朝鮮時代最古の小説「금오신화(金鰲新話)を読む

만복사저포기(萬福寺樗蒲記)

   

「금오신화(金鰲新話)全5篇の第一話が、この「만복사저포기」(萬福寺樗蒲記)である。
時代は신라시대(新羅時代)、전라도(全羅道)남원(南原)にある만복사(萬福寺)という寺に、양생(梁生)(ヤンセン)という若い独身の男性が一人で住んでいた。
この男性が、この小説の主人公である。
ある日、양생(梁生)はお寺の仏様の前に行き、「저포놀이(樗蒲(チェポ)の賭け)をしよう。もし、自分が勝ったら、美しい女性を世話してください」と頼んだ。男は、賭けに勝った。すると、そこに若い女性が現れて、양생(梁生)は、その女性と愛し合い、縁を結ぶことになる。
やがて、娘は、양생(梁生)を連れて、自分の家がある개령동(開寧洞)に行き、そこで3日間、一緒に過ごす。
だが、3日たつと、娘は「ここでの3日間は人間世界では3年に同じです。これでお別れです。」と言い、親戚の女性たち4人を呼んで、別れの宴を開く。
全員がお互いに詩を詠みながら、宴を進める。
もちろん、漢詩であるが、何か、日本の平安朝時代を彷彿とさせるような詩の世界は、おもしろく、女性たちの知性と教養とをうかがわせる。
別れに際して、女性は、양생(梁生)に一枚の銀の器を渡し、これを持って、自分の両親に挨拶してほしい、と頼む。両親は、この器を見て、3年前、娘を葬ったとき、一緒に埋めたものだ、と言って、二人に大いに食事のご馳走をしてくれた。
その後も、양생(梁生)は一人で暮らしていたが、あるとき、天から娘の声が聞こえ、「私は、男に生まれ変わりました。」と言って消えてしまった。
양생(梁生)は、独身のまま、지리산(智異山)にこもり、薬草を採りながら暮らした。いつ、どこでこの世を去ったのか、知る人は誰もいない。

この小説は、もちろん、伝奇小説ではある。しかし、単に「伝奇小説」という性格だけではなく、「人鬼交驩說話」的なもの、「屍愛說話」的なもの、などが、複雑に絡み合って、この世の人とあの世の魂の結合という伝奇性を際立たせていると言える。
この「金鰲新話」(금오신화)の5編全体にいえることであるが、中国の전등신화(剪燈新話)の影響を色濃くもっているものといってよいだろう。

決して易しい韓国語ではないから、中級者が読むには、骨がおれるであろう。しかし、韓国文学史上、最初のの小説であり、その後に及ぼした影響も大きいことを考えれば、必読の作品であるといって過言ではない。

(注)저포(樗蒲)(チョポ)というのは、百済時代の遊びの一つである。木で作ったサイコロのようなものを投げて、出た点数で勝負を争うゲームである。ユンノリと似ている。