金魚の中でも、一番金魚らしいと言われている金魚、それが琉金である。琉金は安政〜天明年間(1772〜1788年)に中国から琉球を経て九州・薩摩の国に渡来したもので、その一字を取って琉金と名付けられたといわれている。極めて一般的な品種である為か、不思議とその魅力について深く語られてこなかったような気がするが、上質の琉金は、他のどの品種と比べても決してひけをとらない、深い魅力を持った品種だと私は思う。昔、札幌の丸井今井デパート10階の食堂の前に90cm水槽がいくつか置いてあって、その中の一つにペアで8万円で販売されていた、ソフトボールに尾鰭が付いた位の大きな琉金がいたが、それが素晴らしい琉金で20年以上経った今でも忘れることができない。
故長沢兵次郎氏が書かれた「金魚のすべて」によると、写真家の土門拳さんが琉金を撮影した際に「私は金魚を飼う趣味はないが、更紗模様を持つ琉金は生娘のような色っぽさがあるのには驚かされた」と語っていたといわれる。普通の人に金魚に色気があるなどと言うと笑われてしまいそうだけれども、私も琉金の一番の魅力はこの品種特有の色気にあると思っている。特に琉金で有名な江戸川の堀口養魚場の琉金は絶品で、骨太で丸手の体型に肉厚の尾鰭、小ぶりの顔、更紗で口紅を付けた琉金は本当に愛らしく、その美しさはいつまで見ていても決して見飽きることはない。

・理想の琉金とは

 琉金は和金、出目金と共に古くから大衆魚として親しまれてきた品種であるが、特に東京では最も盛んで、「東京琉金」として、その優秀な品質を誇っている。では優秀な琉金とはどのようなものであろうか。「金魚のすべて」の著者でもある故長沢兵次郎氏によると、理想の琉金の条件とは、次のようなものであるといわれる。

1.頭部は小さく、吻端は尖っていて全体に細い感じで、体型は短く、体高は高く、太くて丸みがあること。

2.色艶がよくしまっていて、頭のすぐ後ろから背鰭までの間は丸く盛り上がっていて、背鰭は癖がなく尾筒の近くまであること、

3.尾筒は太くしっかりしていて、やや詰まり気味であって、尾鰭は四つ尾のものが特に良い。

4.尾芯は上葉の中心をまっすぐ通り、上葉は左右均衡を保ちながら尾芯の部分から適度に割れて、癖がなくやや上を向いて尾幅をゆったりもってのびのびと張っていること。

5.下葉は尾幅を持ち、尾付けはやや深く、尾肩は腹の後方を包むようにして丸みをもって尾先に向かってやや下の方へ癖がなく延びていること。

6.総体の尾張りの良いものが美しく感じられ、所謂フサ尾といわれる尾型が最も派手で美しい。
 上の2枚の画像は、右の魚が堀口養魚場産の琉金で左が橘川養魚場産の琉金である。(松井佳一編著 昭和47年発行「金魚大鑑」より)同じ関東の琉金でも、生産者のよってその体型には違いがあるが、いずれも理想の琉金と呼ぶに相応しい素晴らしい琉金である。
・琉金について

 江戸川産の琉金に次いで、最近人気が高いのが信州琉金である。深みのある鮮やかな赤と長めの鰭が特徴で、江戸川産とはまた違った魅力がある。体型も丸手で美しい。

 こちらも中国産の琉金。国産の琉金と同様に背が盛り上がって体型も丸手だが、顔つきも尾筒の位置も全く違っていて別の品種を見ているようである。琉金一つとっても国民性の違いがはっきり見てとれて興味深い。(王鴻媛等編著 2000年発行「中国金魚図鑑」より)

・琉金各種

一口に琉金といっても、産地によってその特徴はさまざまである。ここでは産地別の琉金の特徴の違いを見ていきたい。

 弥富産の琉金。関東の琉金に比べると細身ではあるが画像のように大変美しい更紗模様を持つものも存在する。金魚の最大の生産地である弥富地方は、昭和34年に伊勢湾台風により壊滅的な打撃を受け、東京の生産者と都水産試験場水元分場(現温水魚研究部)の3歳琉金が弥富組合に送付され、それが現在の弥富産琉金の元になっているようである。

 第23回(平成17年)日本観賞魚フェア水産庁長官賞受賞魚。左右の模様のバランスが大変良く、水槽の前で暫く釘付けになった魚であった。今後の成長が大変楽しみな魚である。

 第23回観賞魚フェア琉金2歳魚の部優勝魚。琉金の持つ可愛らしさを最大限に表現している魚で、いつまで見ていても見飽きることのない素晴らしい琉金である。長年に渡り、随分と色々な金魚を飼ってきて、それぞれ種類に魅力を感じているが、結局のところ、私は琉金が一番好きなのだと思う。本当に良い琉金で仔を採りたくて、金魚愛好家で有名なK氏のご紹介で、琉金創りの名人であるF氏に無理をお願いして画像の魚を譲って頂いた。HPの完成が予定よりも大幅に遅れてしまったが、幸いにも少しだけ仔が採ることが出来たので、別項にて成長の様子を紹介していきたいと思う。いつまで経っても未熟者で、ただ金魚が好きなことしか取り柄のない私に、貴重な時間を割いて親身に相談に乗って下さったK氏と、初対面にも関わらずこんなに素晴らしい琉金を譲って下さったF氏に、この場を借りて御礼申し上げたい。この魚を元に、いつか自分も観賞魚フェアに出品出来るような仔を育て上げて、両氏の恩に報いたいと思う。

 江戸川産の琉金と見間違えそうになるほど完成度の高い中国産の琉金。顔つきと肌の質感で国産のものと区別が付くものの、中国産の琉金もここまできたかと唸らされる魚である。系統は不明だが、従来の中国産の琉金とは明らかに違い、日本の琉金に非常に近い雰囲気を持っているので、江戸川産の琉金の血が入っているのではないかと推測される。

堀口産の当歳魚と2歳魚。丸みのある体型と口紅が可愛らしい。
信州琉金の2歳魚。琉金の場合、白勝ちはあまり好まれないが、このような美しい六鱗柄ならば充分に鑑賞価値があるといえるだろう。