頂天花房は私が知っている限りでは、素赤、橙黄色、キャリコ、更紗、黒、茶、赤茶と数多くのバリエーションがあり、本種はそのうちの黒のタイプである。この品種は中国花房と黒頂天眼の掛け合わせによって誕生したものであろうか。黒出目金以外の黒色の金魚は大きくなるにつれて褪色するものが少なくないが、本種は色彩的には比較的安定しているようである。この黒頂天花房を見ていると、頂天眼の項でも紹介した陳舜臣の小説「闇の金魚」に出てくる珍種の金魚をつい思い出してしまう。中国の明代は金魚流行の最盛期であり、大衆向けの金魚と高級金魚とが、別々に発展しはじめた時代であったといわれている。地方豪族から朝廷まで、世間とは没交渉の時代には門外不出の金魚があって、本種もそういった品種の一つであったのかもしれない。漆黒の褪色で目が上を向いている姿は異様ではあるけれども、琉金のような誰もが綺麗だと思える美しさとは全く正反対の方向に改良を進めて、これ程奇抜な金魚を作出した中国人の技術と感性には、ただただ恐れ入るばかりである。

・黒頂天花房について