・らんちゅうについて

 高級金魚の代名詞ともいえる品種、それが「金魚の王様」らんちゅうである。日本各地に愛好会があり、金魚の中でも最も愛好家の層が厚く、言葉では表せない程、奥深い魅力を持った品種である。それだけに私のような節操のない者がらんちゅうについて語るのは大変恐れ多いのだが、ここでは私なりにらんちゅうの魅力について語っていきたいと思う。私が初めてらんちゅうと出会ったのは昭和55年春、札幌の東急デパート屋上の観賞魚売場であった。またデパートかと思う人もいるかも知れない。最近金魚を飼い始めた人にとっては、金魚が沢山いるところといえば、真っ先に思い浮かぶのはホームセンターなのかも知れないが、当時は熱帯魚ブームが訪れる前で、数は少なかったが昔ながらの金魚専門店もあったし、大抵のデパートでは観賞魚売場があって、それほど苦労しなくても結構良い金魚が入手することが出来る時代だった。まだ幼かった私は初めて見るらんちゅうに一目惚れして、一緒に来ていた祖母(今も健在)にねだって1匹買って貰った。素赤、丸手のらんちゅうで、頭も上がり始めていて、価格の割には良いらんちゅうだったように思う。(1匹600円也)非常におっとりしていて、他の金魚と一緒にすると苛められるような気がしたので、当時飼育していた沢山の金魚とは別にして、40cm位のガラス水槽で1匹だけで飼育していた。鶏卵のような丸々とした体型に小さな尾鰭を必死に振ってゆっくりと泳ぐ姿がとても可愛らしく、四半世紀以上経った今でも鮮明に記憶に残っている。ここでらんちゅうの歴史についても少し触れておきたい。らんちゅうは、ナンキン、大阪らんちゅうと同じく、マルコから分離したものといわれている。徳川時代の8〜9代頃の寛延元年(1748年)に刊行された安達喜之著「金魚養玩草」に卵虫と書かれ、朝鮮金魚とも呼ばれていたようである。らんちゅうの肉瘤について記載された文献としては徳川9代将軍家重の頃で、宝暦14年(明和元年、1764年)刊の万芸間似合袋に記載されたものが最も古く、充分発達するようになったのは明治初期からであるといわれている。らんちゅうを品種として完成させたのは初代石川亀吉氏であり、主宰された観魚会は前身の観魚連時代を含め今日に至るまで110余年もの歴史を持ち、毎年数多くの名魚を生み出している。

 らんちゅうは多くの愛好家に熱狂的に支持されている人気の高い金魚である反面、見る人によって好みの分かれる品種でもある。肉瘤が気持ち悪いとか、こんな金魚のどこがいいの?という人もいるし、その反対にらんちゅうの魅力に比べたら他の品種なんて・・・という人もいる。人も好みは様々であり、金魚そのものが好きな私にとってはどの品種にもそれぞれ魅力を感じるのだが、らんちゅうの醍醐味は、やはり上から見た姿に尽きると思う。まだ上見などという言葉も知らず、水槽で飼育していた頃は、らんちゅうはとても可愛い金魚だとは思ったけれども、背鰭が無いために欠点も目立ちやすく、正直言って横見では鰭が長く、頭の発達もらんちゅうより早いオランダ獅子頭の方が魅力的に見えた。「らんちゅうは可愛いし、たしかに魅力的だけれど、金魚の王様とまで呼ばれる理由はどこにあるのだろう?」長い間そう思っていたが、水槽飼育では美しい金魚に育て上げるのに限界を感じて船飼育主体に変えてから、初めてその魅力が分かるようになった。一見重そうな体型でありながら、短い尾鰭で軽やかに水を蹴ってスムーズに泳ぐ姿はらんちゅう特有のもので、筆舌に尽くせないほどの深い味わいがある。

・らんちゅうの魅力について
・らんちゅう各種

らんちゅうは既に述べた通り愛好家の層が非常に厚く、協会系のらんちゅうだけ見てももかなりの系統があるし、未熟者で且つ節操のない私が詳しく語ることは不可能なので、ここでは視点を変えてらんちゅうの仲間に属するものを国産、中国産に拘らずに出来るだけ多く紹介していこうと思う。

協会系のらんちゅう。まだ小さいが3つ星模様の尾鰭が可愛らしい魚である。小判型の堂々たる体格で軽やかに水を蹴って泳ぐ姿は金魚の王様と呼ぶに相応しく、一度足を踏み入れたら、そこから抜け出すのは容易なことではない。

とても可愛らしい国産のらんちゅうで、上見よりも水槽で鑑賞するのに向いている魚。らんちゅうは上見で鑑賞するのが基本と言われてはいるが、横見のほうが楽しめるらんちゅうというのも存在する。右の画像の個体はまさにそういうタイプで、高級品のらんちゅうとは別な意味で価値のある魚である。

中国産のらんちゅう。(丹頂ライオンヘッド)同じらんちゅうでありながら体型も顔つきも日本のらんちゅうとはまるで違う魚である。金魚の種類に我頭紅という品種があるが、この画像の魚が本来の我頭紅であるらしい。大森松男氏が書かれた「金魚の飼い方 和金からランチュウ(昭和45年発行)」の中に我頭紅に関して、「色は白で背は時に銀色の魚もあり、頭は真紅で頬の方までかぶり、肉腫は盛り上がって白鳥の頭のようだ」という記述があるが、やはり現在、我頭紅として流通している魚よりもこちらの魚の方がその特徴に近い気がする。

丹頂ライオンヘッド上見。いかにも中国人好みといった印象を受ける。目先が極端に短い独特の顔つきが印象的である。

中国産の透明鱗らんちゅう。もみじらんんちゅうによく似たらんちゅうで近年日本に輸入されるようになった新しい品種である。