韓国現代作家の小説

봉순이 언니(ボンスニお姉さん)

   

小説「봉순이 언니」(ポンスニお姉さん)は、韓国の女流作家공지영(孔枝泳)の自伝的小説である。
공지영(孔枝泳)は、1963年ソウル市生まれ、연세대학교(延世大学)卒業後、1988年処女作「동트는 새벽」(日の上る夜明け)で文壇にデビューする。386世代(*)の代表的女流作家である。
「봉순이 언니」(ポンスニお姉さん)は、彼女の1998年の作品である。

この小説は、5才の”私”、即ち짱아(チャンア)の目に映った家政婦、”봉순이姉さん(ポンスニ姉さん)”の人生を描写したものである。봉순이姉さんと私との関係を中心にして、1960年代の韓国家族史の一面を描きだし、合わせて、近代化に落伍し裏路地を歩きつつ、不幸ながら最後まで希望を持って生きて行く봉순이姉さん(ポンスニ姉さん)の生涯を幼い짱아(チャンア)の目線から描いたものである。

ポンスニ姉さんは、貧しい家庭に生まれ、学校にも行くことができず、両親に捨てられて孤児院で育った。やがて、世の中の経済発展と共に、ソウルに憧れ、ソウルに行けば生きていけるとの噂を聞いて上京する。だが、現実は厳しく、結局、低賃金の家政婦の仕事がせいぜいであった。そして、チャンアつまり私の家の家政婦になったのである。
私は、最初、ポンスニ姉さんを”家政婦”としてでなく、家族の一員として考えていた。私の母や父をはじめ家族たちは、可愛そうなポンスニ姉さんに、とてもよくしてくれたが、家族とは考えていなかった。
しかし、私は成長するにつれて、ポンスニ姉さんに対する気持ちは、次第に軽蔑の気持ちに変化していく。

私の家は、家族が貧しい町で育ったのだが、国の経済成長に伴い、父が外国の会社に職を得て、急速に裕福な家庭になっていく。 そして、私の家にとって、もはや家政婦が必要ではなくなり、その結果、ポンスニ姉さんのことが疎ましくなり、それと共に、ポンスニ姉さんに対する態度も変わっていった。やがて、ポンスニ姉さんにとって悲惨な生活を迎えることになるのである。

ある日のことだった。ポンスニ姉さんが、母のダイヤの指輪を盗んだと濡れ衣を着せられた。裸にさせられて調べられ、親と信じていた人から見捨てられた衝撃で、クリーニング店の青年を道連れにして、逃げ出してしまった。
だが、どこといって行くあてのないポンスニ姉さんは、妊娠して戻ってくると、母は、そのお腹の子を中絶させてしまった。
ポンスニ姉さんは、以前のように、家政婦をしようと考えていたが、母は、彼女にお見合いをするように言った。
そして、結局、ポンスニ姉さんは、お見合いをした相手の青年と結婚し、まもなく、子供を授かる。
だが、不幸なことに、結婚した夫は、病気のため、すぐに、この世を去ってしまったのである。

ポンスニ姉さんは、泣いている間もなく、新しい希望を求めて、新しい花を咲かせなければならなかった。
だが、母は、せっかくの、ポンスニ姉さんの花を、折り捨ててしまったのである。
ポンスニ姉さんは、もはや、帰ることもできず、母もまた、帰ることを許すことなく、とうとう、決別のときを迎えるのである。

母は、ポンスニ姉さんに対して、自分が必要なときには、思い切りこき使うが、ひとたび必要がなくなると、追い出してしまったのである。
あたかも、幼い子供が夢中になって遊んでいた玩具を、興味を失って投げ捨ててしまうように、母は冷酷であった。
これが、ポンスニ姉さんの人生である。


(*)386世代:1990年代に30台で()、1980年代に大学生で学生運動に参加し()、1960年代生まれ()の世代を指す名称。