・翻鰓について

 昭和30年代以降、随分と多くの変わった金魚が日本に輸入されてきたが、それらの金魚を遙かに凌ぐ奇抜さを持つ金魚、それが翻鰓(ホンス)である。翻鰓は品種名ではなく、鰓蓋が捲れ上がって、中の鰓がむき出しになった状態のものを指す。この形質は中国金魚の様々な品種に見られ、日本に輸入されてくる魚の中にもたまに混じっていることがあるが、今のところまとまった入荷は無いようである。あまりにもグロテスクな容姿故、今後もまとまった輸入は無いかも知れない。画像の魚はフィッシュマガジン1983年12月号に載っていた魚で、この当時すでに中国全土にもほんの数匹しかいなくなってしまったといわれる、紅珍珠蛤莫(正しくは虫に莫)頭翻鰓(中国読みでホォンチンシュハマトウファンサイ)という金魚である。中国では日本に比べて、バランスよりも特徴を重んじる傾向が強い。そのため品種毎の完成度はそれほど高くないものの、日本人には想像もつかないような変わった品種が数多く作られてきた。しかしかつて宮廷で密かに飼育されていた門外不出の金魚の中には、人知れず絶滅してしまったものも少なくないようである。翻鰓は極めてグロテスクで一般的には受け入れがたい品種ではあるかもしれないが、日本人であれば間違いなくハネ魚にしてしまうであろうこういった特徴に目を付けて、新たな品種を作出しようとする中国人の着眼点には見習うべき点も多いのではないだろうか。市場開放が進むにつれて、中国本土でも一部の特殊な品種は姿を消して、一般に受け入れられる品種が主流になってきているといわれる。紅珍珠蛤莫頭翻鰓がその後どうなったのかは分からないが、願わくばどこかで密かに飼育されていることを期待したい。