「わが谷は緑なりき」 (1941年) How Green Was My Valley
               〜たとえ死の陰の谷を通るとも
                 
 
監督:ジョン・フォ-ド
 原作:リチャード・レウェリン
 撮影:アーサー・ミラー
 音楽:アルフレッド・ニューマン
 出演:ウォルター・ピジョン、モーリン・オハラ、ドナルド・クリスプ、ロディ・マクドゥエル、アンナ・リー、ジョン・ローダー、サラ・オールグッド、バリー・フィッツジェラルドほか


 1941年アカデミー賞 6部門受賞(作品賞・監督賞・助演男優賞(ドナルド・クリスプ)・撮影賞・美術賞・室内装置賞) 5部門ノミネート(助演女優賞、脚色賞、劇映画音楽賞、編集賞、録音賞)
 1941年ニューヨーク映画批評家協会賞 監督賞受賞
 1951年キネマ旬報ベストテン第3位


 リチャード・レウェリン原作のクリスチャンの日常を描いた傑作です。
 舞台は、イングランド・ウェールズ地方の谷あいにある炭鉱の村。折からの炭鉱不況の中、炭坑夫の一家の生活を通して家族関係、夫婦愛、親子愛、隣人との人間関係がほのぼのと描かれていきます。また、学校でのいじめや体罰、隣人に対する中傷などが織まぜられ、今日の日本の状況にも似て考えさせられます。

  冒頭、村人たちが賛美歌を歌いながら仕事に出かけていきます。

うるわしき 主のみこころ
おん手により 我は行く
み苦しみ 忍びたもう
導き主よ いつの日か
胸深く 刻みませ

 途方にくれた炭坑夫の父親が、息子に旧約聖書「イザヤ書55章」を読んでもらう場面、新天地を求めて旅立とうとする長男へのはなむけとして読まれる場面など聖書が読まれるシーンがいくつかあります。
 また、食事の時末っ子がいきなりパンに手を出すと、家族の目が注がれ子どもがしまったと思い手を引っ込めると、父親が祈りを捧げて食事が始まるという微笑ましいシーンなど、聖書と祈りが日常生活の中に溶け込んでいる様子がさりげなく描かれています。

 神への信仰の思いと、その一方で、経済的に満たされない中に生じる人間的な思いわずらいとが交錯して、誰の人生にも経験する試練に会った時の弱い人間の姿が描かれていて、とても親近感が感じられます。

 監督ジョン・フォ-ドは西部劇の神様と呼ばれるほど。ジョン・ウエインを一躍スターにした傑作「駅馬車」をはじめ、「黄色いリボン」などの騎兵隊三部作や、主題歌「いとしのクレメンタイン」が大ヒットした「荒野の決闘」等の西部劇名作を数多く生み出しました。その作品群は、映画に彩りを添える素晴らしいテーマ音楽とともに、今も記憶に鮮明に残っています。また、フォード作品には、「男の敵」や「怒りの葡萄」「わが谷は緑なりき」などに描かれているように、人間の弱さを真っ向から見つめながら常にあたたかいまなざしが感じられます。家族やその人間関係の中に、「愛」を根底に据えたこれらの作品は、いつまでも褪せることのない珠玉の名品です。



映画の中で読まれる聖書の箇所です。
(旧約聖書 詩篇23篇より)
 「主は私の羊飼い。私は、乏しいことがありません。
主は私を緑の牧場に伏させ、いこいの水のほとりに伴われます。
主は私のたましいを生き返らせ、御名のために、私を義の道に導かれます。
たとい、死の陰の谷を歩くことがあっても、私はわざわいを恐れません。あなたが私とともにおられますから。あなたのむちとあなたの杖、それが私の慰めです。
私の敵の前で、あなたは私のために食事をととのえ、私の頭に油をそそいでくださいます。私の杯は、あふれています。
まことに、私のいのちの日の限り、いつくしみと恵みとが、私を追って来るでしょう。私は、いつまでも、主の家に住まいましょう。


(旧約聖書 イザヤ書55章より)
 「……主を求めよ。お会いできる間に。近くにおられるうちに、呼び求めよ。
悪者はおのれの道を捨て、不法者はおのれのはかりごとを捨て去れ。主に帰れ。そうすれば、主はあわれんでくださる。私たちの神に帰れ。豊かに赦してくださるから。
 「わたしの思いは、あなたがたの思いと異なり、わたしの道は、あなたがたの道と異なるからだ。
 天が地よりも高いように、わたしの道は、あなたがたの道よりも高く、わたしの思いは、あなたがたの思いよりも高い。雨や雪が天から降ってもとに戻らず、必ず地を潤し、それに物を生えさせ、芽を出させ、種蒔く者には種を与え、食べる者にはパンを与える。
 そのように、わたしの口から出るわたしのことばも、むなしく、わたしのところに帰っては来ない。必ず、わたしの望む事を成し遂げ、わたしの言い送った事を成功させる。
 まことに、あなたは喜びをもって出て行き、安らかに導かれて行く。山と丘は、あなたがたの前で喜びの歌声をあげ、野の木々もみな、手を打ち鳴らす。いばらの代わりにもみの木が生え、おどろの代わりにミルトスが生える。これは主の記念となり、絶えることのない永遠のしるしとなる。……」



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