大人のための韓国の童話

연어(鮭)

   

小説「연오」(鮭)は、韓国の詩人・小説家である안도현(安度眩)が、1996年に発表した作品である。
안도현(安度眩)(アン・ドヒョン)は、1961年12月、韓国경상북도(慶尙北道)にある예천군(醴泉郡)で生まれた。
원광대학교(円光大学)国文科を卒業の後、1981年大邱毎日新聞新春文芸に応募した詩「낙동강」(洛東江)が入選し、文壇に登場することになる。

「연오」(鮭)は、童話のような小説であり、あるいは小説のような童話でもある。
主人公は、一匹の銀色の鮭。しかし、身体が銀色であるがために、他の鮭と違う、という理由で仲間の鮭の群れの中で村八分にされてしまう。
遠い海の彼方から、生まれ故郷の川に向かう群れの中で、一人さびしい想いをしている。途中で、最愛の姉さえも失ってしまう。
それでも、故郷に帰る旅をやめない。何か、夢と希望とを抱いて・・・・。
やがて、目の澄んだ鮭をはじめ、さまざまなものとの出会いによって、銀色の鮭は成長を重ねていく。
広い海から川に入っていく。だが、長い旅は続く。
旅の最後に、主人公は、滝をジャンプして、故郷に向かう道を選択する。人間が作った簡単な脇道を避けた。
滝を上ると、静かな穏やかな流れに変わる。いよいよ最後の場面である。ここで、鮭が産卵を迎えるのである。
産卵が終わると、すべてが次世代に引き継がれるのである。
必死で探し求めて、遠い旅を続けてきた夢・希望とは、何であったのだろうか・・・ いつの間にか、どこかに消え失せてしまったのだろうか・・・
この作品は、作家の繊細な感受性が美しく咲いて、人生における成長の痛みと愛とを、深く透明な視線で描いている。まことに詩的な作品で、読者に人生の本質を真剣に考えさせる鍵を与えてくれるものである。

なお、この作品は、日本語に翻訳されて出版されている。
翻訳本の題名は、「幸せのねむる川」(藤田優里子・訳)で、2003年に青春出版社から出版されている。
韓国語の原文は易しいし、内容もわかりやすいので、中級クラスの方々には、ぜひ、原文で読むことをお勧めしたい。