韓国の若い女性たち

自立心に燃える

   

1997年のIMF危機(アジア通貨危機)を契機に、韓国の雇用情勢が急速に悪化していく。正規社員が減少し、非正規従業員があふれてきた。現在では、非正規で2年の雇用を超えると、正規社員として採用しなければならないという法律があるから、企業側は2年直前に、雇用契約を打ち切ってしまう。
著しく低い給料で、劣悪な条件下での非正規雇用を繰り返すのである。
世にいう”88万ウォン世代”という人たちである。大学を卒業しても、非正規従業員として働き、月給がわずか88万ウォン(6万円程度)しかない、ということだ。
これは、正規従業員の月給の6割程度である。

そうでなくとも、不安定な女性の雇用の地位は、驚くほど低い。
高校まで卒業して、これ以上、親の脛をかじることはできないから、アルバイトでも、非正規でも、何でも、仕事をさがさなければならない。女性にとっては、まことに、辛いことである。
ようやく、非正規の仕事があったとしても、法律無視の過酷な労働が待っている。女性であれ、だれであれ、遅くまで残業はあるし、徹夜もある。
拒否したら、仕事を失ってしまう。
尤も、仕事の内容を問わなければ、非正規の仕事は、結構あるらしい。殊に、最近のITブームにのって、IT業種の仕事は、いくらでも、ある。
だから、彼女たちも、1年半くらい働いては、また、少しでも条件の良い、次の職場を探す。

少しでも、この地獄から抜け出すには、何か、資格をもって、自分を有利に売り込むのが、一つの方法である。
資格にもよるが、結構、よい条件の職場がみつかる場合もあるようだ。
いろいろな資格があるが、人気のあるのは、「英語」「中国語」「日本語」などの語学や、「Webデザイン」などのIT関係の仕事などであるという。
韓国には、학원(学院)(塾)という学校が、実にたくさんある。どこかの학원(学院)に顔を出してみると、何でも、勉強することができるようになっていることがわかる。
彼女たちは、昼間は、会社で働いて、夕方退社してから、資格を取得するために、こういう학원(学院)に入学する。
授業は、大抵、1回1時間であり、語学だと週に3~5日通学して、月に10万~15万ウォン程度の授業料である。
夕食を食べる時間もなく、とりあえず、疲れた身体で、勉強に集中する。

人気のある外国語の講座を見ると、1年間くらい通って、一生懸命勉強すると、日本語の能力試験の中級程度の資格を取得することができる。
しかし、日本語で、有利な職を得ようとするならば、日本語能力試験N1という最高レベルの資格を取得しなければならない。
韓国では、中学校くらいから、学校で、日本語を教える授業があるから、高校生で、このN1を取得している生徒もいる。
若者なら、中級レベルの資格は、たくさんの人がもっているから、就職するには、ほとんど価値がない。
N1は、日本人が受験しても、合格が難しいと思うほど、難問が多いから、韓国の女性にとっては、容易ではない。
しかし、頑張って、N1の資格をとって、月給300万ウォン以上の職場に就職できた人も知っている。

もう一つ人気の講座は、Webデザイン関係のITの講座である。
Photoshopで画像処理技術を勉強すること、Dreamweaverで、ホームページの作成技術を勉強すること、などのほか、Macromedia Flashでflashの技術を勉強すること、など、次々と勉強して、Webデザインの資格をとり、IT分野の職場を求める人たちは、非常に多い。
韓国では、IT関連は、会社や仕事も豊富だし、女性にもとっつきやすいから、非常に人気がある。
実際、資格をとって、プロとしての道に入ると、300万~400万ウォンを超える収入も夢ではないが、それだけ、過酷な頭脳労働の世界でもある。納期に追われて、徹夜も厭わない体力と情熱とが必要である。
毎日、朝8時から、夜11時過ぎまで、働いている人もいる。毎日、4~5時間の残業をするから、収入も実に多い。

こうして、彼女たちは、とにかく、自分の能力を使って、安定した収入を得て、自分の力で生き抜いていく道を、切り開いているのである。
30才前には、よい相手をみつけて結婚し、家庭の主婦におさまりたい、という人も、もちろんいるだろうが、それよりは、男性に頼ることなく、自分の力で生きていく土台を作っておきたいのである。
自分の能力を生かした仕事をしながら、何ものにも束縛されることなく、余暇を自由に過ごし、充実した生活を送りたいのである。
韓国は、男性にとっても、厳しい国である。昔と違って、終身雇用が一般的ではなくなってしまった。
それでいながら、いったん、職を離れると、再就職の道は、容易ではない。
それまでの経験や能力に基いて、より条件のよい職場をさがす、ということは、至難の国である。
ちょうど、子供の教育にお金がかかる40代に、解雇されてしまうことが多い。
同期の仲間が昇進すると、先行き不安から、自発的に退職してしまう男性も多い、と聞く。
こういう男性たちの中には、自ら起業して、”社長”におさまる人も多い。何しろ、韓国は、”肩書き社会”である。
”社長”という肩書は、自尊心という何のプライドを保つには、格好のものである。
しかし、そういう起業がうまくいくとか限らない。夜ほどの基盤がない限り、大抵は、挫折してしまう。
女性から見ると、そのような現実に、将来の自分をさらしたくない、という気持ちが強いのは、一理ある。

かくして、若い女性たちは、能力を磨き、金になる資格を取得し、よい仕事を得て自立することに、全力を傾ける。
その結果、何よりも、「自由」を謳歌することができる。
結婚は、絶対的なものではないし、万一、結婚しても、子供に自由を奪われたくない、という気持ちもある。
自分で稼いだお金を、自分で自由に使い、人生を楽しむ知恵を持ち合わせているのである。
お金を貯めて、若くして、自分の家をもった女性もいるし、アパートを1棟買い取って家賃収入で、豊かに生活している女性もいる。
若いときに苦労して、勉強し、資格をとって、自立する道を選んだ女性たちの特権なのであろうか。