「シャドウ・リンカーズ」シリーズ

徳間書店 トクマノベルズEdgeより
「シャドウ・リンカーズ 闇ノ絆」2006年9月19日刊行
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「シャドウ・リンカーズ 妖し殺めし幻ノ女」2008年6月18日刊行
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ストーリー

「闇ノ絆」
異様に高い身体能力を持って生まれたがゆえ、世界になじめなかった少年、伊吹翔流。
だが同級生の鏡本比呂姫、そして病身の幼子、武安奈々との出会いが、彼を孤独から救う。
やがてキザでイヤミな美形の二年生、筑谷瞬、長身で気さくな喫茶店マスター、久鷹秋彦とも
知り合い、変わりゆく翔流の世界。だがそんなある日、奈々を悲劇が襲う。
怒りに燃えて事件を追う翔流の前に、立ちはだかる秋彦と瞬。
彼らもまた異能者にして、非合法の荒事を金で請け負う“闇の仕事師”だった。
復讐の念に衝き動かされ、二人の仲間に加わる翔流。
しかしそれは、彼らを巻き込む恐るべき死闘の序曲に過ぎなかった――
「妖し殺めし幻ノ女」
前回の件をからくも斬り抜けた翔流たち四人。だが、黒幕の正体はいまだ不明。
黒幕の手がかりを得るため、彼らは比呂姫の秘密を知る唯一の存在、幼馴染の黒川竜樹を探す。
だが、五年ぶりに比呂姫と再会した竜樹は、異常に冷たい態度を見せる。そして翔流たちは、
五年前、幼い比呂姫が竜樹と遊んでいた頃、彼女の父が何者かに殺害されたことを知る。
そして現在の竜樹とつきあう“夜の王子様”こと名門大学生、松平聖。
穏やかな二枚目の裏に、殺人への異常な興味を秘め、翔流をも凌ぐ身体能力を持つ彼は、
五年前の殺人の日、偶然、公園で遊ぶ比呂姫と出会っていた。
そして彼の裏には、黒幕「幻ノ女」の気配が――

☆「妖し殺めし幻ノ女」については、ブログ 6/186/25 の記事でも少し触れています




「快傑!トリック☆スターズ 怪盗右京からの挑戦状」

エンターブレイン ファミ通文庫より 2004年4月19日刊行
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ストーリー

隠然たる勢力を誇る天神一族の後援を受け、警察では介入の難しい事件へと立ち向かう
新世紀の探偵団――伝説の名探偵、天神影太郎の末裔ながら茫洋たる少女、天神智影。
美女にして銃器と格闘の達人、市松巳夜、そしてごく普通の少年、火野咲一。
彼女たちの元に、ある日届けられたビデオレターの挑戦状。
そこに映っていたのは、謎のサムライ、神谷真十郎と、金髪碧眼の英国人メイド、ケイ・シーガルを
従える日英ハーフの少年、右京之介・オスカー・紫文字。
彼こそは、天神影太郎の宿敵、伝説の怪盗、紫文字右京の末裔であった。
豪華客船上の美術展で行われる「智の決闘」の行方は……?

キャラクター解説

基本的に本作のキャラクターは、プロットの必然的構図から逆算して作ったものです。
「うらばなし」にも書いていますが、ライトノベルというジャンルに、リアリティ云々などの、
一般ミステリが持つ煩瑣な部分を排除しつつ、ミステリ性を持ちこむ方法論として、
探偵チーム、怪盗チームの知略バトルという形式でミステリ性をからめていく方向を狙いました。
で、トリックとメインプロットを組み立てつつ、互いのチームを
頭脳派のリーダー、主に戦闘担当の補佐役、特殊能力系で固めていきました。

(探偵サイド)
天神智影
実は、なにげに一番苦労したキャラクターです。
当初は、典型的なホームズタイプをそのまま女の子にしたようなキャラを考えていたのですが
なかなかイメージが固まらず、したがって筆も進みませんでした。
そもそも名探偵という存在が、根本的に矛盾をはらんでいます。
例えばありがちな連続殺人ものだと、探偵役が犯人に振り回されるただの間抜けにしか見えず、
どれだけ切れ者ぶってもこっけいなだけという難点があります。
かといって、どんなトリックも一瞬に見抜いてしまう真の名探偵だと、今度はストーリーが
成り立たなくなる。現に御手洗潔氏は、新作のたびにどんどん出番が減ってったりしてます。(笑)
で、そのあたりをライトノベル的にアウフベーヘンする方法として、
「謎自体は一瞬で解いてしまうけど、説明を忘れる天然ボケ探偵」という方向で固まっていきました。
こういう、一般ミステリでは使えないような非常識なキャラを登場させられて、
なおかつ、その特性をミステリ性にからませたりできるのは、ライトノベルの利点です。
ネーミングは、先に設定が決まっていた天神一族の苗字に、影太郎から一字を与えて決めました。
あと、鼻眼鏡は、キャラ的なアクセントとして、単純なめがねっ娘ではありがちなので、
エラリィ・クイーンを意識したものをかけさせてみました。

市松巳夜
アクション担当の拳銃&カラテ使い。
初期イメージとしては、上下ジーンズの衣装、例のセリフを連呼することでもお分かりの通り、
「太陽にほえろ」のジーパン刑事・柴田純(松田優作)の女の子版をイメージしたのですが、
あと、熱血豪快キャラの雰囲気として、「三匹が斬る!」で役所広司演じる千石こと久慈慎之介、
(「素浪人ポニーテール」に千石のイメージをこめました(笑))
巨悪を憎み弱きを助ける熱血漢の部分に、杉良太郎「新五捕物帳」の駒形の新吾や、
そのマル秘現代版(違う)「大捜査線」の加納明のイメージが入っていたりします。
そのうち、「君は人のために死ねるか」とかいいだすかもしれません。(うそ)
で、最初は単純な熱血少女のイメージだったのですが、智影のキャラが固まったことで、
自然に常識的な判断力に優れた実質的リーダーというポジジョンにおさまってくれました。
ネーミングは、「必殺仕置屋稼業」の市松に、「新・必殺仕置人」の巳代松。
こうやってみると思い切り適当な名前ですな。(苦笑)

火野咲一
いわゆる典型的ワトソン君のポジションです。
作劇的には、本人も気づかないうちに事件の核心に迫り、読者に伏線を提示する役割でした。
ちなみに本作の初稿版では、特に視点人物が存在せず、完全な三人称神視点で淡々と各シーンを
描写していたのですが、編集さんの、「読者が感情移入しやすいよう、ある特定キャラの視点を
中心に話を進めてほしい、一番の普通人である彼が適当ではないか」とのご意見で、
全体をほぼ彼の視点中心に改稿、出番も大幅に増量することになりました。
ある意味、編集さんのおかげで一番得をしたキャラといえるかもしれません。
この改稿のおかげで、初稿版にはなかった新たな伏線の挿入や、彼の目線を通した各キャラの
掘り下げもできたので、作者としてもありがたいアドバイスだったと思っています。
ネーミングは、「新・必殺仕置人」「必殺商売人」に登場する正八(火野正平)から。
苗字も役者さんからそのまんまいただきました。
キャラ的には西順之助に近い気もしますが、まあいいや。

(怪盗サイド)
右京之介・オスカー・紫文字
物語の一方の主人公、というより、初期設定では彼のほうがメイン主役なイメージでした。
事件、すなわち物語を起こす存在のほうがアクティブに描けるのは、ミステリの宿命でしょうか。
ネーミングの由来は、映画「必殺4・恨みはらします」の悪の華、奥田右京亮(うきょうのすけ)から。
智影にもいえることですが、頭脳派とはいえ完璧すぎるキャラクターでは面白味がないので、
間の抜けた面を入れようと思い、時代劇オタクの勘違い日本通という面を付与してみました。
というわけで、彼の言動には時代劇ネタが満載になっています。いまの若い読者様に
どこまで理解してもらえるか心配ですが。(汗)
そのうち余裕ができれば、作中の元ネタ一覧表でも作ってみたいと思います。
余談ですが、彼の電磁組紐(仮)、一方の主役にして策略家というだけでは、いまいち弱いので、
なにか特殊能力がほしいと思いながらいい案が浮かばず、別の話に使うつもりだった必殺技を
流用しました。もし別作品で似た技の使い手が出てきたら、そのときは大目に見てやってください。

神谷真十郎
右京のボディーガード&チームの副長的ポジション。
右京が時代劇オタクということで自然におサムライ様になった……のですが、探偵サイドの巳夜が
拳銃使いの美女ということで、相棒にガンマン、サムライ、あとナイスバディ美女が登場する、
あの超高名泥棒劇画&アニメとキャラかぶってしまうかと、ちょっと悩んだりもしました。
で、忍者にするとか、同じ侍でも柔術や鎖鎌などの使い手にするなどのヒネリも考えましたが、
どうも違和感が残り、まあ、これぐらいはよくある範疇だろうと開き直ることにしました。
ネーミングの由来は「必殺仕掛人」の「地獄花」「仕掛けに来た死んだ男」に登場した神谷兵十郎。
キャラ的には、西村左内の実直さが近いかな、と思われます。
あと、右京とのかけあいで「暴れん坊将軍」初期シリーズの上様&加納五郎左衛門みたいな
ほのぼの主従の雰囲気が出せれば、とか思ってます。

ケイ・シーガル
特殊能力系のポジション。
作戦遂行上、邪魔な存在を傷つけずに排除する役割として、元暗殺者で針と催眠の能力。
そこから、能力と外見のギャップを狙って可憐な女の子、英国貴族に仕えるのでメイドという
設定になりました。まあ彼女の能力、ひとつ間違えればなんでもありになってしまいますが、
その辺はご主人様がフェアプレイ宣言をしているのと、作者自身も能力を使ったシーンは
はっきりわかるよう明示してありますので。
あと、メイド萌えとかあるようですが、私自身はそういうのよくわからない、
というかぶっちゃけ興味ないので、あんまり気にしてはいません。
私としては、外形的要素どうのこうのより、人物的に味のあるキャラが書ければ
それでいいというスタンスですので。
ちなみにネーミングの由来は、「必殺仕事人・激闘編」24話に登場した
敵サイドの仕事人「かもめのお景」からいただきました。

(その他)
天神彦六
元々は、探偵サイドに、警察と同格の捜査権限を持たせるために立てた設定から生まれた
一族長老にして探偵チームの後見人という役割です。
ネーミングは、「必殺仕置人」で、仕置人チームを後ろから支える大親分「天神の小六」から。
というか、実は天神一族の「菅原道真の末裔うんぬん〜」という設定も、まずこの名前がありきで、
天神→菅原道真という連想から思いついたものだったり。(爆)
イメージとしては飄々と枯れたおじいさん、というところです。
「必殺仕事人」の鹿蔵元締こと中村鴈次郎さんや、「暴れん坊将軍」初代じい、
有島一郎さんのイメージですか。

天神影太郎&紫文字右京
当初は、特にイメージのない設定上だけの存在でした。
ところがキャラデザインの際、きゆづきさとこ先生が、
天神影太郎=智影+咲一のイメージで、線の細い明治書生風の青年。
紫文字右京=右京之介+真十郎のイメージで、不敵に微笑む美形怪盗。
というデザイン画を描いてくれたおかげで、逆に作者側のイメージが固まってきました。
思わず、影太郎VS初代右京の正統派浪漫活劇探偵小説を書きたくなったぐらいに。(笑)
実際の口絵ではシルエットだけになったのが残念ですが、いずれ機会があれば、
この二人のエピソードなども書いてみたいと思ってます。


(うらばなし)
この作品、アイデアは以前からあったのですが、どちらかといえばマンガ原作かアニメ向けの企画だと思っていました。
というのも、もともとの出発点は、マンガというジャンルの長所を失わず、それなりにきちんとミステリ性をからめたものができないか、
という発想だったのです。
などというと、いまどきマンガでもミステリなんてたくさんあるだろう、という声が聞こえてきそうですが、どうも私自身が好きなだけに、
その手のものにあまり満足できたことがないもので。
一口に推理マンガといっても、作品単位、エピソード単位で見ればなかなかの良作もある一方、困った作品となると、主人公が探偵で
殺人事件が起きるなどミステリのガジェットを並べるだけで、肝心の内容がミステリになってなかったり、名探偵のはずの主人公や
プロのはずの警察官が、小学生でも一瞬で見抜けそうなトリックに大騒ぎしてたり、あと一見よくできた作品のようで、
肝心のトリックが名作のパクリだったりと……
さすがにそういうものは最低の例としても、トリックはそれなりに成立していても、犯人がそのトリックを使う必然性がなかったり、
単独犯のはずの犯人が、準備段階を含め、一個人ではまず不可能な大仕掛けを用意していたり、推理以前に現代警察の鑑識技術なら
一瞬で判明するはずのトリックだったり(時代背景を過去にするとか、警察が介入できない舞台設定を導入するなら話は別ですが)と、
そういう穴があればミステリとしては問題ありなわけです。

ミステリ性の中核部分を別としても、作品内リアリズム、作品世界のバランスの問題もあります。
一応、現在に近い時代設定で刑事事件を取り扱うミステリとなると、その時代の警察の捜査能力、鑑識能力を踏まえる必要があります。
端的にいって、現代警察の能力や捜査体制をまともに考証すれば、よほど状況設定に工夫しない限り、素人探偵が犯罪捜査に乗り出す
余地なんかなくなっちゃうわけです。(笑)
また、主人公を素人探偵の立場においた場合、当然、よほどの非常時でもない限り法に則った活動が求められるわけで、
あまり常識のワクを超えた活躍ができなくなるという、マンガ的=キャラクター作品的な観点からの難があります。

まあ、特に少年マンガなどになると、対象年齢的に、トリックにしろリアリズム考証にしろあまり小難しいことができない。
また逆に、現実の警察制度や法律、法医学的な考証をきっちりやりすぎても、マンガというジャンルが本来持つ
なんでもありの破天荒な面白みが減殺されてしまうという事情ももちろんわかるんですがね。
それでもミステリで、上記のような細かい、しかしある意味ではメイントリック以上に重要な部分がいい加減に処理されていたり、
マンガ的な逃げの手を売っていたりすると興ざめしてしまいます。
そこで、物語の大前提にマンガ的な設定を導入することにより、マンガ的な「なんでもあり」の面白さを損なうことなく、
なおかつミステリ要素については作品世界なりに筋を通せる世界を作ることで、上記の二律背反的な難点を解消する狙いから、
法制度の枠を超える権限を与えられた探偵チームと、フェアプレイに則った犯行を行う酔狂な世界的怪盗の知的対決を縦軸にして
キャラ同士の関係性そのものがミステリでいう孤島、嵐の山荘といった舞台の代替物になりうる設定を組み立てていったわけです。

こういう設定にしても、ミステリ好きの感覚からすれば、リアリズムの問題に対する安易な逃げの姿勢に思えてしまうのですが、
そのあたりは、あくまでジュニアノベル向けにカスタマイズした変化球として割り切ることにしました。
実際、いざ書いてみれば、こういう飛躍した設定だからこそ成り立つミステリ的なプロットのひねりや仕掛けを挿入しつつも、
現実ベースの素人探偵ものでは難しい、常識無視の痛快ストーリーが導入できるという利点を再確認できましたし。

少々堅い話になってしまったので、作品に関するネタ話を。
元々の企画意図もあって、ストーリー的には、痛快アクションをふんだんに盛りこんだ明朗娯楽時代劇風テイストを狙いました。
というわけで、作中にもいろいろと時代劇ネタを盛りこんでいます。我こそは時代劇通なり、と自認する方は、ストーリー以外にも
小ネタ探しを楽しんでいただければ幸いです。
実は、初期タイトル案も「からくり右京トリック控」といって、知る人ぞ知る 某カルト時代劇のパロディでした。
このタイトル案からもわかるとおり、作者としては元々は右京側をメイン主役に考えていたんですが、eb!編集Kさんの
「タイトルが時代劇みたいで地味」(いや、こっちはそれを狙ったんですが)という意見もあり、いくつか考えたタイトル候補から
「快傑!トリック☆スターズ」というものに決まりました。
(ちなみに、一部の刊行予告などで、タイトルが「怪傑!」となっていたのは、このあたりの混乱から来る間違いですね)
この正式タイトルは、これはこれでメインの六人全員を包括するニュアンスが出せるので、作者も気に入っています。

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