品種鑑賞彩色珍蔵版」より)

素赤の頂天花房。近年輸入されてい頂天花房の中では最も多いのが素赤の魚だが、上質のものは非常に少ない。

あまり見かけない色彩パターンの魚。目の角度が非常に理想的だ。(フィッシュマガジン1995年4月号より)

茶(紫)頂天花房。一昔前には比較的良く見かけた体色の魚だが、最近は殆どお目にかかれなくなってしまった。(フィッシュマガジン1995年4月号より)

更紗頂天花房。気のせいかもしれないが、更紗の魚の方が、素赤の魚よりも目の角度が理想的な魚が多いような気がする。