大人のための韓国の童話

콩나물시루(大豆もやしシル)

   

「콩나물시루」(大豆もやしシル)という表題のこの本は、韓国の詩人であり作家である양명호(ヤン・ミョンホ)の短編小説集である。
この本には、양명호の短編小説ばかりが、8編収められている。

*어느 노부부의 독백(ある老夫婦の独白)
*콩나물 시루(大豆もやしシル)
*비(雨)
*인연(縁)
*설날(正月)
*해후(めぐり合い)
*봉구총각(ボング青年)
*봄(春)


どの短編も、すべて、美しく哀しい愛を描いた作品である。男と女の愛、親子の愛、家族の愛、友だちの愛・・・さまざまな愛が描かれているのだが、どれも優しくて、辛抱強くて、しかし惨めで悲しい。
読んでいて、やりきれない切ない気持ちに襲われてしまう。
양명호という作家は、どうして、こうまでに、愛にこだわって、愛のための小説を書いたのだろうか・・・

この本の末尾に”작가 흐기”(作家後書き)がある。その最後のフレーズに書かれている、次の一節が印象的である。

마치 너무나 계산적으로 이루어지는 오늘날의 사랑에 대한 반대급부인 양.

つまり、「まるであまりにも計算づくで成り立っているこんにちの愛に対する反対給付であるかのように・・・」と、言っているのである。
だが、それは、ある意味で、作家양명호の、愛のファンタジーに過ぎないであろう。
愛が、すべて、客観的に、そうであるかどうかはわからないし、また、この本に収められているこの作家の作品が、ほんとに、”計算づくで成り立っているこんにちの愛に対する反対給付”かどうか、わからない。それは、それぞれの価値観に基づいて判断されることであろうから・・・・。

ともあれ、この小説が、「大人のための童話」というジャンルに相応しいのかさえ、いささか疑問を感じざるを得ない。救いは、”大人のための・・・”という形容句がついていることである。

この短編集は、8編のすべてが、非常に読みやすい。韓国語中級クラスなら、辞書なしでも、ほとんど、すらすら理解できるであろう。文章も平易であるし、取り扱っている材料が「愛」という普遍的素材であるからであろう。
日本語の翻訳書はない。韓国語の原文は、日本でも、容易に入手できるので、ぜひ、韓国語での一読をお薦めしたい。
因みに、「콩나물시루」の”시루”というのは、「甑(こしき)」すなわち「蒸し器」の意味である。この甑の中で、大豆もやしを育てる、ということである。
下に、甑の中で育てている大豆もやし、つまり「콩나물시루」の写真を掲げておく。


(콩나물시루)