・出雲なんきんについて

 出雲なんきんは、昭和57年に島根県の天然記念物に指定された希少種である。らんちゅう、大阪らんちゅうと共にマルコから品種として分立したといわれ、原種のマルコに最も近い体型をしている。古くは松江藩主松平不昧公が愛玩したといわれ、茶道の侘寂の精神を取り入れた清楚な金魚である。私がこの品種を初めて見たのは昭和61年の春、札幌の丸井デパート屋上で開催されていた金魚の展示即売会の会場であった。赤一色で、背鰭が無い和金のような、今にして思えば完全なハネものだったにもかかわらず、1匹2万円というとんでもない値段で販売されていた。実際に自分で飼育する機会に恵まれたのはそれから10年も先の事になるのだが、今まで色々な品種を飼育してみて、創りとか難しい問題を度外視にして、体質の弱さ、体型の崩れ易さという点において、これほど飼育に苦労した品種はなかった。購入後、他の種類と一緒に飼育することはまず問題外であるし、他の品種ではちょっと考えられないことだが(土佐金、地金を除く)水換えの時に洗い方が不充分だったボールで水を掬ったことが原因で病気に罹り、死なせてしまったこともあった。又、普段の飼育においても、なんきん特有の目幅が狭く、目先が長い顔を維持するのは大変難しく、見るも無惨な顔立ちにしてしまったことは数知れず。飼育方法を知らなければ、たとえ死なせることが無くても、その品種の特徴を維持する事すら難しい金魚がいるということを、出雲なんきんを飼育してみて初めて思い知らされた。失敗を繰り返すうちに少しずつ飼育のコツが分かるようにはなってきたが、今でも一筋縄ではいかない品種であることに変わりはない。しかし、光沢があって銀色に光り輝く鱗と、古くから言われているような花魁姿を彷彿とさせるような、美しく上品な姿は出雲なんきん特有のもので、この品種の魅力に取り憑かれたら他の品種に目が向かなくなる人が出てくるのも分かる気がする。決して一般向けの品種とはいえないが、最近は以前よりは入手しやすくなってきているので、興味のある方は是非飼育に挑戦してみては如何だろうか。

・理想の出雲なんきんとは

出雲なんきんについてはHPで詳しく紹介している方がいらっしゃるし、深く語れるほど私はなんきんを知らないので、ここでは鑑賞のポイントだけ、幾つか書いておきたい。

1.頭部が小さく吻端が尖り、目幅が狭く、目先の長いもの。餌はイトメが最も良く、赤虫は目幅が広くなるのでなんきんの餌としては好ましくない。

2.腹部は左右均等に無理なく張っているもの。

3.尾筒はやや長めで、太くしっかりとしているものが良い。

4.色彩は白又は白勝ち更紗のものが良く、頭に赤が入ってはいけない。体色は魚体は全部白で、各鰭だけが赤色で口元に赤く上品に口紅をさしている、いわゆる六鱗と称する色調が最も良いとされる。

5.尾は四つ尾でなければならず、尾芯の部分は6割位割れていることが望ましい。

6.尾は泳ぐ時適度に絞り、止まるとぱっと広がるものが良く、尾筒の太さより絞る魚は良くない。

今から30年以上前の出雲なんきん。清楚な魚だが現在見られるなんきんとはだいぶ違う印象を受ける。(松井佳一編著「金魚大鑑」より)

出雲産なんきんの当歳魚。上品な顔立ちを維持しつつ、ふくよかな体型を創っていく為には相当な熟練を要する。