・浜錦について

 浜錦は昭和42年に(株)清水金魚の清水徹二氏が中国の見本市へ行った際に高頭珍珠鱗を輸入し、その金魚を譲り受けた愛知県の渡辺茂夫氏が飼育、採卵を繰り返すうちに昭和50年、頭部に2つの水泡状の大きな袋が乗った魚が出現し、この魚に清水徹二氏が、浜松で生まれたことにちなんで浜錦と命名したとのことである。飼育本の中には、浜錦は高頭パールと水泡眼の交配により作出されたと記述しているものもあるが、仮に高頭パールと水泡眼を交配させたとしても、水泡は目の下に付くはずである。初期の高頭パールからは様々なタイプの金魚が出現したため、水泡眼との交配が行われているのではないかという想像上の話が、いつの間にか一人歩きしてしまったのが本当のところのようだ。私も初めてこの金魚を飼育した時、早速その頭部を触ってみたが、固さは水泡と肉瘤の中間位の固さであった。しかし明らかに水泡ではなく、普通の肉瘤の粒が大きく2つに分かれたもの、といった感触だった。私のこの金魚との出会いは昭和59年頃、札幌の丸井デパート1階の外(当時は夏の一時期、外で臨時の販売場を設けて販売していることが何度かあった)で見たのが最初だったと思うが、綺麗な更紗模様で頭の瘤も大きく2つに分かれた親魚が1匹7万円で販売されていた。今思い出しても素晴らしい魚だったが、最近は当時のような素晴らしい浜錦にはなかなか出会えなくなったことが残念である。

・浜錦今昔

1978年に新品種として紹介された頃の浜錦。顔全体を覆ってしまうほど大きな水泡状の肉瘤が乗っている非常に印象的な魚。90年代後半位まではこのタイプの浜錦は比較的入手しやすかったように思うが、近年は入手困難で、既にこの系統は絶えてしまったという話も聞いたことがあり、事実とすれば大変残念である。体型はやや長手で尾が弱いのが特徴で、鱗は高頭パールと普通鱗の中間位の特徴を持つ個体が多かった。(フィッシュマガジン1978年6月号より)

現在流通しているタイプの一つ。どう見ても高頭パールなのだが、このような個体が浜錦として販売されていることも多い。(Johnson/Hess著 2001年発行 Fancy Goldfishより)

水泡眼の項でも紹介しているハマトウユウイ。こうして見るとどことなく体型が似ているので、浜錦が高頭パールと水泡眼の交配により作出されたと言われても信じてしまいそうになるのも分かる気がする。(松井佳一著 昭和38年発行「金魚」より)

・浜錦の謎

 今日では新品種として発表された当時のような、著しく発達した頭を持つ浜錦が入手困難になってしまったことは既に述べたが、かつては主流だった、あの素晴らしい頭をした浜錦が何故姿を消してしまったのかは長年の謎であった。しかし最近になって、浜錦愛好家の方から非常に興味深い情報が寄せられたので、私見を交えつつ、浜錦の誕生からその後の変遷について書いていきたいと思う。

あれほど見事な頭をした浜錦が現在では殆ど見られなくなってしまったのは何故か?その理由は昔の浜錦こそ理想の浜錦だと信じて疑わなかった私にとっては意外であったが、一般愛好家と養魚場の求める品質に大きな開きがあった事が主な理由であったといわれている。何千、何万分の一の確率で良個体を育て、立派な水泡状肉瘤を持った魚を作っても、頭が重くて底に沈む。歳を重ねて育成すればするほど泳ぎもままならない金魚では、生産性、コストパフォーマンス、利潤性に劣ることは明白...。また、頭全体を覆い隠すほどの巨大な水泡状肉瘤を持つ魚を良しとする愛好家は実は少数派で、グロテスクとも捉えられる巨大な肉瘤は人気も下がり、排除される傾向にあった。このような理由により高頭パールとの戻し交配を進めて、生産性が高く、一般愛好家にとって受け入れやすい魚に変化していったというのが本当のところであるらしい。又、裏話として有名な、浜錦が水泡眼と高頭パールとの掛け合わせにより作出されたという逸話?も、全くのデマとは言い切れない部分もあるようだ。
 
時の中国、高頭パール養魚場では野池に他品種の混泳で、日本的な感覚で言えば全くズサンな生産管理。水泡眼のリンパ液が浜錦に転化したとは言わないまでも、水泡眼、朝天眼(頂天眼)、珍朱鱗、青文、寿星(らんちゅう)、竜晴(出目)等の血が混在しているのは、どうやら間違いなさそうだ。よく、「中国産金魚は雑多な遺伝性質を持つ」と言われるが、それはお国柄、そのような文化、風習であった為である。言い換えれば、浜錦の出生が謎なのではなく、元親の高頭パールの出生こそが謎なのである。

幻の金魚となってしまった昔の浜錦であるが、現在では埼玉のK氏という方が、当時の系統に近い浜錦の姿を求めるべく尽力されているとのことである。いつの日か再び、あの当時の見事な頭をした浜錦が見られるようになることを願ってやまない。




現在では少なくなった昔の血を引く浜錦。近年は中国からも見事な頭をした浜錦が輸入されてきているが、国産のものとは明らかに雰囲気が異なる。

非常にユニークな体色をした高頭パール。浜錦に比べると人気や価格の面で一段低く見られがちな高頭パールであるが、中国人の手によってこのような魚が固定されれば一気に人気が上がるかもしれない。(フィッシュマガジン1995年4月号より)