「私と加藤氏の作品はね、諸君、非常に酷似しているんだこれが。自己超越性すなわち
超時間性というものが、自己の中で常に癒着している。それに芸術なんて無意識の領域
が非常に大きい!どんなに意識的に創作しても、無意識の領域が非常に多い。
”3LDK2500万”なんて曲は、加藤氏の肉体と精神を解剖したところで、癒着状態が見
極められられないぐらい癒着しているんだ。仕方ないね」
小説家・M氏
「ああ、知ってるよ。加藤久雄ね。浜川崎にいた奴だろ。俺が仕事を教えてやったんだ
よ。音楽...へえ...まぁ、うわさには聞いていたけど、それでどうなんだい、上手いのか
い歌...」
倉庫業・S氏
「デカダンなんです、この人。市井の一市民を装っていますけど、本当は、デカダンな
んです」
職業不詳・M子
「いやねェ、あっしも長いこと商売して、あっしのことを歌にしてくれたなんて、嬉し
いじゃないですか。えっ、あっし、へェ、そこの角でね、ラーメン屋をやっている、し
がないオヤジなんですがね...これがまた、へヘへ...高橋英樹を殺しちまう役なんですが
ね...えッ、ご冗談を、もちろん歌の中ですョ。いやいや、まいりましたョ。まァこれで
加藤さんのCDが売れて、ついでといってはなんですが、あっしの店にも客が入ってく
れればなんて、エッ、そいつは虫がいいって...こりゃ、どうも」
あるラーメン屋店主
「ママ、デカダンって、どんな怪獣?」
S丸・7才
「羅列した社会への違和感、日常生活、予定調和の人生への無意義、窮屈さを唄いつ
つも、本当はこの人、そんな人生が好きでむしろ愛着さえ持ってるんだがやァ」
パンクロッカー・S氏
「先生が好きなものは、鰯の丸干しにゴダール、川端康成、フランシス・ベーコンに、
愛車での昼寝とディランかな。でも一番好きなのは、ビールよね」
前出パンクロッカーその妻
「聞く人に対して安易に同調を求めないでどうぞ勝手に、という姿勢が、もちろんライ
ヴでもそうなんですけど、そんな姿勢というか距離感が大人なんですよ」
お笑い系タレント・M氏
「生とか死というのは、あまり重要なことではない。特に死は、極めて社会的、医学的
な意味でしかない。大切なのは、君にとって”存在”しているかいないかだ。カモメで
昼寝している猫で、君の前を横切る雑種犬で、ツバメで、冬の紋白蝶で、
僕は存在している」
縄文人
以上は、待望の加藤久雄「(未完成の)君のことを唄おうとすれば言葉は君を知らな
さすぎる」(注1)を、ホロ酔い気分で聞いていた私は不覚にも惰眠をむさぼり、模糊
とする神経、そして夢幻の中で聞いた加藤評である。惰眠といっても、私はその間、確
実に生きており、脳細胞もすこぶる健康であった事は事実である。かくして夢の中で聞
いた様々な言葉は私の真実である。
そしてこれから聞く人も、聞いた人も、ここにある10曲は、加藤久雄氏のほんの一
部であり、アンティーク調の加藤氏の収納箱には、まだまだ未知の作品が無造作に、い
や割と丁寧に整理されて潜んでいるのである。
そのタイトルの一部を羅列すると
彫刻家の死
癒着の理論
アプリコットハーブ
君の影、僕の灰
ああ美しき哉、世界は
ウタの唄
そばにおいでよ
などざっとこんなもんである。
詩が先行する訳でもなく、唄が出しゃばる訳でもなく、その両方の一体感こそが加藤
久雄のライヴである。
ともかく、こういう音楽が聞ける事は、幸せなのだ。
山坂 祐治
03.12.15.
(注1) アルバム「痕跡という唄」は当初上述のタイトルであった。
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